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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
33/107

再会

突然こっちを振り向いた少年。焦げ茶色の髪に瑠璃色の眼。まあまあ男らしいその顔の口から、絞り出すように言葉が出た。

「ゆう…り?」

数日ぶりに見た顔。宇宙船以来の顔。

ハールドだった。

「夕莉?」

「ハールド!? ええっ?! ハールドなの?!」

思わず両手のスポーツドリンクを放り投げ、あたしは彼のそばに駆け寄った。向こうもクリアファイルを投げ捨ててこちらに大股で歩いてくる。

「「なんでここに?!」」

思いっきり叫び声が被った。

その後は二人して見つめ合ったまま、どちらも先に答えようとしない。

どっちから答えたらいいんだろ…。うううん。



「え、だってあたしは助っ人だから…」

なんとなく決まり悪くて、とりあえず先に口を開くとハールドは意外そうな顔をした。

「助っ人ってあんたのことか…」

「そうだけど」

「そういや確かにそんなこと言ってたな」

あれ? あたしってハールドに助っ人のこと言ったっけ?

思い出せないな…。やばい、記憶喪失かな?

「どこで言ってた?」

真剣な気持ちで聞くと、ハールドは一瞬固まり、そのあとすぐ

「あっいやいや言ってない言ってない」

と打ち消した。マズイこと言っちゃった…みたいな顔をしてるのは気のせいかな?

「言って…なかったよね?」

「おう。俺の勘違いだ」

ふう、よかった。



「ところでハールドはなんでここに…」

いるの、と続けようとしたら、急にガルフォンさんに声をかけられた。

「夕莉、ハールド。ここじゃなんだから、二人で少し離れたところで話してきたらどうかな?」

言いながら、ガルフォンさんはタオルで頭を拭いていた。隣のエイザクさんも頭をブンブン振って水気を飛ばしている。

「水溜りで転んだの?」

そう思ったから聞いただけなのに、何故かエイザクさんに物凄く冷たい目で睨まれる。

なんで?

「…まあそんなところかな? 早く行っといで。十分経ったら戻ってくるんだぞ」

彼を目で抑えたガルフォンさんは頭を拭く手を止めて、今度は地面に屈みこんで散らばっている書類を集め始めた。

その横ではすでに、ライオネルさんとクリスティナローラさんが黙々と書類をクリアファイルに綴じている。


あー本当ごめんね。怒らないばかりか、気を遣ってくれてるんだね。



ーー

「そっか…まだ容疑は晴れてないんだね」

「ああ、残念ながらな」

広場を抜けたところにある廃材置き場で、あたしとハールドはおしゃべり中。

「だからまだあいつらが俺のこと見張ってんだよ」

タイヤに座り込んでいるハールドの眼が、忌々しげに廃材置き場の外に向けられる。そこに立ってこっちをじっと見てるのは、グリーン星人の兵隊さんたち。

「鬱陶しい奴らだぜ、まったく」

「それでも、外出できて良かったじゃん」

「ガルフォンとライオネルがお偉いさんどもを説得したんだと。監視付きっていう条件でな」

「監視ねえ…」

それは確かに落ち着かない。

「あの人たちのことは、護衛だと思えば苦痛じゃないんじゃない?」

あたしの意見は鼻で笑われた。

「はっ、それは無理だな。向こうは看守並みに見張ってくるもんな」

「…」

「いっそのこと、倒して逃げたいくらいだ」

「本当にしないよね?」

「ま、今はな」

低い声で呟いた。

うううううん…。穏やかじゃないなあ。

まあハールドの気持ちは分かる。あたしには詳しい情報は入ってないけど、彼があの迷彩服男と仲間なわけがない。あんなやつと一緒にされるハールドがなんだかとても気の毒に思えた。



あっと、それより伝えなきゃいけないことがあったんだ!

「ハールド!」

「お、おう」

ビビらないでよ。

「体調はどう? 治ったの?」

直接お見舞いに行けなかったから、再会したら必ず聞こうって思ってたんだ。

「体調…ああ、肩の傷な」

確か、犬に噛まれたとか言ってたアレ。肩に深い咬み傷があったのを宇宙船で見た。どこまで回復したんだろう。

「今はもう、痛くは…ない」

曖昧な言葉と曖昧な顔。

「なんかはっきりしないなあ」

「完治したなんて、すぐに分かるわけないだろうが」

「ううん、まあそうだね…」

「普通に動けるんだから、ある程度は治ってるんだろうけどな」

「んでも、無理しない方がいいよ。何かあったらすぐに誰かに頼りなよ?」

万が一倒れられたら困るから注意したのに、なぜかハールドは瑠璃色の眼であたしを睨んできた。



「な、なに?」

「『誰か』って誰だよ」

はい?

