誘拐の意味
物騒すぎる秘密が解き明かされる…。
「まあ、そのことはよろしいな」
隊長さんはやっとあたしから目を離した。
「ところでロインド様」
「はい」
返事をしたのはガルフォンさんだ。ロインドっていうのは彼の名字かな。
「先程、我が軍の救護班をお借りになったとか」
「はい、緊急の要件で」
ガルフォンさんは隊長さん相手に全然慌てるそぶりを見せない。さっすが。
「貴方は国賓ですので救護班くらいは構いませんが、手当をした怪我人というのはこの船の住人だとか」
「それが何でしょう」
「そいつはフリージー星人の仲間ということになりますな。直ちに我々に引き渡していただきたい」
「だから!」
これはあたしだ。
まったく…スピッツにも言っておいたのに。
「この人は被害者ですって! 首絞められてたって聞いてませんか?! なんなら一から状況を説明させてもらえます?!」
「しかし、この船に初めから乗っていたのならフリージー星人の仲間以外にありえまい」
「何度も言います、首絞められてたんですよ!」
「だからなんです。それは仲間割れでしょうな」
「あの迷彩服男と相方が、ハールドを誘拐してこの宇宙船に乗せたのかもしれないじゃないですか!」
言ってから、ハールドが『俺の部屋に救急セットがある』と言っていたのを思い出した。ああ…。
「突拍子も無いことを…」
隊長さんは呆れたように首を振り、後ろの兵隊さんたちに何か合図をした。兵隊さんがわらわらと出てきて眠っているハールドの身体を持ち上げようとする。
「ま、待ってくださいよ!」
慌ててハールドの身体にすがりつき、隊長さんに縋るような目を向けた。
「も、もし仲間だったとしてもですよ?! 仲間割れしたのなら、この人はグリーン星にとっては脅威じゃないでしょう?!」
「なぜそこまで庇うんです?」
「この人は被害者であり、あたしの命を救ってくれた恩人だからです!」
「芝居をして自分だけ助かろうとしたんでしょう。これだからフリージー星人は小賢しいんだ」
あたしは彼と悲惨な現場を共にした。一緒に、フリージー星人の恐ろしさを体感したんだ。なのになんで彼がフリージー星人の仲間扱いされなきゃいけない? 何であたしの言うことを信じてくれないの? 情けなくて涙が出てきた。
同時に、この隊長さんに刺さりそうな言葉を閃いた。迷わず口を開く。
「無実かもしれない人間を有罪と決めつけて断罪する。そんな星なんて誰も助けたがらないでしょうね!!」
空気が凍りつく。本隊隊長は、今まで以上に冷たい目をこちらに向けてきた。
「あなたにはそんなことは関係ない。グリーン星の危機を無視した地球人の貴女には」
…ああ、言いすぎたみたいだ。
「さあ、運び出せ」
兵隊さんたちはあたしをほっぽってハールドを運び出そうとした。ハールドを掴んでいた手も無理矢理剥がされる。
「待って、話を聞いてくださいったら!!」
隊長さんは見向きもしてくれない。ここまであたしの話を聞こうとしないなんてあまりにも違和感がある。頭が固いのかな?
「まあ待ってください」
穏やかな声がかかった。ガルフォンさんだ。隊長さんは嫌な顔をした。
「なにか?」
「もう少し夕莉さんの話を聞いて差し上げては? 有力な情報が入ってくるかもしれませんよ」
ガルフォンさん…!
だが隊長さんの返事はそっけなかった。
「彼女の証言は、この少年をフェアーナ国の収容所に収監してから聞きましょう」
収容所?!
