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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
19/107

突入

ついに、あの二人が出会います!

ダーン!

また一発。運転席から何かを撃つ音が聞こえる。

(もしもの時のための殻爆弾か…どこに撃ってる?)

「おお、始まったな」

迷彩服男は楽しげに笑った。

「あの忌々しいグリーン星の連中にせめてもの嫌がらせだ。あいつらのせいで、俺たちの星は未だに支援が受けられねえんだからな」

(グリーン星? 俺たちの星? 支援?)



「…つうッ」

そんなことより肩が痛い。呻くハールドは頭も上げることができない。

(重い…重い)

不意に、視界の隅に銀色に光る物体が現れた。鈍い光を放つそれを、こめかみに押し当てられる。

「仲間んとこへ行きな。おっと、もう仲間じゃねえな。最初から大人しくこの宇宙船を差し出していれば、こんなことにはならなかったのにな」

迷彩服男の言葉に、さっきのラクープの呟きを思い出した。



『な…んで……言ったら、許してくれるって…』

裏切られた。

(あいつは俺の居場所を教えて、自分だけ助かろうとしてたのか…)

親友だと思っていたラクープに、裏切られた。

(そんなわけなく、なかったんだな…)



体からふっと力が抜ける。もうどうでもいい。何も考えたくない。今はもう瑠璃色に戻った眼を閉じた。

「いい度胸だ。一発で逝かせてやるぜ」

そして頭に衝撃が…



こなかった。



違和感を感じて眼を開けると、身体がなんと浮いていた。周りを見渡すと、さっきとは景色が上下逆さまになっている。

と思ったのも束の間、すぐに背中に衝撃を感じた。地べたに叩きつけられたのだ。

いや、地べたではない。天井だった。さっきまでハールドたちの頭上にあった天井に、落下したのだ。

「ううっ」

肩の痛みがジンと響く。

「…痛え」

少し離れたところで迷彩服男が腰をさすっている。銀色の銃は男の手から離れ、ハールドの側に落ちていた。とりあえず拾ってケープの内ポケットに入れておく。と、その時!

ドスドス、ドスドスドスッ。

頭上から、大量の段ボールが降ってきた。床に積んでおいた重量の段ボール。

「うわあ!」

「危ねえ!」

ハールドも迷彩服男もさっきまでのことを忘れ、ひたすら物置内を逃げ回った。

その間にも、砲声は止まない。

ダーン!

ダーン!

ダーン!

すると、また上下が反転した。向きを変え、降ってくる段ボール。念力でかわそうとしても、キリがない。

「エンデムの野郎、攻撃に夢中になって運転の方が億劫になってやがるな…」

迷彩服男の呟きを最後に、ハールドは降ってきた段ボールの一つに頭をぶつけて意識を失った。



そしてしばらくの間、スピッツたちが見たとおり宇宙船は回転や短距離移動を繰り返し続けたのである。



◇◇

初めての宇宙船への潜入。しかもパートナーは(射撃はダメだけど)プロのウサギ兵士。

まずスピッツが宇宙船の上に降り立った。

「この宇宙船、結構旧式だね。中に潜入してもセンサーが働かないな、こりゃ」

「う、うん」

「こっそり行くよ。夕莉ちゃんはとにかく付いてきてね」

「分かった」


◻︎◻︎

スピッツの運転する救急ボート(外見は丸いカプセルぽかったけど)は攻撃を続ける宇宙船の死角をかいくぐり、ついさっき無事に宇宙船にたどり着いた。(その時にはどういうわけか宇宙船の暴走と攻撃は止まっていたので楽々宇宙船を停めることができた)

それだけでもすごいのにさらに今、彼女は突撃寸前も少しも慌てていない。対してあたしはこういうことは未経験だから、ものすごく緊張している。正直、足手まといにならないかものすごく不安だ。

でも、ここで引くことはしない。スピッツはあたしのことを信じて連れてきてくれたんだから。


それにあの場で、違法乗車をしたあたし1人が残るっていうのも不安だ。そういう思惑もある。



「行くよ」

「うん」

あたしたちは一気に入り口の蓋を上げた。



ーー

「静かにね」

入り込んだ宇宙船をさっさと走り抜けるスピッツ。地面に降り立つなり、機械油の匂いがした。結構老朽化していたけれど宇宙船は広かった。あちこちに部屋がある。スピッツは時々部屋を覗いては「ここじゃない」「ここでもない」なんて呟きながらぐんぐん進んで行く。運転席を探しているのかな。

「…」

「なにも鳴っていないから侵入したことバレてないよね」

「…」

「広いね」

「…」

「でも古いね」

「…」

「木星人の船ってこんなに古いんだね。もっと新式かと思ったのに」

「…木星人じゃない」

え?

「この船に乗って攻撃してきたやつらは木星人じゃない」

「え? じゃあ誰?」

「あとで話す」

それだけ言ってスピッツは黙り込んでしまった。

というか、この宇宙船の奴らはグリーン星製の真空レールを攻撃してたんだよね。なのになんで木星人じゃないの? グリーン星には他にも敵がいるってこと?

