うさぎとねずみ
〈2017年11月22日〉
急な割り込み投稿で申し訳ありませんm(_ _)m
ついでにもう一話割り込む予定です。35話と36話が繋がらないかもしれませんが、しばしお待ちください。
ガルフォンは、町の外れにある森の中を歩いていた。
「あれだけじゃとても足りないよな…」
腹八分にもならない胃袋を軽く叩きながら笑う。
今は昼休憩中。振舞われた食事は、仕事中にふさわしい野菜やベーコンなどの串焼きだった。夕莉が兵士たちと焼いたらしい。
美味しかったし、栄養満点は間違いないが、量が少なすぎた。
(まあ人数が多いから仕方ないんだけど…)
哀しいかな、巨体のガルフォンの胃袋を満たすことはできなかった。
だから今、うさぎが多いと聞くこの森に食料を狩りに来たわけである。一応ゲンネーに許可をとって。
草ぼうぼうのこの辺一帯をぐるりと一周し、ガルフォンは三人の護衛の兵士たちに呼びかけた。
「じゃあ、うさぎを見つけたらここら辺に追い込んでください」
「「はっ」」
二人はすぐに駆け出していったが、最後の一人は疑わしげな表情で足元を見ている。
「落とし穴…ですか」
「はい、そうです」
「それより銃で撃ち殺したほうがいいんじゃないでしょうか」
「弾は無駄にできないと思いますけど?」
「でも落とし穴は確実性に欠けるかと」
ガルフォンが見るに、その兵士は自分と同い年か少し下くらいの若者だった。苦笑しながら説明する。
「うさぎが罠に落ちるように上手く追い込む。そこらへんがミソですよ。こんな森で走って捕まえるのはまず無理ですし」
本当は速足のゲンネーかスピッツを連れて来たかったが、うさぎ狩りに誘うのは気が引けたのでやめておいた。
「それに、落とし穴自体は木で罠を組むより簡単ですよ」
「…上手く行きますかね」
「上手くいったら一緒に食べましょう。美味しいですよ、うさぎ」
それは、ゲンネーやスピッツが聞いたら卒倒するような言葉。心の中でごめんなさいと謝りながらも、にっこり笑って少年兵士にかけてやる。すると彼の顔が嬉しそうに輝いた。
「…そうですね! 楽しみです!」
そしてそのまま、先輩たちに続いて森の奥へと駆け出していった。
「本当は、『楽しい』だけじゃないんだけどなあ…」
徐々に小さくなっていく足音を聞きながら、ガルフォンは寂しげに呟いた。
故郷の星で、畑を食い荒らしていくうさぎを捕まえるために、必死で罠を考えたことを思い出す。
(まずは罠免許を取らなくちゃいけなかったっけ。…最初の方は、罠を作っても作っても全然うさぎを捕まえられなかったな…)
やっとうさぎを捕まえられても、それまでの畑の被害を思うとなかなか美味しく味わうことはできなかった。
自分で取ったうさぎを初めて美味しいと思えたのはいつのことだろうか。
(最近…だったりしてな)
物陰でうさぎの皮を剥ぐ用のナイフを研ぎながら、ガルフォンはため息をついた。
◇◇
うさぎ狩りに来ていたのはガルフォンだけではなかった。
(あと少し…あと少しだ)
瑠璃色の目は地面に座り込んで草を食べる野生のうさぎに向けたまま、這って草むらの中を進む。
故郷の星で鍛えた忍び寄り方。気配はほとんど殺せているはずだ。ハールドは逸る心を抑えつつ、慎重に獲物へと忍び寄っていく。
不意に、草に夢中だったうさぎの口の動きが止まった。不審な気配を感じ取ったか、微妙な音が聞こえたか、あるいは自分に向けられる殺気を感じ取ったか。その赤い目は不安げに辺りを見回し、すぐに今ハールドが潜む草むらに向けられた。
(…ばれたか)
その瞬間、うさぎが脚に力を入れるより早く、草むらからハールドの体が跳んだ。彼にくっついていた草がパラパラと舞い上がっては落ちていく間に、逃げようとするうさぎの耳を掴む。
続いて抱き込むと、腕の中でうさぎがもがいた。
「こら、大人しくしてろ」
いっても聞くはずもない。腹や腕を蹴られて地面で転がりながら、ハールドはうさぎの動きを封じ込もうとした。
「お…」
瑠璃色の眼が、ちょうど近くの手頃な大きさの石を捉えた。どうにか片手を伸ばしてそれを取り、暴れるうさぎのを地面に押さえつけ、その頭に石を振り下ろす。