「さあ、連れてい…」
「その者のことだが、まだ他の可能性もあるのではないか?」
突如、聞いたことのない声がドアの向こうから聞こえた。その途端に隊長さんの後ろにいた兵隊さんたちが音もなく左右に分かれた。そしてその真ん中を堂々とした態度で歩いてくる人がいる。
「話し声が聞こえてな。詳細を見に来た」
「そうですか」
心なしか隊長さんの声が緊張している。
「つまりはリビングルームに聞こえるほどの大声だったということだ」
長い灰色の髪に灰色の目、結構美形の顔。身長はガルフォンさんと同じくらいかな。だけど横幅はもっと細い。ついでに言うと、年齢はウチの晴行兄よりちょっと下か? …で誰この人。なんかこの人が来てから一瞬で空気が変わったんだけど。ハールドに不利なことを言うようなら、すぐにここから追い出してやりたい。あたしは期待半分疑い半分で灰色の人を睨みつけた。
「まあ良い。私の率直な意見を言わしてもらおうか」
灰色の人はあたしとハールドを一瞥してから言った。手をスッと指揮者のように構える。格好をつけてるつもりなの? なんか…偉そうだなあ。
「その方どもは重要な可能性を見落としている」
…可能性? 隊長さんも訝しげに首を傾げた。
「とおっしゃいますと?」
「私の見立てでは拘束されている男らが罪人だ。天王星にもよく空賊が出るのだ。女子供の乗っている船を奪うなどしてな。そ奴らは捕まり次第、裁判を受けずに縛り首になるが」
つまり…この宇宙船が元々ハールドのもので、今拘束されている男二人がこの宇宙船をスペースジャックしたってことか!!
あ…なるほど! 確かにその可能性はある! いやそうかも!
「…いえ、それはありえません」
せっかくの名推理を隊長さんはにべもなく否定した。
「え、なんでですか!」
それしかないじゃん! と続けようとしてあたしはやめた。隊長さんの鋭い目がこっちを睨んでいる。
「貴女はよっぽどその少年を無罪にしたいようですね」
「いや、だって…」
「貴女の立場が不利にならないためにも、あまりこのことに首を突っ込まない方が賢明ですよ」
なにそれ脅迫?! あたしとハールドのことを全然信用していない上に、さらに脅迫までするのか!
「そんなことより」
灰色の人が苛立った口調で続きを促した。
「なぜありえないのか説明してくれ」
「この宇宙船の運転室をご覧になりませんでしたか?」
「運転室?」
「あれは複数で運転するためのものでした。いや、正確に言えば一人が運転して、もう一人が進路の障害となる岩石を、装備していた殻爆弾で破壊しながら進むというのがこの宇宙船の運転方法です。この少年が一人で運転していたなんてとんでもない」
ううううううん。灰色の人も納得いかないと言う顔で尋ねた。
「他に少年の仲間らしいのはいなかったのか?」
「それが見つかれば話は別ですが…」
「たっ隊長! 大変です!」
兵隊さんが一人、慌ただしく物置に入って来た。
「なんだ」
「寝室から、死体が…!」
ーー
「こちらへどうぞ」
予備隊隊長のゲンネーさんに促され、あたしは恐る恐るカーペットに足を踏み出した。
ここはフェアーナ国軍の緑色の宇宙船の中…の国賓室につながる廊下。
「あちらが貴女の国賓室になります。私はここまでしか行けませんのでご案内はここまでとなります。申し訳ございません」
「いえいえ、それよりもあたしなんかが国賓室を使わせていただくのが恐縮で…」
謙遜でなく本心で言ったら、ゲンネーさんはにっこり笑って首を振った。
「夕莉さんはわが星にとって大事なお客様だと聞いております。グリーン星まですぐですが、どうかリラックスしてお過ごしください」
「あ、ありがとうございます」
「グリーン星に着いてからも、どうぞよろしくお願いいたします」
ゲンネーさんは丁寧に頭を下げて司令室(この宇宙船は戦闘用じゃないらしいけど)に戻って行った。いい人…いや、いいウサギだなあ。
