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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
37/107

協力

「初日活動日から思ってたことなんだけど、クリスティナローラさんてなんか違和感漂わない?」

「違和感?」

「そう。なんか、あたしたちに隠しておきたいことでもあるみたいで…」

「誰にだって守りたいプライベートはあるだろう」

「そんな気軽な話じゃなくて…なんて言うかな…もっとヤバいことを考えてるみたいな」

夕莉の物言いに、ライオネルは眉をひそめた。

「…あれがまるで悪者だとでも言いたげだな」

「そんなのじゃない! ただ、ライオネルさんとかガルフォンさんと違ってあの人は、仕事の時以外は基本一人じゃん。何か隠しごとがあって必要以上にあたしたちに関わってこない気がして…」

夕莉の目がライオネルの右手を捉えた。

「ライオネルさんを刺したのも、近寄るなっていう警告…じゃないのかな? 第一そんな危ない指輪を持ってるっていうのがおかしいよ。ワケありな感じがする」

「…」



ライオネルは歓迎会の後の出来事を思い出す。

『距離をはっきりさせておきたいですし』

『このドレスも帽子も一種の隠れ蓑です。私と関わるとどうなっても知りませんわよ』

あの時は、自分に照れた反動でああ言ってかわしていたのだと思っていた。

(まさか、本気…だったのか?)

指輪から出た針よりも鋭かった彼女の視線。切り捨てるような口調。



あれ以来、口調は幾分柔らかくなってきたが、代わりに度々不信感を感じることがあった。

「…そういえば木星人が攻撃してきた日、あれはたった一人で何かを探して廃墟を漁っていた」

「え?」

「何をしているのかと問うても、誤魔化して答えなかったな…私も強引には聞けなかった」

「…」

「お前の言う通りだ。たしかにクリスティナローラは怪しい。何か秘密を抱えてるのかもしれん」

「で…そのことで悩んでるのかも」

「悩んでる?」

「あの人、一人の時によくため息つくから」

ため息。それは見たことがないが、思いつめたような表情をしているのは度々見かけた。



「だからといって何をしてやることもできん」

好きな女のことなのにな、とライオネルは小さく言い添えた。

「無理に聞き出すというのは論外だものな…」

「まあ…しばらくは様子を見るのがいいかもね」

夕莉はふっと息をついた。

「企みって言っても、あたしたちを害するものだとは限らないし」

「夕莉」

ライオネルは自分より身長の低い少女を見下ろした。

「なぜだ」

「え?」

「なぜ、私に相談した」

夕莉は何を言っているのか分からないというように、数回瞬きをした。



「このような複雑な問題は、私ではなくてガルフォンにでも相談すべきであろう。あるいはその方の一番の友であるスピッツか」

「…」

「私に言ったって、何が解決するわけでもないというのに」

自嘲気味に呟く。これは彼自身に対する言葉であった。

惚れた少女に対する誤った見方をしていて、今の今までそれに気がつかなかった。彼女が何か悩んでいるのにも、気づかないままだった。

スピッツは分からないが、他人のことに関しては敏感なガルフォンはとっくに気づいていたのかもしれない。

しかしライオネルは…。

(人から言われて始めて実感するなど…)

リーダー失格ではないのか。

ライオネルは顔を歪めて頭を抱えた。



「…結果は同じだったと思うな。誰に相談してても」

夕莉の一言で顔を上げる。

「同じ…?」

「だって、彼女の悩みの内容なんて何一つ分かってないんだもの。あたしはそれより」

夕莉の人差し指がライオネルに突きつけられる。

「ライオネルさんにこのことを知っておいてもらいたかっただけ」

「私に?」

「そうだよ」

夕莉はゆっくりと頷いた。

「あなたなら、彼女のことを見守れる。いざとなって彼女が救いを求めても、対処してあげられる」

「私はそんな…!」

「というか、それすらできないなら好きになるのやめたほうがいいと思う」

「す、き?」

その単語に、肩がびくんと震える。



「ライオネルさんがクリスティナローラさんのことが好きなのは知ってるよ? あの人のことを誰より気にかけてあげてるしさ。あの時…クリスティナローラさんの怪我が発覚した時だって…」

