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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
3/107

任務とは

久しぶりの投稿になります。

「よりによって、隊長に呼び出されるなんてなあ〜」

「スピッツにとっては、とんだ厄日ね」

解散後廊下を歩きながら、ため息をつくスピッツの横で親友のイチアールは苦笑いをした。

「普通は喜ぶとこよ。隊長からの直々のご命令なんですもの」

「いや、でもさ〜。あのタイミングで呼び出しって…どうなの?」

「いよいよもって、重要な任務なんじゃない?」



イチアールは当たり前のように言うが、重要な任務、というのはそんなに名誉なものなのだろうか。

スピッツにとっては間違いなく「否」である。なにしろ彼女は…。



スピッツは両耳を下げ、恨めしげに若葉色の毛並みの親友を見た。

「私ごときが、重要任務をこなせると思う?」

「それは、なんとも言えないわねー。ま、当たって砕けろって言うじゃない」

イチアールはワハハと声を上げて笑った。なんとも呑気なものだ。



(せめて、『スピッツなら大丈夫!』くらい言ってくれたらいいのに)

気の利かん奴めとスピッツは思い切りイチアールのほっぺたを掴んだ。



「あいたたた、なにすんのよスピッツ!」

痛いと言いながらも、イチアールは抵抗する素振りを見せない。むしろ面白がっている。

「アーン、ヒゲまで引っ張るのお〜」

「うるさい、このマゾヒストめ!」



今日は厄日なんだ。せめて当たるぐらいさせてくれたっていいじゃないか。スピッツの心の声は、天まで届いただろうか。



ーー

(来たくなかったな〜)

それでも、隊長命令だ。仕方がない。スピッツは嫌々目の前のドアに手を伸ばした。

コンコン。藍色の木製ドアに響く音は、妙に軽快だった。



「誰だ」

(あなたが呼び出したんでしょうが?!)

「スピッツです」

「入れ」

ドアを開け、中に入る。当たり前だが隊長がいた。丸テーブルの横のソファーにデンと座っている。



「それで、話というのはな」

(いつ見ても、豪華な部屋だなあ)

隊長を思いっきり無視して、スピッツは部屋を見渡した。



天井から部屋全体を照らすプチシャンデリア。部屋の東側に腰を据えた本棚。床はベージュのカーペットが占領中。あと、壁を飾るのは国王陛下からプレゼントされた剣とか…。



「そうやって、俺の話を無視して呆れられようとしても無駄だぞ」

右耳が引っ張られ、無理やり体調の方を向かされる。

「隊長、痛いです」

「失礼な行為をすれば、任務を外されるとでも思ったんだろう。あいにくだが、この件はお前に任せると決まっている。他に人手がないんだ」



ちっと心の中で舌打ちする。この隊長には何でもお見通しのようだ。

(それも、忌々しいくらいにね)

それはさておき。



「それで、任務というのは何ですか」

「うん、それなんだが…」

隊長は丸テーブルの上に電子地図のタブレットを出した。ヴィイイインとかすかな音がして、テーブルのに寝かせたタブレットから立体の画像が浮かび上がってくる。光を帯びたそれは、球形をの物体を形作っていき…。

「これは、どこかの星ですか?」

「ああそうだ。名は、『地球』という」



地球。そう言えば、ずっと前に食堂でラーシルが言っていた。銀河連盟に加盟しているくせに、全然宇宙会議に参加しない星があると。その星の名前が確か、「地球」…。

今スピッツの目の前に浮かぶ球体は、青と緑と白と茶色が散ったようなカラフルな星だ。これが、「地球」…。



「名前だけは聞いたことがあります」

「そうか。で、ここでちと話が変わるが、お前は今回の宇宙会議の参加した星はいくつか聞いているか」

「知らないです」

「不勉強だな」

「そんなこと言わないでくださいよ! 私、グリーン星の予備兵ですよ! 知らなくたっていいじゃありませんか!」

「ラーシルは知っていたぞ」

「そら、彼は優秀ですから」

スピッツはプイと横を向いた。



スピッツとて、グリーン星の将来に不安がないわけではない。むしろ、木星人からの侵略は何としても防ぎたいと思っているし、そのためにならいくらでも職務に忠実になれる。なんのかんのといってスピッツは愛星家だからだ。

だが、スピッツは他の星には特に興味はない。ただそれだけのことだ。



「拗ねるな。お前がこの星を守りたいって思ってるのは誰よりも俺が知っている」

隊長はなだめるように言ってから、もう一度地球の画像に目をやった。

「で、正解を言うとだな。今回の宇宙会議に参加した星は九二三星らしい」

「九二三…。では、五九も欠席が出たんですか?!」

「ああ。自星の防衛が忙しくて…ウンタラカンタラと言ってな」

「何なんですかそれ!」

スピッツは憤りを隠しきれない。



今、グリーン星が危機的状況にあるというのに、何と冷淡なことか。そもそも、銀河連盟とは「諸星の平和と協調と幸福の上に成り立って」いるのではなかったのか。

銀河連盟に加盟したからには、自分の星のことだけを考えていて良いはずがないのだ。

(あたしたちが今、こんなに苦しんでるのに…)



「実は、この地球も今回の宇宙会議に参加しなかった星の一つだ」

「けしからんことですね」

「で、ここで話を戻そう。任務だが、お前には地球に行ってもらう」

突然だった。何を言われたのか全然理解できない。

「はい?」

「だから、地球へ行けと言ったんだ」

「え、何でこんな分からず屋な星へ?」

「もちろん、ただ行って終わりじゃないぞ」

「あ、なるほど。地球の代表を糾弾すればいいんですね」

「違う。お前の役目はな、この星から人を一人誘拐してくることだ」

なんか物騒な話になってきました…。

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