◻︎◻︎
さっき見つかった死体は、少年四人のものだったらしい。らしい、と言うのはあたしは実際に見ていないからだ。まあ、聞いただけでゾッとしたし見たくもなかったけど。
死体を見た後隊長さんは戻ってきてハールドの処遇を決めた。
「彼が犯罪者の一味でない可能性が出てきた。だが一旦はグリーン星に連れて帰ることにする。運び出せ」
それで、有無をうわせず眠っているハールドと兵隊さんたちを連れて物置から出て行ってしまった。
収容所送りになったら困るって思ったけど、その時ゲンネーさんがあたしに囁いた。
「多分収容所送りにはなりません。銀河連盟に戸籍を確認してもらい、出身星を確認して保護しておくだけだと思いますよ」
保護…とりあえず監視しておくってことか。疑いは拭えてないんだな。
「この宇宙船も一旦回収します。どこの星のものか調べますので」
「はあ」
まあ、ハールドにとってはましな状況なのかなあ。でも決して良好な結果じゃないんだと思う。グリーン星に行ったら絶対彼に会いにこうと決めた。
ーー
『国賓室』と書かれたドアを開けると、机とベッドそして安楽椅子が目に入った。なかなかいい部屋っぽいな。
ここは宇宙船だし、多分全部床に固定されているんだろうな。安心して使える! せっかくだからベッドで休もう!
「ハフッ」
疲れた手足を思いっきりベッドに投げ出したとき、ドアがいきなり開いた。びくりと身を縮める。誰?
顔を上げるとそこにはなんとあのいけ好かない青制服が立っていた。
「あ、え? エ…エイザクさん」
エイザクさんの無表情な顔にはかすかに驚いた様子があった。
「貴女はさっきの…。てっきり軍の関係者かと思っていましたが」
何か文句言いにきたわけではないらしい。
「さっきまではここ、誰も使っていなかったんで僕が暇な時に出入りしてたんですよ。隣が騒がしくない部屋はここしかないんで」
「はあ」
「なのに…こんな子供にとられてしまうなんて」
言うだけ言って無表情なまま出て行こうとする。ちょっと待った! 子供ってなに!
「それにしても、幼稚なことをする…馬鹿なやつらだ」
出て行きざま、エイザクさんはポツリと呟いた。はい?! あたしのことを子供だと思って馬鹿にしてんの?!
「あたしはこれでも十六です!」
あたしが怒鳴ったのと同時にドアが閉まった。
◇◇
「やれやれ、これで一旦仕事は片付いたな」
司令室で本隊隊長はどっしりと背もたれ椅子に腰を下ろして言った。
「あの少年は一旦貴賓館に軟禁だ。その間に銀河連盟に戸籍を確認してもらい、本人から事情徴収して処置を考えよう」
「はい」
ゲンネーは頷いた。
(あの子に伝えた通りの展開になったな)
ハールドとかいう少年のことを本当に気にかけていた夕莉。そういえば彼女の方は…。
「隊長、そういえば夕莉さんについてはどうしますか?」
「夕莉さん? ああ、あの地球人か。そういえばよく連れてきたな」
「部下のものが彼女に、『助っ人として必要』だと偽っていたことを聞き出さずにいて申し訳ありません」
いきなり『助っ人』の話が出た時は驚いた。取り繕った後、スピッツを問い詰めてようやく納得したのだ。
「まあそのことは良い。それで彼女の方はお前のところで預かっておけ。監視付きでな」
「はあ」
「当たり前だが彼女は助っ人ではないぞ。別に仕事はさせなくても良い。好きにさせておけ。ただし目を離すな」
真剣な顔で告げられる。
「彼女は何のために必要なのですか?」
「そういえばまだお前には言っていなかったな」
隊長はゲンネーの耳元に口を近づけた。
「これはまだフェアーナ国内の上層部だけの話だが、今我が国では木星人に対抗する最強の兵器を開発中だ。その兵器ができたあかつきには…お前の部下が連れてきた他星人には、兵器の威力を試すための実験材料になってもらう」
次回、グリーン星の話です。
早くハールド起きないかな。




