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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
36/107

考える人

久々の投稿になります!

不意にねずみの目が黄色く点滅しだした。ハールドはギョッとしたが、それでも手は離さない。

ねずみの口がパッカリと開いた。

「今日こそはと命じられたのに…博士、残念です」

「博士?」

ねずみはハールドにおかまいなしで喋り続ける。

「分かりました…でも帰れそうにないです」

「誰と喋ってるんだよ?!」

「とりあえず、126Qモードに入ります…しばらくさよなら」

そして点滅は終わり、ねずみは動かなくなった。揺さぶっても反応がない。

(なんなんだこいつ…)

ハールドはとりあえずそれをケープのポケットにしまっておいた。



その時、また後ろで別の気配がした。

(今日は何回も…)

危険な感じはしないのでゆっくりと振り向くと、そこには黒髪にメガネ姿の少年が立っていた。

「エイザク…」

「こんにちは、ハールドさん」

表情少なめの顔で頭を下げる自分と同い年の少年。なぜか護衛はいない。

「なんの用だよ」

「これを取りにこの辺りをうろついてたら、偶然あなたを見かけたんですよ」

エイザクの手に握られているのは、数本の白い花。

見たことのない植物だった。



「花?」

「ラベスっていう植物ですよ。僕の星にも咲いてます」

「あっそ」

「効用を聞きたいですか?」

「別に」

エイザクは肩をすくめた。

「薬草ですよ。葉の部分煎じて飲むと腹痛によく効…」

「食える、食えないで言うと食えるってことか?」

「説明を遮らないでくだ…はい?」

「食えるのかって聞いてんだよ」

ハールドにとって重要なのはそこだけである。


エイザクは首を傾げた。

「まあそりゃ一応は…でも、食用にする人なんてめったにいませんよ。苦いですから」

「苦くても食えりゃ問題ない。贅沢言ってられないからな」

それだけ言って、ハールドはエイザクに背を向けた。

何事もなかったようにウサギを炙っていた火を消し、肉を切り分けようとして、手元に向けられるエイザクの視線に気づいた。



「なんだよ、話は済んだだろ。とっとと薬草でもなんでも摘んでこいよ」

仕事仲間といっても、ハールドはそこまでチームのメンバーに入れ込んではいない。というかむしろ夕莉以外どうでもいい。それなのに長々話しすぎた。

(それも、二番目に取っつきにくいって思ってたやつとな…)

これ以上は無用と、背を向けてもエイザクは離れない。

「その肉は、うさぎですか?」

「見りゃわかるだろ」

手を休めずに答える。

「あなたが獲ったんですか?」

「…以外にあるかよ」

「とすると、罠でも張って?


罠。ハールドは笑いそうになった。今までそんな手間のかかるものを仕掛けたこともない。

「走ってるのを素手で取り押さえた」

「え…」

「そんで気絶させてから捌いた」

エイザクの目が大きく見開かれた。まさしく驚愕の表情。

(こいつもこんな顔するのか)

いつもは無表情か、さっき植物学を披露したときのような自信たっぷりの顔しか見ないから少し意外だった。



「それにしても素手って…」

「変か? まああんたにはできそうもないけどな」

細身な制服姿のエイザクを横目で見ながら、ハールドは三つに切り分けた肉を一つ一つ葉っぱに包んでいく。

「普通はできませんよ、誰も」

「あんたはそうかもな」

ハールドは三つの包みを持って立ち上がった。

「俺はもう戻る。じゃあな」

一人で何か考え込んでいるエイザクを残し、ハールドは帰途についた。



◇◇

同時刻、ライオネルは三人の仕事仲間と野営地のある砂地のほうへと歩いていた。朝、そこに綺麗な花が咲いていたのを見かけたので、クリスティナローラに摘んで帰ろうと思ったのである。

「それにしてもさあ、ライオネルさんはなんでクリスティナローラさんが好きなの?」

左側からニヤニヤしながら聞いてくるのは、さっきまで鳥を撃っていた夕莉。

「さあねえ。一目惚れ、なんじゃないかなあ。しかも相当な」

口をぐっと引きむすんだライオネルの代わりに、右側から夕莉に返事をしたのは狩りから帰ってきたガルフォン。うさぎを数羽獲ってきて、ライオネルや夕莉に分けてくれたのだ。



「クリスティナローラさん、美人だものね。しかも貴族で上品な感じがするし」

「僕が頷いたら怒られるから、あえて相槌はうたないでおくよ」

「ライオネルさん、怒るの? そんなにあの人のことが好きなんだ〜」

「初対面で好意持ってたからなあ。しかも指輪で怪我させられても惚れたまんまなんだし」

「指輪って?」

「口を交わしたら、針を仕込んだ指輪で刺されたんだってさ。あの時のライオネルは、怒りながらも怒り切れてなかったっけな。どこか楽しそうだったよ」

「針仕込み…」

「それは…相当ですね」

夕莉が押し黙り、代わり彼女の横を歩くスピッツがゴクリと唾を飲み込んだ。

「私なら、まず間違いなくその場でブチ切れます」

「僕も。怒らないほうがおかしいよな」

「ですよねえ。あ、そういえば」

スピッツが何か思い出したように言う。

「私の同僚にもマゾヒストっぽいのがいますけど、そいつよりもライオネルさんのほうがすご…」

「こらあ、その方ら!」



黙って聞いていたライオネルはついに笑いながら大声を張り上げた。

「私がマゾヒストだと?! 馬鹿も大概にしろ!」

「うわわわわ、怒るなよー」

「冗談ですよう!」

逃げようとするスピッツを捕まえて耳を掴み、空中でブンブン振った。

「痛いいー痛いいー」

「痛かろう、これが罰だ! 甘んじて受けておけ!」

「ヒャッハー!」

「やっぱり撤回だな! ライオネルはサディストだ!」

「なんだと、待てい!」



砂地で花を積むのも忘れて、ライオネルはスピッツをいじめ、ガルフォンを追いかけ回した。

…一人困った顔の夕莉を置いて。



ーー

「あの…ライオネルさん」

その日一日の仕事は終わった。

キャンプ地のある砂地にやってきて花を摘むのを忘れていたことをようやく思い出したライオネル。そんな彼を物陰に手招きした夕莉がおずおずと話しかけてきた。

「なんだ、どうした」

「昼間ガルフォンさんが言ってたことで話があるんだけど」

いつになく真剣な表情・口ぶりの夕莉に、ライオネルも思わず表情を引き締める。

「言ってみよ」

夕莉の黒い目が真っ直ぐにライオネルを見る。

「指輪で刺されたって言ってたよね…それ、もしかしてさ…」

「暗殺用の小道具だと本人は言っていたが」

なかなか言葉が出てこない彼女に代わってさらりと言うと、夕莉は小さい声でやっぱりと呟いた。

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