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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
34/107

企み 其の二

キーパーソン、登場!

「申し訳ありません、ここは臨時軍用地ですので、一般の方々の出入りは禁止になっております」

緑色の軍服を着たその兵士は、犬を連れた初老の男にすまなさそうに告げた。彼の後ろでは、数人の兵士が砂地の上にテントを張っている。

「ああ、構いません。それじゃあ今日は別のルートを行きます」

初老の男はあっさり踵を返し、砂地から少し離れた茂みにこっそりと腰を下ろした。


「ふん、やはり入れないか。そこは予想どおりだな」

「どうするんですか。これじゃ、いっぺんに四人の監視なんて無理ですよ〜」

一緒に屈み込んだ犬が焦って言う。

この犬は、初老の男が作ったモフモフ毛の生えたロボット犬である。人間以上の優れた五感と優秀な人工知能を持っていた。

「まあそう焦るな。そんな場合に備えてお前を連れてきたんだ」

「あーそうですか。やっぱ最終的にはボクの出番なんですね」

犬はため息をついてから尻尾を盛大に振った。尻尾はすぐに付け根から取れ、地面に転がると同時に丸まり、ネズミの形になった。

「うまいぞ」

「ハイハイ、ありがとうございますぅ」

今は動かなくなった尻尾なしの犬の代わりに、ネズミが拗ねたような声を出した。



「いいか、逐一異邦人たちの動きを見張れ。できたら例の工作員・・・とも会うようにな。彼らを護衛たちから引き剥がせそうなタイミングを聞き出すんだぞ」

「工作員…フリージー星からの人ですよね?」

「…もし捕まってもその星の名前は絶対出すなよ。我々の星にはフリージー星人を目の敵にしている奴がいるからな」

「人間のことは分かりませんけど、承知しました」

ネズミはクルリと向きを変えて町の方に向かって走り出そうとした。

が、その脚がぴたりと止まる。

「博士」

「なんだね」

「博士だってグリーン星の人でしょ? フリージー星人が嫌だとか思わないんですか?」

「私か…」

初老の男は苦笑いをしながら首を振った。

「別に憎くないな。いや、むしろ彼らに協力できることが非常に嬉しいよ」

「何故です?」

「それは…、私が彼らに借りがあるからさ」

「狩り? 獲物は何だったんですか?」

「その『狩り』じゃない。私は昔、彼らに助けてもらったんだ」

初老の男は何かを思い出すように空を見上げた。



「そうですか…と言ってもボクにはイメージが湧きません」

「そりゃそうだ。さあもう行け」

「ハイッ」

ネズミは今度は振り向かず、一目散に町まで駆け出していった。



「さあて、どうやって彼らを我々に協力させるかな」

博士と呼ばれた初老の男は、草むらの蔭でじっと腕組みをした。



ーー

「おや?」

ふと近くに人の気配を感じて頭を上げる。

「…」

少し離れた所の木の上に人がいた。片手に無線機のようなものを持って、遠くを見ながら何か話している。兵士の一人かと慌てて身構えるが、その男の服装は明らかに一般人のものだった。

(一般人…)

「博士」は安堵しかけた胸を慌てて叩いた。

(余計におかしいじゃないか)

一般人がなぜここへ? ここで何をしている?

自分のように、何か目的あってこんなところにいるのだとしたら…。



(調べておく必要があるな)

幸いその男の目はどこか遠くにくぎ付けで、下にいる「博士」に気づいてはいないようだ。

(よし…)

男が登っている木は高い。残念ながら下からでは、何を話しているのかまるで分からない。だから自分の発明品を使う。

ロボット犬の右耳をもぎ取り、自分の耳に当てる。そしてそのスイッチを入れた。


『…というわけでして』

ロボットの耳を通して男の声が聞こえてくる。少しくぐもった、若い声色。


『奴らは今、フェアーナ国の別の町で活動しています』

(奴ら…)

