藍色と琥珀色
スピッツ視点の時に出てくる「隊長」は基本、予備隊隊長ゲンネーのことです。
紛らわしくてすみません。
「隊長、お久しぶりです」
「機長から話は聞いていた。よくやったな」
開口一番に隊長はスピッツの頭をポンポンと叩いて言った。スピッツはもう、変身を解いている。
ここはスピッツたちが侵入した宇宙船の広いリビングルーム。現在、この船はフェアーナ国軍が占領し、中を捜査中である。
「船内をくまなく捜索し、犯人はこちらで捕縛する。で、お前がグリーン星へ向かう真空レールに乗っていたということは、俺の任務を果たしたということになるが…」
顔を覗き込んでくる隊長をを見て、スピッツは肝心なことを思い出してハッとした。
「…えっと、その人なんですが…」
「あの真空レールにいるんだな?」
「その…」
この宇宙船に乗っているなんて、言えない。
(今から考えれば、私は重要人物を潜入に引っ張りこんじゃったんだなあ…)
一般人を潜入に参加させるなんてタブー以外の何でもない。
「真空レールにいるなら今すぐ連れてきてほしい」
「いやその…」
気まずすぎて思わず目を逸らした時だった。
「離してください! あたしは違います!」
「つべこべ言わずにとっとと来い!」
「予備隊隊長殿! フリージー星人の一味を一名確保いたしました!」
声がした方を見ると、人間の兵士達が一人の少女を引きずって隊長の元まで連行してきたところだった。少女は夕莉である。物置に置いてきたのに、何故か出てきたらしい。そこを、フリージー星人の仲間と間違われて捕まったか。
「あ、スピッツ! 何とか言ってよ!」
目が合うなり、夕莉はいきなり噛み付いてきた。
(まずい、やばいぞ)
それでも釈明はしなくてはならないだろう。
「ああ、その人は私が連れてきた人ですから…」
「連れてきた人?」
隊長にぐいと耳を掴まれ、そちらを向かされた。
「彼女は一般人だな?」
「ハイ…」
「スピッツったら! この人達はグリーン星の兵隊さんなんでしょ!」
「しかもお前の知り合い? 他星の?」
「ハイ…」
「もしや彼女が、私の頼んだアレか?」
目線が怖い。
「ハイ…そうです」
「馬鹿者!」
隊長はスピッツの耳を掴んで振り回そうとした。が、すぐにやめる。呆気にとられた顔でこちらを見ている兵士たちに気づいたからだろう。
「一般人を潜入に巻き込むとは…まあいい、説教はあっちでやろう」
スピッツは耳を持ち上げられたまま、どこかへ連れていかれようとしている。
(何分で終わるんだろ…)
考えたくもない。
「スピッツったら!」
「ああそうだ」
隊長は兵士の方を振り向いた。
「その方はフリージー星人じゃない。離してさしあげろ」
人間の本隊兵士よりも、予備隊隊長である彼のほうが立場としては上である。兵士たちは首を傾げながらも夕莉の手を離した。
「ついでに言うと、グリーン星にとって重要な方だ。ゆめゆめ粗相のないようにな。行くぞ、スピッツ。お前の未熟さを叩き直す必要があるからな」
それだけ言って、スピッツをどこかへ連れて行く…。
◇◇
「とんだ思い違いを…」
「すいません! 救護班の人はいますか!」
掴まれていた腕を離されてすぐ、あたしは兵隊さんの一人に尋ねた。
上司さんに挨拶しに行ったスピッツを探していたらいきなり捕まえられたんだ。むかついてるけど、文句を言ってる時間も惜しい。怪我をしているハールドを一人残してきてしまったから。
「救護班…ですか」
あたしの腕を掴んでた中年の兵隊さんが、先ほどとは打って変わって敬語で聞き返してきた。
「怪我人がいるんです! ちょっと貸していただきたいんですが!」
「救護班は確かにいますが、我々の権限では動かせません。本隊隊長の許可を得ねば…」
あっそうですか! 不便だなあ。
じゃあ、ホンタイタイチョウとやらを探さなくちゃいけない。でも、この部屋には人はいっぱいいるけど、ホンタイタイチョウと呼ばれている人はいない。緑色の軍服を着用した兵隊さんが行ったり来たりしてるだけ。なんかいないかな、偉そうな人。
「この船が真空レールを攻撃した犯人の船ですか。で、それが何か?」
「いえその…これも被害の一つなのではないかと」
「我々が銀河連盟に報告するのは、あくまで木星人による被害のみです。勘違いされては困りますね」
銀河連盟? なんかすごく偉そうな単語が出てきたぞ! 重要人物の匂いがする!