ゴンッゴンッゴンッ。三回やると、手の中の抵抗が止んだ。うさぎは完全に気絶したらしい。
「さてと…」
ケープの内側のポケットに入っていたナイフで皮を剥ぎ、さばいた後、ハールドは肉を火にくべた。
ここでやっと一休み。肉が焼けるいい匂いを嗅ぎながら、ハールドは近くの切り株に腰かけた。
(夕莉には悪いが、あの量の串焼きじゃちょっと足りないからな…)
それに、ここ何日かの加工された肉の味にもそろそろ飽きていた。そこで監視の兵士たちのみならずライオネルらの目を盗んでこの森に来たのである。
(やっぱり食べるならジビエだよな…)
たった一人で自分の獲物を誇らしげに眺めたハールドは、ふと側に生えた大きな葉をつけた草に気づいた。同時にこんな考えが頭の中に閃く。
(夕莉に持って帰ったらあいつ喜ぶかな…)
彼女はおそらくジビエなんて食べたこともないだろう。それに彼女はそれほど潔癖でも、ベジタリアンでもなさそうだし、食べるのに抵抗はないだろうと思う。
(あとあいつ、多分庶民だしな)
ジビエに対する自星の貴族の冷淡ぶりといったら。
(『血が汚い』とか、『人間の食べるものじゃない』とか言いやがるし…)
自分を見下す彼らの顔に、仲間の一人であるクリスティナローラの顔が重なった。ハールドの初仕事日から数日たった今日まで、ずっと誰に対しても偉そうな彼女。
(嫌なもんだ、貴族は)
つくづくそう思う。ハールドは肉を包むための葉に触った。
(夕莉にやるついでに、ガルフォンにも分けてやるか。あいつも俺と同じく、物足りないって顔してたし)
そろそろ肉も焼けてきた頃だろう。
切り株から立ち上がったハールド。その視界に、突然あるものが入ってきた。
茶色の体をした小さな体のそれは、焚き火の前で走るのをやめてハールドの顔を仰ぎ見た。
(ねずみ…か?)
姿形はまさにそうだが、どことなく不自然な形をしていた。特に脚。野生のねずみにしては細すぎる。
しかし、本当に不自然なのは次だった。なんとねずみが口をきいたのである。
「違う…。この人じゃない」
「!」
驚いたハールドはとっさに地面に飛びつき、ねずみを捕まえた。
「離せ、離して、お願いです、離してください」
(ねずみが喋っただと?! 神秘の生物か?!)
だが、手には温もりが一切感じられない。
「怪しいもんじゃないですから…」
苦しそうな表情はどこか人工的で。
ロボットをあまり見たことのないハールドには、それが作り物の動物だという考えは湧いてこなかった。
「離してくださいよう」
ねずみが哀れっぽい声で頼んでくる。ハールドは無視して逆に問いかけた。
「お前はなんだ」
「ただのチーズケーキ好きなねずみです」
「…俺を見張ってたのか?」
「ちっ違います」
「じゃあ何をしている」
「言えません」
「じゃあ離してやらん」
「…」
ねずみは難しい顔をした。
ハールドがうさぎを捕ったのと同時刻。
バン!
「わあい、また鳥が一羽!」
パン!
「ううう…また外した」
「スピッツはまず射撃を鍛えなきゃ」
「んでも、夕莉ちゃんより上手くなれる自信がない…」
「あはははは、そりゃあね!」
撃ち落とした獲物を拾って町の広場に戻る夕莉とスピッツ。
「ゲンネーさん、さっき捕ってきた獲物です!」
「うわわわ…五羽もですか。ありがとうございます」
「さばくのはよろしくお願いしますね!」
「え?!」
「隊長、私もさばくのは無理です」
「おいスピッツ!」
「あ、あとそれあたしの銃で撃ったんで眠ってるだけですからねー。起きたら暴れるかもしれないんで気をつけてください」
「まずは殺すことをお勧めします、隊長」
「なっ!」
大量の獲物を押しつけられたゲンネーと、広場で走り回って遊ぶ夕莉とスピッツ。
「ひい、疲れた。今日は筋肉痛だなぁ」
「あたしも痛いよ」
「あちこち行ったからね…」
「でもスピッツと一緒にいると、楽しいな。ずっと一緒にいたいくらいだよ」
「そっそんな大げさな」
広場でマッサージし合う夕莉とスピッツ。
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諸事情により次回の更新日は12月9日以降になる予定です。




