危機
「『木星人の攻撃の内容を連盟に報告・損害の穴埋めを求める、グリーン星の空気に適応する人間を、それぞれの星から一人ずつ出す』。これが、宇宙会議で決まったグリーン星への支援だ」
普通の人間くらいの背丈のフェアーナ国予備軍隊長のウサギ・ゲンネーは、同じくウサギだが自分の半分くらいの身長の部下や兵士たちを多目的ホールに集め、淡々と告げた。
部下たちは無言で顔を見合わせる。
「その方々が今日中にはこのフェアーナに来るので、俺は今から出迎えに行って来る。なお援助を申し出たのは、エーディス星、天王星、カルメヂ星、冥王星の四星のみだ」
それを聞いて兵士たちがざわざわとなった。
「隊長!」
兵士の中から一人のウサギが手を挙げた。ブチ模様の問題児だ。
「いいぞ。発言を許す」
「それでは納得がいきません! その援助はあまりにもささやかすぎます!」
「いきなりそれか」
「隊長は、そうは思われないのですか?!」
長い耳を真っ赤にして叫ぶ。元気がいい。ゲンネーはうつむいて苦笑した。遠慮を微塵も感じさせない彼の態度は、こんな時でも見ていてどこか微笑ましい。
「なんなんですか!」
「いや…」
慌てて咳払いをした。そうだ、笑っている場合ではない。再び部下を見やった時、ふと自分の腹心が手を挙げていることに気づいた。
「ラーシル副隊長、発言を許す」
「はいっ」
ラーシルは割としっかり者である。
「隊長、その件に関しては僕も同意見です。今のグリーン星の状況からして、木星人に立ち向かうにはそのような支援ではしのぎ切れるものではありません。一年前から攻撃が始まって、一ヶ月前には隣国のトラヴァーレに侵略宣言まで出したではないですか。奴らの意図は明白です。もういっそ、銀河連盟に奴らの本拠地の木星に軍を派遣してもらうしか…」
ゲンネーはため息をついた。それができればどんなにいいだろう。
「どこも、自星が可愛いからな。そんな思いきった手段には出んよ。ましてや、相手があの木星となると…」
木星は大きく、そして軍事力が高い。並みの星では歯が立たない。
「しかし、グリーン星の次は自分たちの星の番かもしれないのに…」
「さあてなあ…」
グリーン星は銀河の片隅の小さな星である。十の国から成る星で、人口もまあまあ多い。経済も豊かで、科学もそれなりに発達している。その力で、二本足で立ちさらに言葉も話せる兵士ウサギを生み出せるほどに。
もともとは辺境の一星にすぎなかったグリーン星が、何百という星の間で結成された銀河連盟に加盟したのは百年前のこと。科学技術が発達しながらも、豊かな自然を育む特性を注目されたのだ。
しかし、幸か不幸かその特性のため、近頃グリーン星は巨大な軍事力を誇る木星に侵略されかけていた。
都市の攻撃が続き、近頃は侵略宣言まで出された。
「この星は我々の支配下に収めてみせる」と。
グリーン星側も、応戦するものの向こうの武器には到底叶わない。それに何より木星人は不定期にどこからともなく空中に現われ、テロのような攻撃をするだけしてまた空中に消えていくので始末が悪い。
「今は、全面戦争になっていないだけまだいい。しかし、もしもそうなったら…」
十カ国の間で会議が開かれ、銀河連盟に助けを求めることになった。グリーン星の急な要請で宇宙会議が開かれ、出た結論というのがゲンネーの言っていたあれである。
他にも、「木星人が自星からグリーン星まで行くのに、必ずそばを通るであろう土星や冥王星などの星の宇宙監視網にかかったことがないのはなぜか」などの疑問も出たが、
「きっと木星人は瞬間移動の技術を持っているのだ」
という推論で片付けられた。木星は、銀河連盟に加盟していないので詳しいことは分からなかったのである。
「ああそうだ、あともう一つ」
ゲンネーは部下たちの後ろに控えている、兵士たちの方に目を向けた。兵士たちの、それも特に後ろの方に視線を彷徨わせる。
(こういう時、あいつは「いやーな予感」ってやつを敏感に感じ取っていちいち俺から視線をそらすんだ)
案の定、いた。巧みにゲンネーの視線を避けようとする薄ピンク色のウサギが。
(そうやったところで、逃げられるはずもないのに)
「スピッツ!」
名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を震わせた。
「後で、私の部屋に来い」
「あの…」
「つべこべ言うな。隊長命令だぞ」
「は、はい…」
スピッツはしょぼぼーんと肩を落とした。