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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
20/107

それぞれの任務

これまでの謎が明らかに…?

「大丈夫ですか」

「はあっはあっはあっ…あひはほう(ありがとう)」

「もう大丈夫ですよ。避難所はあっちです!」

グリーン星人の女性がよろめきながら避難所に向かうのを見届けてから、ガルフォンはまた別の家の残骸に潜り込んだ。

体の上からのしかかってくる木材の重みはすごいが、持ち前の頑丈な体を活かして耐え、大声を上げる。

「助けに来ましたよ! 大丈夫ですか!」

「はふへへ(たすけて)…」

反応があった。

「すぐに助けます、待っててください!」

家の残骸を取り除き、中に埋もれていた住人を見つける。六歳くらいの少女が倒れていた。

「大丈夫か?」

「う…」

少女は起き上がらない。脚に力を入れているが、うまく立ち上がれないようだ。脚が折れてるのかもしれない。

「痛い?」

「んんん…お父さん…ママア…どこ…」

「お父さんたちはお出かけしてるの?」

少女は頷く。その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。一人にしておくわけにはいかない。

「避難所まで連れてってあげる。そこで、パパとママに連絡をとってもらおう。おいで」

ガルフォンは少女を抱き上げて避難所に向かった。



ーー

ガルフォンが避難所から出た時、ちょうど怪我人を避難所に預けたばかりの自分の護衛兵とぶつかった。

「あ、お疲れ様です」

「ガルフォンさん、いい加減に切り上げて貴賓館に避難しませんと」

「それはそうですけどまだ埋もれている人が…」

「まだ木星人は撤退していないんですよ」

遠くの方で悲鳴が聞こえる。それとトラックの動く音と何かが潰れる音も。

「もう、レスキュー隊を呼び出しましたから…」

若い兵士がしつこく服を引っ張るのをガルフォンは苦々しい目で見た。



「木星人が攻撃するたびに出る死人・怪我人の数を記したデータを見せていただきました。レスキュー隊で何割の命が救えたんです? レスキュー隊が来るまでに死んだ人たちだっているんでしょう?」

「それは、そうですが…」

「死人なんて出て欲しくないです、絶対に」

力を込めて言う。まぎれもない本心だった。

「それは…」

「じゃあ、次行ってきます」

「おい」

後ろから肩を掴まれる。振り返るとライオネルがいた。かなり怒った表情をしている。どこでやられたのか、頰に切り傷がついていた。



「ライオネル! こんなところで何やってるんだ! 危ないだろ、早く逃げなよ!」

「何やってる? それはこちらのセリフだ!」

ライオネルは怒った顔のまま、ガルフォンの肩をグラグラ揺らした。

「この町は今、木星人に攻撃されているのだぞ! なのに笛を吹いても来ず、避難もせず、こんな所でグズグズしおって!」

「グズグズしているわけじゃない! 人命救助をしてただけだ!」

「人命救助? それは私達の仕事ではなかろう。もう少しでレスキュー隊がここに到着すると聞く。その者らに任せると良いではないか」

「こうして話している間にもあの家の人たちは死んじまうかもしれないんだぞ!」

住宅街の残骸を指差しながら必死で肩の手を振りほどこうとする。だがライオネルの大人の手はガルフォンをガッチリ掴んで離さない。

「行かせてくれ、頼むよ!」

「だめだ、貴賓館に来い!」

「なぜ?! 人の命を救うためなのに!」



心の底からの声を投げかけると、ライオネルはそこで初めて肩に加えた力を緩め、ため息をついて言った。

「お前一人で何人の命が救える。どのみち死ぬものは死ぬのだ」

「うう…」

「それに、私たちの任務はあくまでグリーン星(ここ)の被害の調査・銀河連盟への報告であろう」

「だけど…」

「その私たちに何かあったらその任務はどうなる。果たすこと能わず、だ」

「…」

「分かるな? ここに来たからにはその任務を第一に考えろ」

「…ああ」

項垂れたまま頷く。確かにライオネルの言ったことは正しい。理性はそう言っている。けれど…。



(…いやいやだめだ)