今自分がいるのは、例の四人の異邦人が活動している町外れ。この男が見張っている方向は、紛れも無いその町の広場。

奴らとはまさか、異邦人たちのことだろうか。


嫌な予感とともに、ひたすらロボット犬の耳を握りしめた。他に何か手がかりはないかと思って。

『はい、かしこまりました。ではすぐに帰還します。え? その地形ですか? 分かりました。今からそれも報告いたします』

ここで会話が切れなかったのは、運がいいというべきか。


「博士」は一旦右耳をロボット犬に戻してから、急遽その左耳に口を当てた。

「おい、聞こえるか?」

『今、工作員を探し中です』

「それはもういい。そんなことより急いで戻ってきてくれ。他の用事ができた」

『カフェにでも行くんですか? じゃあ、チーズケーキがいいで…』

「そんなわけがあるものか。とにかく来い。事情は後で説明する」



まもなくネズミが戻ってきた。

「何をするんです?」

「あの木に登っている男が見えるか?」

そっと指さすと、ネズミの目がヴンと音を立てて青く光った。

「ズームしました。緑の糸の刺繍入りの藍色のTシャツにズボン姿の、三十歳くらいの男ですね」

「そうだ。手には無線機」

「黒い無線機ですね。あ…なんか持ち手に記号みたいなのが書いてある」

「やれやれ、よく見えることだ。我ながらロボットの性能の良さには毎回感心させられるな」

「書いてあるのは三角形ですね」

「なに…」



「博士」は顔をしかめた。

「三角形…か」

「盗聴しますか?」

ネズミは「博士」の声の変化に気づいていない。

「いや…盗聴じゃなくて、電波の発信先を探知してほしい」

「分かりました。あ、でも結果は今すぐには出ませんよ」

「わかっとる」

「それと、今から始めますからしばらくボクに話しかけないでくださいねー」

ネズミの目が赤色に変化する。そのまま男を見つめて動かなくなった。



「さてと…」

「博士」は再びロボット犬の耳を自分の耳に当てた。


『今のが町の地形です。…続いて人口は…あ、もういいんですか?』

どうやら通話は終盤らしい。

(いかん…)

探知が終了する前に終わられるわけにはいかない。


『かしこまりました。では通信終了しま』

(待ってくれ!)

『…あ、そうでした。奴らの野営地を説明いたします』


『町から離れた砂地にテントを張っているようですが、果たしてそれが異邦人用なのかどうか。町にはまだ、未破壊のホテルがありますから、異邦人どもはそちらに止まる可能性が高いかと』

ここで「博士」はちらとネズミを見た。赤い光が弱まっている。もうすぐ探知が終了するということだ。

(いいぞ、もうちょっと会話が続けば…)


『では、通信終了します。故星に忠誠を』

「博士」の祈りも虚しく、すぐに無線は切られた。

男は木から降りて、周りの様子をうかがいながらどこかに走り去ってしまった。



「…探知できたか?」

「途中までなら」

やはり最後までは無理だったらしい。

「まあ、よくやってくれたな」

「残念だって思ってるのが顔に出てますよ」

ネズミはロボット犬に駆け寄り、尻尾が付いていた場所に食いついた。そしてネズミロボットの形が解け、再び尻尾に戻った。

「帰りますか?」

犬が立ち上がりながら聞く。

「…ああ。探知結果の解析を優先する」



結果はまずまずだったと言えるだろう。

工作員との接触は無理だったが、運良く曲者を見つけることができた。

(あれはおそらく、木星人だな)

カフェ寄ってくださいよと吠えるロボット犬を先導しつつ、「博士」は確信していた。

黒い三角形の印。『故星に忠誠を』という言葉。

木星がグリーン星を狙う前からの、彼らに関する個人調査ノートに確かに書いた。「その二つが揃えば、木星人として疑いなし」と。

(思わぬところで役に立ったな…それより)

木星人の一味がなぜ異邦人を見張っているのか。

これから自分はどうするべきなのか。

今からそれを考えなくてはならない。

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