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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
31/107

企み 其の一

やっと休日!

「整列! 前にならえ!」

副司令官の一言で、基地の訓練所に集まっていた黒軍服の兵士たちが一斉に隊列を作った。

ザッザッザッザッザ。


「番号、始め!」

「1」「2」「3」「4」…「18045」

「何名か欠けたところがあるな」

段上の椅子に腰かけてた司令官が、顎までかぶった黒いフードの下から隣に立つ副司令官に言った。

「11、56、78、104、606、900、2563、4590、7456、8888の十名は、死亡いたしました」

「何? 我が軍から死人が?」

「私の直属部隊からです。この間、フェアーナ国の貴賓館の近くの町を攻撃したときに…」

副隊長は少し悔しそうに口を歪めた。

「ほほう。敵もついに、少しは我々に対する対策を立てられたとみえる。で、何が原因だ? やつら、最強兵器でも投入したのか?」

「やったのはグリーン星人ではありません」

「なんだと?」

「数名の異邦人です。『第三の目』で確かに見ました。アレらはグリーン星人とは細胞の形がまるで違いました」

「…捕虜は出ていないな?」

「皆、戦死したはずです」

「それでよしそれでよし…おや!」

黒フードがある一点にくぎ付けになった。



「兵士たちですか? いかがなさいました?」

「隊の最後列のあの髭面を前に出せ」

「はっ。…おい、18002前に出ろ!」

ザッ。

一人の兵士が段の下に進み出た。褐色の肌で、顎には無精髭が生えているがまだ若い。


司令官が聞く。

「お前、例の袋はどうした」

「…」

兵士は気まずそうに俯いた。

「だんまりとはどういうわけだ」

「司令官の質問にお答えせんか!」

「…」

「あれは軍の携帯品であろう。部屋にあるならすぐに取りに行ってこい。それともまさか、失くしたか?」

「…はい。失くしやした」

やっと出た声は消え入りそうなかすれ声。



「…あっさり言いきったが、そのようなことをして己の身が無事で済むと思うか?」

司令官がパンパンと手を叩くと同時に、彼の後ろから二人の屈強な兵士がツカツカと歩みでた。

「あれを例の場所(・・・・)に連れて行け」

命じられ、兵士二名は音もなく髭面兵士に近づく。その胸に光るのは黄色いバッジ。それを見た髭面兵士の顔から生気が消えた。

「ヒイッ! お、お許しを!!」

そんな彼に構わず、兵士二名は彼の両腕を掴んで訓練場から出て行こうとした。

引きずられながらも髭面兵士は喚き続けた。

「許してくだせえ! 失くしたっつっても奪われたんですから!」


「戦って負けたんでさあ!」


「俺の額の『第三の目』で見たら、相手はグリーン星人じゃなかったんすよお!」


「髪の長い、異邦人…」

ここで黄バッジ兵士の一人が彼の後頭葉を殴って気絶させた。そしてそのまま訓練所から出て行った。

「さあ、訓練を再開しろ」



ーー

「処罰は程々にと言っておけ」

「焼きごてくらいでよろしいでしょうか」

「それくらいで良い。…それにしても異邦人か…」

訓練所から出て自分の司令室に戻った司令官はフードを被ったまま低い声で呟いた。


「フェアーナ国に潜む部下から報告は受けています。『我々による被害を調査して、銀河連盟に支援を求めるための異邦人四人が他星から来ている』と」

「それはまた、ちゃちな支援であるな」

「銀河連盟の連中も、そこまで真剣にグリーン星人を助けるつもりもないのでしょうな」

「だが彼らの戦闘技術はなかなかのものだな」

「あの兵士の言うことを信じるのですか?」

司令官は、意外そうな顔の副司令官にフードを向けた。


「あやつの言葉だけではない。お前も異邦人に部下を殺されたと言うではないか」

「それはそうですが、異邦人がそんなに危険な存在でしょうか?」

「色々な意味で用心しなくてはならん。ちゃちな支援だと言っても、我々が攻撃したものの穴埋めがくるようでは、攻撃を続けてもやつらが自分から屈服してくることもあるまい」