住宅地から目をそらす。このままではまた駆け出しかねない。

「分かった…行くよ」

「分かれば良い。…その方らも来い」

二言目は周りの兵士たちに言って、ライオネルはそのまま歩き出した。

「まったく…こんな時に単独行動などして…」

「…悪かったよ」

「危ないということがなぜ分からんのか…」

「…」

完全にガルフォンのことを無視してブツブツ言っている。「分かれば良い」と言いながら、まだ怒っているらしい。

「統率役の私の身にもなってみよ…」



「お前一人だけいなくて、どれほど心配したか…」



「ライオネル…」

「探しに来たら来たで途中で木星人と会うし…」

「それは…!」

「相手が数名だったから撃退できたものの…」

ライオネルが後ろを振り返る。そこにいる彼について来た年かさの兵士が頷いた。彼の手には薄汚れた袋が握られている。

「私の端正な顔に傷ができてしまうし…」

ライオネルは今度はガルフォンの方を見て、忌々しげに頬の傷を指でなぞった。

「ライオネル…」

「ここまで来るのが一苦労であったわ」



「…ごめん」

気がつくと、口から言葉が出ていた。

「ごめんな、ライオネル…」

さっきまでの自分の身勝手さがありありと思い出される。

「護衛の方々も、僕に付き合わせて申し訳ありません」

謝罪の気持ちを込めて思い切り頭を下げる。ひょっとしたら、彼らを危ないことに巻き込んでしまったかもしれないのだ。

「いえそんな」

「頭をお上げください」

「我らはちっとも…」

国賓から頭を下げられて兵士たちは困り顔だった。それを見てライオネルは言った。

「もう良い、戻るぞ」

「君にも本当にすまないな」

「まあ良い。無事で何よりだった」

「…そっちも」

「今の私たちには木星人たちの攻撃が止むのを待つことくらいしかできん」

「それが終わったら、即銀河連盟に連絡入れなきゃな。一週間前の被害について」

「そのあとは今回の件の調査・報告だ」

「なんか急に疲れてきたな」

「帰ったらお前に話すことがたくさんある。休憩しがてらそれに付き合え。分かったな」

ニヤリと笑ったライオネルは、もうガルフォンのことを怒ってはいなかった。



◇◇

十分後。攻撃は止んだ。そして木星人たちは例によって跡形もなく姿を消した。いつのまにか、誰にも気付かれずに。



「これが今回の襲撃の被害となります」

攻撃が止んでニ時間後、ゲンネーは司令室にて数枚の報告書をフェアーナ国軍本隊隊長に提出した。

「ご苦労」

大きな口髭をした隊長は受け取り、ざっと目を通した。

「よくできている。後でこれのコピーを国賓の方々にお渡しするように」

「かしこまりました。では失礼いたします」

「あ、待て」

下がろうとしたゲンネーを隊長は呼び止めた。

「なんでしょうか」

「お前はすでに聞いていたかもしれんが、今回の襲撃の終盤に国賓の一人のアレスファリタン様が木星人と戦われた」



ゲンネーは護衛兵からの報告を思い出した。

(そういえばそうだったな、しかしそれはライヨル嬢やブルネウ様も同じでは?)

木星人には三人とも遭遇している。

「その際にだが、あの方は木星人本人は逃されたものの、奴らのうちの一人の持ち物を手に入れることに成功なさったのだ」

(なかなか大したものだ。歓迎会での大言壮語は伊達じゃなかったのだな)

ゲンネーは今更ながらライオネルに感服した。

隊長は机の上に薄汚れた袋を置いた。これがどうやら木星人の持ち物らしい。

「中はなんだったと思う?」

「分かりません」

隊長は袋を逆さに振った。何か四角いものがたくさん机の上に落ちてくる。



「これは…」

「私もこんなものが出て来るとは予想もしなかったよ」

隊長は何度も小さく頷いて言った。

出てきたのはグリーン星製のチョコレート。ピンク色の包みの板チョコである。

「これだけだったのですか?」

「ああ。全くわけがわからん。だが、念のためにお前たちの隊の薬物班にこのチョコレートの検査を頼みたい。案外中身が麻薬ということもありえるからな」

「かしこまりました」

袋を脇に抱えて今度こそ退出しようとすると、またもや呼び止められた。



今までよりも距離を詰められる。隊長の顔はさっきよりも真剣だった。声も潜めている。

「この前、お前に依頼したことを覚えておるか」

「何匹かの兵士を他星に派遣し、その星の人間を誘拐してくるという任務のことですか?」

「そうだ。それで、今の時点で何人戻ってきた」

「いえ、それが一人も…」

「なんだと…」

隊長の顔が険しくなる。

「一匹もか」

「はい」

スピッツやイチアール、その他数名の兵士たちのなかで誰一人として任務を果たして戻ってきている者はいない。

「遅いではないか。いつになったら帰ってくる」

「慣れない星で苦労しているかと思います。しばしお時間を」

「分かった。なるべく急ぐように。グリーン星のためだ」

「はっ」

「あともう一つ」

隊長の声色が戻った。

「先程、太陽系発グリーン星行きの真空レールがフリージー星人と見られる奴らに攻撃されたとのこと。被害の報告のための国賓四方を連れ、直ちに現場に向かう。支度せよ」

もうすぐ異邦人六人が揃う、かな?

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