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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
30/107

思い出すのは温かさ

今日の朝から急に冷え出した…。

ハールドはとりあえずベッドの上に紙袋を置いて電気をつけ、これまでの生活を思い出した。



風呂とトイレ付きの寒々しい部屋。眠って起きてみたらいつのまにかおいておかれ、下げられている食事。

誰も話し相手がなく、そのくせ永遠に続くかと思われる尋問はいつのまにか日課になってしまっている。



『出生星はどこですか』


『…そんな名前の小惑星は聞いたことがない』


『銀河連盟に所属していない?! それじゃ、裏付けは取れませんな』


『あの宇宙船があなたのものだったとして、あなたはあの宇宙船に乗って何をしていたんですか?』


『家出? 何故?』


『ははあ、そこはプライベートなんですか』


『宇宙船を乗っ取られた時の詳細を詳しく述べてください』


『あなたを噛んだと見られるロボット犬が、恐らくは暴走したはずみで壊れているのが発見されました。あの犬は本当にあなたのものではないのですね?』


『あなたがあのフリージー星人の仲間でないという確たる証拠はありますか?』



この二日間、怪我から回復したばかりのハールドを気遣われることなく淡々と尋問は行われた。

正直言って、ハールドはイライラしていた。

(言うことはもう全部言ったってのにくどい奴らだった、まったく)



外には出てもいいと言われているが、あくまでも監視付きだ。一度貴賓館の外の庭を歩いてみたけれど、側でこちらを睨みをきかせている兵士のせいで全然気分は晴れなかった。

(あいつを倒して逃げても良かったんだがなあ。だけど俺はこの星のことは何一つ知らないから下手な真似はできないし…)

だからそれ以来、ハールドは一人になった時は部屋の中で念力を使って物を浮かす練習をしたり、宇宙船でのことを思い出したりして時間を潰している。



思い出すのは仲間四人との平穏な旅でも、突然始まったロボット犬との戦いでも、ラクープのあのセリフ(・・・・・)でもない。



仲間が死んだ。そのことは分かっている。分かっているが、あのラクープの最期を思い出すにつけ、悲しいというよりもなにか虚しい気持ちになるので、他の四人のことは誰にも話すつもりはなかったし、もう考えないようにしていた。



彼の瞑想の光景は、宇宙船が暴走した後での、あの突如たる出会いである。



◻︎◻︎

もともとは見捨てられた人間のたった一人の戦いだった。

ハールドはそれに敗れ、命を失おうとしていた。だが、突然…。

「何を!」

そう言って迷彩服男を突き飛ばし、自分を後ろに庇った小さな身体。首の圧迫から解放されたばかりで、何が起こったのかハールドにはまるで分からなかった。

ただ分かったのは、誰かのおかげで助かったということ。

痛む喉を抑えながら乱入者の顔を覗き見る。少女だった。見た目十二、三歳の。

「人の、それも子供の首を締める! なんの意味があってこんなことを?」

殺人者を前に少しも怯まず、堅気の人間にしか通用しないセリフを並べ立てる少女。

(こんな奴に通じるわけないだろ)

状況が状況であるにもかかわらず、ハールドは呆れて心の中で苦笑してしまった。

(アイツと同じ、恵まれた環境の人間なんだな)

とは言え、相手は殺人犯。少女が喚くほど不機嫌になり、殺意が増していっているのにハールドは気づいていた。

(俺が体力を回復させれば、念力が使える。それで逆転して…)



そのあと少女が迷彩服男に痛めつけられている横で、ハールドは首をさすったりして迷彩服男に対抗するための体力の回復に集中している…はずだった。

だが散々体を壁に叩きつけられ、悲鳴をあげることなく苦痛に歪む彼女の顔を見たとき、急にためらいが生じた。

(このままでいいのか)

ハールドの体力が回復するまでには、この少女は殴られ続けてボロボロになってしまうかもしれない。

(いや、下手したら死ぬぞ)

意識の途切れそうな彼女を見てふとそういう考えが浮かんだ時、ハールドの中でなにかがプツンと切れた。



(こいつは俺の命を救ってくれた恩人で、俺と一緒に戦ってくれようとしたんだ。むざむざ死なせてたまるか…)

気がつくと体が動いていた。まだ完全に体力が回復していない状態で、ハールドは男を痛めつける念力を使いまくってしまったのだ。



その結果、倒れた。肩の傷が再び痛み出した。そして意識を失う間際、少女が救急セットを取りに物置から走り出そうとしてるのを見た。

(また一人になっちまうのか…)

「お…い…」

しんどいが、どうにか口を開ける。

「なに? まだ何かいる?」

(ちげえよ…)