分かんない。あとで絶対説明してもらおうと決心した時だった。



「…エンジンの音」

呟きとともにスピッツの耳がピクリと動く。エンジンの音? 全然聞こえないんだけど?

「確かに聞こえた…あっちだ!」

タタタタタタと駆け出して行く。今までとは比べものにならない速さだった。

「ちょっと待ってよ!」

とてもじゃないが追いつけない。精一杯走っても、差は開いていくばかりだ。

スピッツの足が速いのは分かったけど、こんな正体不明の敵がどこにいるか分からないくらい宇宙船で一人残されるなんて真っ平ごめんだ。



まっすぐ行って、曲がり角を曲がって…完全にスピッツの姿を見失い、あたしは途方にくれた。

「どこお…」

目の前は突き当たりでそこに僅かに開いたドアがある。何かの部屋だ。ドアの上には『物置き』と書いてある。

「物置き…」

こんなところにスピッツがいるわけない。けど…なんか気配がする。

もしかしてスピッツかな? 淡い期待を胸に、あたしはドアに耳を当てた。



「やっと揺れが収まったと思ったら、今度は銃がねえ…。くそ、段ボールに埋もれてんのか…」

聞いたことのない声。まだ若い男かな。…っていうか、敵じゃん! 逃げなきゃ!

「探すのもめんどくせえ。よし、こうなったら素手でやる。俺の犬の仇は首を絞めて打ってやらあ」

首を絞める…殺すのか!

何も考えている暇はなかった。逃げるのも忘れてドアを開ける。目の前に、こちらに背を向けて誰かの上に馬乗りになっている迷彩服姿の男が目に入った。その手は…本当に首に掛かっている?!

「済んだかエンデム。見てろ、最期の一匹を今から殺すぜ」

「ううう…」

こちらに背を向けたまま男は言う。同時に組み敷かれた人物の喉から微かな呻き声が漏れた。この声は…子供!



「何を!」

走り込み、迷彩服男を突き飛ばす。同時に少年を後ろに庇った。

「ああ? なんだテメエ?」

迷彩服男はすぐに起き上がってあたしを睨んできた。無茶苦茶凶悪な顔だ。

「まだ残りがいたってか」

「残り?! そんなの知ったことか!」

怖いけど、そんなこと言ってる場合じゃない。

「自分が何をしてるか分かってるの?!」

「あ?」

悪びれない様子に、心底むかむかしてきた。

「こんなことして…」

「どけよ。先に首を締めてもらいてえのか」

こちらに伸ばしてきた手を大きく薙ぎ払う。

「人の、それも子供の首を締める! なんの意味があってこんなことを?」

「ああ? 意味?」

男は苛立たしげに唾を吐いた。



あたしは奥歯を噛んだ。ことの善悪をスルーして、人になんのためらいもなく危害を加える。こういう話の通じない気狂いは本当に大嫌いだ。

嫌な記憶が蘇ってくる。それを振り払うようにあたしは男を睨んだ。

「おい」

不意に背後から声をかけられた。疲れきった顔の瑠璃色の眼の少年がこちらを見ている。同い年くらいだろうか。

「なにさ。邪魔しないで」

「こい…つはあんたが思っ…ている…ほど物分かりの…いいやつじゃ…ない。綺麗事…なんてむ、い…みだ」

苦しげだった。喋らなくてもいいのに。

「分かってるよ!」


けど言わずにはいられない。こんな男には憎しみの一つ二つぶつけてやらないと気が済まなかった。

でも同時にあたしの脳の半分は冷静な状態だった。多分、こいつには正論は通用しない。かと言って戦って勝つのも多分無理。だから話をして打開策が閃くまで時間を稼いでいる。そういえばスピッツの様子だとこいつらはグリーン星の敵っぽいけど…。


「俺の…体力が…回復するまで…少しま…」

「ええい、ガキどもがごちゃごちやかましい!」

肩を掴まれた。同時に身体が持ち上げられ、壁に叩きつけられる。顔面に強烈な痛みを感じた。



首根っこを掴まれて壁から離され文句を言う間もなく、また叩きつけられる。今度は腕が壁にぶつけられた。

「もういい、テメエを先に殺す。まずは身体中に痣をこさえてやらあ!」

今度は背中をもろにやられ、肋骨に衝撃が走った。我慢できず、ついにあたしは抵抗しようとした。首を締め付ける力からどうにか逃れようと、男の厚い手を掻き毟るがまるで効果がない。ぶつけられた手にもうまく力が入らない。

「ああ…」

「邪魔をしやがった報いだ、覚悟しやがれ!」

スピッツ。喉から声を出そうとした。声が出ない。痛い、痛い、痛い。誰か、誰か…。



「テメエ、何をしやがる!」

いきなり首から手が離れた。喉が解放され、あたしはとっさに倒れこむように壁にもたれる。痛い…痛い。

「下ろしやがれ!」

うっすら目を開けると、宙に浮く迷彩服男と、いつのまにか立ち上がり目が朱色に変わった少年が見えた。

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