夕莉が言っているのは、半ば強引に彼女の怪我を自ら治療した時のことだろう。



頑なな態度のクリスティナローラ。いつもならそれに押されて放置せざるをえないのに、あの時は放っておけなかった。

(怪我が悪化して、あいつが辛い思いをするのが耐えられなかったからだ)

別に変な下心もなく、純粋にただそれだけを考えて行動した。



「ほかのメンバーはライオネルさんほど彼女のことを気にかけてないと思う。ましてや守ってやりたいって思う人なんて、ライオネルさんしかいないじゃない? てか、いたら逆に困るよね。…あたしの言ってること、間違ってる?」

「いや…」

首を振り、自分より身長の低い夕莉の顔のあたりまで屈んだ。

(こいつ…大人びてるな)

彼女の顔を見て思った。

黒い目に光るのは真剣な色。口元はぐっと引き締められている。普段、スピッツとじゃれついている少女と同一人物だとは思えない。

「異論ある?」

「いや…」

すうっと息を吸って再び口を開く。

「お前の言ったことは正しい」

「良かった」

夕莉が微笑む。



「というわけで、一緒に彼女のことを見守ってくれる?」

「一緒に?」

その単語に、少しだけ不満を感じる。

「一人でやりたい? でもさ」

夕莉は腰に手を当て、さっきまでとは一転して生意気な様子でライオネルを軽く睨んだ。

「ライオネルさんは男でしょ。だから、彼女の肝心なところには気づかないでしょ。現に気づいてなかったじゃん。そんな時に役立つのが女の勘。女の勘って大事だよ」

「女の勘…な」

一理ある。そして、そればかりはどうしようもない。

「あたしは彼女と同じテントだしさ。ちょっとしたことでも色々分かるんだよ」

「…」

「どうするのさ?」

夕莉の手が、今度は握手するような形で差し出される。迷うことなくそれを握り返した。



「協力して欲しい。それとあまり大ごとにはしたくないから、これは二人だけの話ということにして欲しい」

「分かった。こっちこそよろしくね。暇があったら、今日みたいに会って話を…」

とその時、テントの方へせわしない足音が近づいた来た。

「誰だ?」

「あっと…もしかして」



「夕莉〜。何してんだ? 約束の味付けのじか…」

テントから顔をのぞかせた少年、ハールドがの表情が固まった。瑠璃色の目が握り合った二本の手に向けられたかと思うと、その瞳が揺れた。

(おっといかん…)

「ごめん、今行くよハールド。でも、遅れたからってそんなに情けなさそうに見ないでよ」

何も分かっていないらしい夕莉。ライオネルはあちゃーと頭を抱えた。

「あんたら…何を」

ハールドが向けてくる少々苦い視線から逃れるように、ライオネルは手を振りほどいて慌てて夕莉の背を押した。

「約束なのであろう? ほら、早く行ってくるがいい」

「あ、うん」

「行くか、夕莉」

ホッとした声とともに、ハールドはケープを翻して背を向け、先に歩き出す。夕莉もそれに続きながら、ライオネルを振り返ってブンブン手を振った。

「今からね、ハールドが昼間くれたうさぎ食べるの! 一緒に味付けをやるから、欲しかったら食べに来ていいよ!」

「うさぎ…」



そういえば、ガルフォンももらったと言っていた。

(私にはないが…)

どうやら、ハールドの偏った気持ちであげるあげないを決めたらしい。

(私がうっかり夕莉から分けてもらってみろ。途端に空気の読めない情けない大人になってしまうぞ)



想像してライオネルは少し笑い、それから呟いた。

「なかなか良い性格をしているな、夕莉」

初日活動日以来、ハールドはあまり国賓の四人とくっつかない。いや、それどころか目を合わせようともしない。一人一人とは会話もするようだが、五人で固まるのを極端に嫌がるのだ。

それは今の自分の境遇に不満があるというよりも、なにか神経質になっているようだった。

若干反抗的で勤務意欲の感じられないハールドに寄り添い、ひまな時間を一緒に過ごすのはいつも夕莉だった。ハールドも彼女といるときは楽しそうにしているという。



「…お前の方も、良かったら相談に乗ってやるぞ」

もうすでに、視界から消えた夕莉に向かって言っている。

「ただし、そのためにはまず気づけよ…」

なんのかんのといって、一応夕莉は十六歳です。

少しは大人びた言動をして欲しいというのが、作者の希望です。

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