会話がした方を見ると、リビングの隅っこで二人の人が何か話してた。一人はこれまでと同じ緑色の軍服の兵隊さんだけど、もう一人は深い青色の制服をきた人。
ホンタイタイチョウ、かな?
「すみません!」
ダッシュして二人の間に割り込む。用があるのは青色の方だ。
「何か?」
無茶苦茶迷惑そうな顔で見られた。あたしより少し身長が高い黒髪の少年。こんなこと言ってる場合じゃないけど、彼の藍色の目はすごく制服に合っている。
「あの…お、お願いがあるんです! きゅ、救護班を貸してください!」
「は?」
返ってきたのはものすごく冷たい反応。…冗談だよね?
「け、怪我人がいるんです。助けてください!」
「そういうことは関係者に言ったらどうです、僕の知ったこっちゃない」
藍色の目はものすごく冷たかった。
「隊長さんじゃないんですか?!」
「馬鹿らしい、違いますよ」
「じゃあ、隊長さんの居場所を教えてください!」
怪我人のハールドが待っている。グズグズしてられない。なのに…。
「自分で探すべきなのでは?」
少年は全然相手にしてくれない。怪我人ってワードが聞こえなかったの?!
「もうどいてください、邪魔なんで」
…仕方ないな。
「なんでよ! 人の命がかかってるのに!」
目の前の人を怒鳴りつける。一瞬リビングが静まり返った。あたしは今、注目を浴びているんだろう。それでよしそれでよし。騒ぎに気づいた重要人物が近づいてくれないかな。
「なんでそんなに冷たいの?!」
怒ってるのは本気。この人の無神経さにイラつく。泣きたいくらいに。
「僕は軍の関係者じゃないんで」
「でも、そこは普通協力するとこでしょ!」
「それは僕の仕事じゃありません」
「だからって…!」
「おいおい、どうしたんだ」
後ろから穏やかな声がかかってきたので振り向くと、茶色のマントを羽織った大柄な少年があたしたちのそばまで来ていた。
「何があったんだい?」
琥珀色の瞳に琥珀色の髪。青制服とは対照的な穏やかで優しい声。一瞬大人かと思うような雰囲気を漂わせていた。
「言ってごらん」
あたしと同じ高さにかがみこみ、話を聞いてくれる。
「け、怪我人が…」
「怪我人?」
「あっちの物置にいるんです。ほっといたら大変なんです。救護の人を貸してください…」
言った。そしたらこの人は、すぐにそばの兵隊さんに指示を出した。
「本隊隊長に伝言をお願いします。救護の人を借りますって。救護班の方はこっちに来てください」
涙が出そうになった。
胸に十字マークをつけた人たちが箱を持ってこっちに走ってくる。
「さあ、行こうか。案内してくれる?」
「はい…」
物置へと歩き出した時、後ろから冷たい声がかかった。
「ガルフォンさん」
「なんだい?」
琥珀色の髪の少年が振り向く。声をかけたのはさっきの青制服だ。
「これは僕たちの仕事じゃないと思いますけど」
「分かってるさ。けどほっとけないだろ」
「さっきも余計なことしてあの殿下を怒らせたんでしょう?」
ガルフォンと呼ばれた少年は一瞬顔を曇らせた。何か思い出してる? そんな彼に、青制服は無表情な顔で告げた。
「面倒なことになっても知りませんよ」
「なってもいいさ。だけど、人の命がかかってるって言われて普通は放っておかないよ、エイザク」
ガルフォンさんはそのままあたしと一緒にリビングを出た。