「まさかここにいるグリーン星兵士どものこと言ってんじゃないだろうな」

「え、そうだけど…」

言ってから、しまったと思った。ハールドは兵士たちが嫌なんだっけ。

「あーいや、なんならあたしか国賓四人組でもいいよ! 限定してごめん!」

「別にお前でもいいけど…国賓ってガルフォンたちのことか?」

「そうだよ」

「あいつらは無理だ」

なんで?!



「いやいやいや、それはちょっと贅沢すぎだって!」

若干呆れて叫んでも、ハールドは機嫌が悪いままだ。

「あたしよりも知識ありそうだし、あの人たちなら絶対助けてくれるって!」

そりゃ、中には無愛想な人がいるけどさあ!

「ふん。まあガルフォンについては肯定しとく。あいつは俺に色々世話を焼いてくれたしな」

「さすがあ…」

「お前も俺にとっちゃ命の恩人なんだ。ただ全体的に見ればあの四人は無理なんだ」

「なんで無理なの?」

「お前は知らんだろうけど、ここ数日で話してみて無理だなって思ったんだよ。あと…」

「あと?」

「…」

ハールドは俯いた。その顔に浮かんでいるのは、これまでにはみたこともないほど苦しげな表情。



「なんか…あの四人の中に自分も入って五人で活動してるんだって思うと…」

「思うと?」

「訳がわからんけど…不安を覚えちまう。他の奴らとは出身星が違うからとかじゃなくて、なんかその…」

彼の瑠璃色の眼はいつになく暗かった。本気で不安に感じてるんだろうか。でも…なんで?

理由を聞きたいと思った。でも、聞いちゃいけない気がした。あたしなんかが首を突っ込んでいい問題じゃないんだろうから。

いい加減な提案なんてしちゃいけなかった…かな。








「そろそろ、戻る?」

他に言葉が見つからなくてそれだけ言うと、ハールドは無言で頷いた。そのままあたしたちは立ち上がり、廃材置き場を出た。後ろからは監視の兵隊さんの軍靴が響いてくる。

暗い雰囲気。せっかくの再会がこんな形で終わるなんて…。

「じゃ…」

「ああ…」

こんな形で…。



広場まで来て二手に分かれようとしたちょうどその時、あたしの口から勝手に言葉が出てきた。

「プリン!」

「え?」

「プリン、美味しかった?!」

自分でも何を言っているのかよく分からない。ただ叫んでいる。

「プリン…ああ、お見舞いにくれたクリーム色の甘いやつな」

ハールドの硬い表情がわずかに緩んだ。

「美味しかった?!」

「おお、美味かったぜ!」

彼が見せたのは満面の笑み。

胃袋は掴めたみたいだ。良かった。

「いつかまた作ってあげる! 今度はカスタードじゃなくて、牛乳味のを!」

この前作ったやつの残りはみんな、メイサさんとスピッツに食べられたから。

「楽しみにし…」

「楽しみにしといて!」

それだけ叫んで、あたしはハールドに背を向けた。



これからハールドは無罪晴らしを頑張っていく身。なるべく背中を押してあげたい。

久々の再会。これでちょっとは後味よく終わったかな?

夕莉とハールドがおしゃべりしていた頃、広場では…。


「わわわわ、すいません!ガルフォンさん、エイザクさん!」

「いいよいいよスピッツ…ほら君もなんとか言えよ」

「…責められるべきは夕莉さんですよ」

からのビンを拾うスピッツと、頭からかぶったスポーツドリンクを拭き取るガルフォンにエイザク。


「こんなに撒き散らして…」

「拾うのは散らかした人間のはずですのに…」

「ご本人どもは呑気にデートとはな」

クリアファイルの中に、地面に散らばったシートを集めるライオネルとクリスティナローラ。



十分後。

「あ、こっちに歩いて来てる。…止まった?」

「まったく…この私に後始末をさせるとは。ああ、腹立たしい。無性に腹がたつ」

「…自分の方が進展しないからって他人を僻むなよ、ライオネル」

プリン問答をする二人を眺めるライオネルとガルフォン。

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