「…」

「そうなったらいよいよ本格的な戦争だ。それは金がかかる…」

司令官は立ち上がった。

「よし、今度は私が直々攻撃に向かう」

「そ、それは…」

副司令官は顔を引き締めた。これまで攻撃に司令官が参加したことはない。

司令官自らが出向くということは、向こうで出す被害はこれまでの数倍以上になるだろう。

「銀河連盟の支援などでは追いつかないほどの被害を与えてやるわ」



口角を上げた司令官は次に、机上にグリーン星の地図を広げた。

「ところで奴らは今どこで活動している?」

「奴らと言いますと?」

司令官は苛立たしげに頭を振った。

「異邦人どもだ」

「申し訳ありません。今すぐ部下に連絡して聞きます」

「急げよ。次の攻撃地はそこだからな」

「はっ」

「あとそれと、今度の攻撃には新メンバーが加わる」

「メンバー?」

兵士、という意味ではないだろう。

「そろそろ出てこい」



司令官が叫ぶと同時に、天井の板が外れてそこから一人の男が飛び降りてきた。

「?!」

「おおっす」

驚く副司令官を尻目に司令官に雑なお辞儀をしたその男は、それが終わるとすぐに壁にもたれた。


縮れた赤毛で童顔、垂れ目の筋肉質な若者である。

「紹介しよう、我らが同士の「シャンテルでぇ」」

「…」

無礼を顧みず司令官の言葉を遮った若者ーシャンテルを、副司令官は胡散臭げな目で眺めた。

「この者が新メンバーですか?」

「そうだ、攻撃が手こずった場合に備えて以前から呼んでいた」

「何をやらせるんです? 雑用ですか?」

「馬鹿にしてもらっちゃ困るねえ、おっさん」

いつのまに取り出したのか、シャンテルのごつい手の中でナイフが一閃した。

「俺の専門は戦闘でぇ。なあ、そうだろ。黒フードのおっさんよ」

「なっこいつ!」

「抑えろ副司令。…その通りだ、お前には次回の攻撃で異邦人四人を捕らえてもらう」

「異邦人んん?」

「司令官、それは!」

「殺さなくていいんかい?」

シャンテルは、話についていけない副司令官を思い切り無視してナイフを光に当てながら聞いた。



「お前はただ、捕らえるだけでいい」

「そうかい。ま、金さえもらえるんならどっちだっていいけどよお」

「ふさわしい働きを見せれば、それなりの手当てを与える」

「はいよ」

「だが奴らは手強いぞ」

余裕の笑みを浮かべたシャンテルを見て、ようやく話を理解した副司令官が意地悪く言った。

「へええ」

シャンテルは相変わらず笑っている。だがその目だけは急に鋭くなった。

「やり甲斐のある仕事じゃねえか」

「頼んだぞ。異邦人の見分け方は分かるな?」

「『第三の目』を使やあいいんだろ?」

シャンテルはそう言い、シャツの左袖を捲り上げた。そこでは黄金の眼球が周りをキョロキョロ見回している。

「それで良い」

司令官が満足げに頷くと、シャンテルは欠伸をしながら司令官室のドアを開いて出て行こうとした。



「待てっ、どこに行く!」

服司令官が慌てて彼を追いかけた。シャンテルは面倒くさげに振り向く。

「飯もらいに行くんだよ。うるさく言いなさんな、おっさん」

「おっさん…だと?!」

「おっさんをおっさんって呼んで何が悪い」

「言わせておけばこの若造…」

「おいおい、俺は司令官から仕事を依頼された身だぜ? 下手に手ぇ出しゃあ、あんたの立場が悪くなるんじゃねえの?」

おどけた顔で言うシャンテルを前に、言われたことを理解しながらもついに副司令官の堪忍袋の尾が切れた。



「貴様…、この貧乏人の金の亡者が…!」

胸ぐらを掴もうとした手が止まる。気がつくと、首にナイフが突きつけられていた。

「金の亡者で悪かったねえ」

ぞっっとするほど冷たい声が耳元でで囁かれる。

「こちとら、生きてくための商売なんでぇ。上層階級のあんたにゃあ分かんねえだろうがよ」

「…う、くう」

「金のためならなんでもすらあ。ただ生きてくためにな」



◇◇

外のやり取りを聞きながら、司令官は一人くつくつと笑った。

(なかなかに使えるぞ、あの若造)

金さえ与えればなんでもする。こんな都合のいい道具はない。

(ただ、いざ背いた時は厄介だ。例えば別のやつに買収されたりして…な)

与える仕事がなくなったら、消してしまう。そういう手もありだ。

(さてと…)

司令官は机の地図を見据えた。ここにあるのは緑いっぱいの豊かな星の見本。

(必ず本物も手に入れてみせる。…故星に忠誠を!)


二つの目をつぶりつつ、司令官はフードをゆっくりと脱いだ。やがて現れた四十くらいの歳の顔の、鼻があるはずの場所で、金色に光る眼球が地図をいつまでも眺めていた。

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