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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人の戦い〜フェアーナ国編〜
28/107

怪我

第26部分「予備隊訓練所でお菓子作り」を訂正致しました。


26部分の、夕莉とスピッツの会話が始まった時、すでに宇宙船潜入から二日経っているものとしてお読みください。

(つまり今も木星人の攻撃・宇宙船潜入から二日後)

目の前にいる四人のうち、面識があるのは三人。



「地球から助っ人として来ました、空乃夕莉です」

「うむ。私は天王星アレスファリタン領第六王子、ライオネル・アレスファリタンである」

四人の真ん中で名乗ったのは、灰色の髪と目の背が高いお兄さん。へえええ、王子様なんだ〜。

「エーディス星のエイザク・ブルネウです」

無表情なのは例のいけ好かない青制服。

「冥王星出身のガルフォン・ロインド。よろしくな」

待ってましたガルフォンさん! ていうか、ちゃんと名乗り合ったのってこれが初めてじゃん。

「カルメヂ星の伯爵家出身、クリスティナローラ・ライヨルですわ」

彼女は初面識。クルクル巻き毛の金髪に、青い目の美人のお姉さん。扇子を口元に当てたりして、なんかちょっと偉そう。

しかも彼女だけなぜか豪華なドレス着てるし…。まあ、伯爵令嬢だからそれが普通なのかもしれないけど…。

周りにいる護衛の人たちはともかく、町の人たちは彼女のことを遠巻きに見て何か囁きあってる。その視線はあんまりいいものじゃない。



「よし、これで新入りの自己紹介も済んだな」

ライオネルさんがパンパンと手を叩いて一同の注目を集める。どうやら彼がまとめ役らしい。

「で、夕莉」

いきなり呼び捨て?!

「お前だが、我々どちらのチームに入る?」

「チーム…ですか?」

「そうだ。私とクリ…ライヨル嬢のチームか、ガルフォンとエイザクのチームか」

ええええええー。

「お四方は、すでにその分け方で決まっていらっしゃるんですか?」

「無論だ」



困ったなあ…。ガルフォンさんには好感が持てるけど、あの無神経な青制服とは一緒になりたくない。

もう一方のチームも、ライオネルさんはわかんないけど、相方のクリスティナローラさんはツンとしてて嫌な感じだし…。

うーんうーん…。



「き、決めました」

「ほう、言ってみよ」

「とりあえず今日はライオネルさんの方に入ります」

「…」

ライオネルさんは露骨に嫌な顔をした。…なんでさ?! 聞いたのそっちじゃん!

「とりあえず今日は、ですから!」

「あ、ああ。分かった。それでは作業始め!」

明日は絶対ガルフォンさんの方についてってやる。あたしは憤慨しながらライオネルさんたちの後を追った。



◇◇

(迂闊だった…)

廃墟の中でペンを走らせながら、ライオネルはため息をついた。

少し離れたところで仕事をするのはクリスティナローラ。横で自分のノートを興味深げに覗くのは新入りの地球人の少女。



「その3って数字は何ですか?」

「なんであの家の被害レベルが3なんですか?」

「屋根吹っ飛ばされてますし、庭もひどい状況ですよ。4にしましょうよ」

「3ってむしろ、あっちの家じゃあ…」



質問・口出し止むことなし。

(鬱陶しい…)

おまけに、クリスティナローラに話しかけることすら出来ない。

もっとも、当のクリスティナローラはこちらのことなどまるで気にしていないようだった。

(それもそれで忌々しいが、まあそれはいつものことだ)

ライオネルはため息をついた。

(せっかく二人きりになれると思ったのに…恨むぞ夕莉)

彼は今、お目当てのクリスティナローラではなく、(ライオネルにとっての)乱入者の夕莉と二人っきりになってしまったのだ。



夕莉もたしかに女性には違いない。だけれど、彼女はほんの子供だ。

(おそらくは十歳ほど離れているなこれは)

小さな体に子供らしい顔。まだ、大人の女が醸し出す色気ひとつない少女。

(その点クリスティナローラは格別ではある)

二日前に彼女の肩に触れた時のことを思い出す。あのときの彼女の表情やしぐさが忘れられなくて、何度もボディタッチの機会を狙っているがなかなか近寄れない。

(決して針付き指輪が怖いわけではないぞ、うん)

ライオネルは前に刺された右手を、誤魔化すように何度も振った。



◇◇

仕事は見てて面白かった。時々叱責を受けたのにはちょっとまいったけど。


『ちょっと。それは私のペンですわ。手を離していただけます?』

『あたしが書いちゃいけないんですか?』

『貴女は助っ人でしょう。この仕事は私たち国賓の仕事ですの』


『じゃあ、シート持ちましょうか? いっぱいあるみたいだし』

『ああああ、そんなにいっぱい一気に持っては!』

『…あ、落としちゃった。すみません』

『不注意にも程がありますわ』

『す、すみません』


『あの…飲み物は?』

『欲しいなどと言った覚えはありません』

『もう良い、夕莉は少し休んでおれ』

『仕事の邪魔だけはなさらないで下さいませ』


ライオネルさんもクリスティナローラさんも、全然喋らない上に偉そうだったな…。まあ、あたしより年上っぽかったから仕方ないか。

瞬く間に時間は経って、夕方になった。

「よし、帰ろうではないか」

ライオネルさんが首から下げた銀色の笛を吹き始めると、そばの護衛さんたちがほっとしたように伸びなどを始めた。

「今日は木星人が出なかった、よかったなあ〜」

とか考えてるのかな。

そう言えば、木星人ってどんなやつなのかな? あたしが一対一で戦ったら勝てる相手なのかな?