「そうじゃ…ない。なま…え」

名前が知りたい。そう思った。ハールドの孤独な戦いに乱入してきた少女の名前を。



「…夕莉」

告げられた名前は実にシンプルだった。



「夕莉…か」

少女が去ってからハールドはもう一度その名を口にして、意識を失った。



ーー

「念力を使わない時は目は青いんだな」

たしか…ガルフォンとかいった少年は、電気がつくなり感心して頷いた。

「綺麗な色をしてるじゃないか」

「…俺的には朱色の方がいい」

自分の体力に自信がないわけじゃない。ただ、念力を使っているときが一番快感を感じるから。

「ふうん。ま、そこらへんは人によって違うよな」

「…で」

ハールドはガルフォンをじろりと見た。

「見舞いの品は感謝するけど、それをあんたが持ってきたのはどういうわけ?」

「頼まれたからだよ」

「あいつが…夕莉が自分で持ってきたらいいじゃないか」

ベッドの上から飛び降りて聞く。自然と早口になりながら。



「夕莉さんもそうしたがってたんだけどな、ここに入れなかったんだよ」

ガルフォンは残念そうに言った。

「は?」

「ここは貴賓館。国賓か重要人物しか入れないんだ」

(なに?!)

一瞬、なにを言われたのか分からなかった。

「…て、ここが貴賓館?! 冗談言ってんのか?!」

「ホントだよ。僕は国賓だからここに寝泊まりさせてもらってる」

「いや、でも俺は容疑者…」

「重要人物の枠に入っているんじゃないかな」

「…」

なんと返していいか分からない。



「複雑な気持ちは察するよ、ハールド」

不意にかけられたガルフォンの言葉にハッとする。

「おい…なんであんた俺の名前を知ってんだよ。今が初面識だぞ」

「なんでって、そんなの夕莉さんから聞いたに決まってるじゃないか。ついでに言うと…」

ガルフォンは腕を組んでハールドに笑いかけた。

「君も僕の名前を聞いてたはずだよ。まだ一回も呼んでくれないけどさ」

「…」

「君の宇宙船で、僕が呼んだ救急班が手当てを終えた時はもう起きてたんだろ?」

「…」

「夕莉さんは気づいてなかったけどな、僕は何となく分かってたよ。うちの弟とか妹も、寝たふりが得意だったからね」

ガルフォンは何かを思い出すかのように、懐かしげに天井を見上げた。



(なんだよ、ばれてたのか)

ハールドはチッと舌打ちした。

(のんびりした外見と違って、実に鋭いやつだ)

確かに、寝たふりをしてなにもかも聞いていた。ガルフォンの名前は勿論、夕莉との対話も。

二人で話してるのが羨ましくて自分も起きようかと思った時に、グリーン星の兵士が入ってきたのでそれは断念した。

それでも耳だけはすましていた。全て聞いた。自分に容疑がかけられていること、そして夕莉が一人でそれを全面否定していたこと。

「隊長」とやらに歯向かう間、彼女の手はずっとハールドの肩に添えられていた。

(あったかかったな…)

どうしようもなく弱くて情けなさすぎる少女。迷彩服男との戦いのシーンだけで欠点がいくらでも挙げられそうだが、そんな彼女がそばについていてくれて、あの時のハールドは心からホッとしていたのだ。

そして…。

(も一度、あいつに会えたらなあ)

話をしてみれば意外と面白いかもしれない。灰色の日々の中、いつのまにかそんな思いを抱えてしまっていた。



「で、改めて名乗らせてもらっていいかな?」

気がつくと、ガルフォンの琥珀色の目がじっとこちらを見ていた。

「好きにすれば?」

「ありがとう。…僕は冥王星から来たガルフォン・ロインド。年は十八な」

「その体で十八か…俺より二つ年上なんだな」

「君は十六? エイザクと同い年ってわけだ」

「エイザク? 誰それ」

「僕の仲間。後で君に紹介するよ。他の二人もね」

「…必要ない」

何故その流れになるのか、まったく理解できない。



「俺とは関係ないだろ、そいつは」

「そんなことないよ」

「別に仲良くなりたいとか思ってない」

「さあ、そこでもう一つの本題に入らせてもらおう」

ガルフォンは三脚を壁に立てかけ、「そろそろライオネルは手当てを終えたかな」と呟きながらドアの外を指差した。

「とりあえず、この部屋から出ようか」

「は?!」

「僕と一緒に来い。これからのことについて君に一つ提案がある」

次回、異邦人六人がそろって出てたら嬉しいです!

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