今度ガルフォンさんに聞いてみよう。そう思った時だった。



作業をやめて一人でこちらに向かって来たクリスティナローラさんの身体が、一瞬グラっと揺れた。別に倒れなかったから、気のせいかなと思ったけど彼女はどこか痛そうに顔をしかめている。白い手が、触れているのは…右肩?

他に誰も誰も気づいていないみたいだったから、あたしはとりあえず彼女の方に近づいた。

「右肩、痛いんですか?」

途端に警戒心のこもった目を向けられる。…ように見えるだけどよね?

「さっきからずっとそこを押さえているから…」


怪我でもしたのかと思って、と続けようとしたら、あたしの声は突然ピシャリと遮られた。

「特になんともありません。お気遣いは不要ですわ」

そして彼女はそのままあたしの横を通っていこうとする。右肩に手を添えたまま。

「いやいや、大丈夫そうに見えませんって」

「お気遣いは不要だと申しましたが」

「でも痛そうなんですもん。護衛の方に言って、念のためにお医者に連れて行ってもらった方がいいんじゃないですか?」

「貴女には関係ないことですわ」

「でも万一悪化したら…」

「貴女に何か悪いことでもありますの?」



なんて言っても全然まじめに聞いてくれない。全部サラサラと聞き流しているようだ。伯爵令嬢だから優雅に、なんて意識してるのかもしれないけどこっちはそろそろキレる。

スピッツでもまだ物分かりは良かったのに。

「心配して言ってるんです」

「ご心配は不要です」

クリスティナローラさんは、あたしを押しのけて何事もなかったかのように歩き出そうとした。悪化するだけなのに何故?!


「いい加減にして! 人が心配してるのに、なんで素直に話を聞こうとしないわけ?!」

例の宇宙船の要領で思いっきり彼女を怒鳴る。その場が一瞬シーンとなる。全員の目があたしにくぎ付けだってことは予想できる。

「おいどうしたのだ」

「夕莉さん?」

「夕莉ちゃん?!」

ライオネルさんとガルフォンさんとスピッツがこっちに駆け寄ってくる。よしよし、これで彼女も弁解できない。



「喧嘩か、クリスティナローラ?」

「なんでもありませんわ」

まだしらばっくれる気?!

「クリスティナローラさんは今、怪我を負ってます」

「「「怪我?」」」

「はい。隠したがってるみたいですけど」

「本当か、クリスティナローラ?!」

ライオネルさんが血相を変えてクリスティナローラさんに詰め寄った。

「そんな、怪我などしてはおりませ…」

「右肩をさっきから押さえてました」

「貴女の見間違いですわ」

なんでそこまで隠したいわけ?!

「右肩か…」

「本当に何もありません、殿下」

「ならば、見せてみよ」

ライオネルさんのよどみのない一言に、クリスティナローラさんの肩がびくんと震えた。



「どうした、見せられんのか?」

「公衆の面前で殿方に肌を見せるなど…」

「じゃあ、あたしが見ましょうか? ここが嫌ならどっか物陰で」

形勢は二対一でこちらが有利。これで流石に、クリスティナローラさんも怪我を認めざるを得ないだろう。

案の定、彼女はうつむいてそれから静かに頷いた。

「怪我をして…いるのだな?」

「はい殿下」

「まったく…!」

ライオネルさんは怒ったように呟くと、いきなりクリスティナローラさんの左腕を掴んだ。

「…! 殿下!」

「護衛兵に命じる」

彼は困惑しているクリスティナローラさんに構わず、周りにいた護衛の人たちに淡々と告げた。

「貴賓館にて、急ぎ彼女の部屋に救急セットを持ってこい」

「はっ」

「簡単な怪我だったら、私が手当てする」

え、王子様が自分で?!

「そんな…殿下、本当に大丈夫ですので…」

「その方は口出し無用である」

困った顔のクリスティナローラさんを連れて、ライオネルさんはさっさと貴賓館に向かって歩き出していった。



ふえー、強引…。

「あれは、ベタ惚れしてるんだよ」

ガルフォンさんがそばで苦笑した。


なるほど。道理で作業中、恨みのこもった目を向けられてたわけだ。

夕莉が加わったことで空気が変わった?!

ハールドを早く登場させたい〜。



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