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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人帰還
105/107

2日目 午前~夜

暗躍回。

朝食後すぐ、兵站業務の為ガルフォンは兵士達によって監禁部屋から連れ出された。

事務室に入りデスクに着くと、入り口からエイザクの声がした。

「皆さん、おはようございます。明日の午前にバリッツ艦長代理が進捗状況を聞きに来ますからね」

「「「了解」」」


続いてエイザクはガルフォンのそばまで近寄ってくる。

「ガルフォンさんも、今日までですがよろしく頼みますよ」

言いながら、メモが渡される。脱出するための船とその場所が書かれたものだろう。

「いいですね?」

「・・・ああ」



ーー

午前中は事務作業だった。正午過ぎからは、食料・武器・燃料が指定した分正しく配備されているか倉庫で監査を行う。

「参りましょうか」

兵站部の兵士がガルフォンの周りを取り囲むようにして廊下を誘導する。手伝いに呼び出されたといっても、兵士のガルフォンに対する警戒心は薄れたわけではないのだ。


倉庫までの道のりはかなり遠かった。

一人、また一人と、兵站部一行が廊下を通る間に何人もの兵士達とすれ違う。人通りが盛んで人の目も多い。これは確かに、常時に逃走するのは不可能だろう。

今のガルフォンが目を引かないのは、兵站部の制服を身に着け、さらに集団行動をしているからなのだ。

(エイザクが指定した船まではまあまあ距離があった。3日目にチャンスがあるとはいえ、完全に兵士に見つからずにあそこまで行くのは厳しいだろうな)

脱走計画のことを考えては、緊張と心配で胃がキリキリと痛むのを抑えつけた。



「着きました」

案内されたのは、天井高8m以上もありそうな巨大な倉庫。

倉庫の真ん中にはブロック状に束ねられた物資の数々が山のように積んである。ガルフォンはすさまじい量に圧倒される一方、小さなしかし確かな達成感を覚えた。

(あれが、僕の仕事の成果ってわけか)

「こうして物資を配備できるのも、ロインドさんが手伝ってくれたからですよ」

ガルフォンの心情を察したのか、少尉が物資に目をやり誇らしげに微笑む。


そして彼は兵士たちに向き直って指示を出し始めた。

「今から我々はここに積まれた物資を監査する。我々が指定した物が、指定した数あるか、指定した数ごとにブロックになっているかをどうか確かめるのだ。そして問題ないものはあのコンベアに流せ」

よく見ると、物資の奥に3本のベルトコンベヤーが動いているのが見えた。きっと、輸送船に繋がっているのだろう。

「では各々にリストを配る」


ガルフォンに配られたのは缶詰のリストだった。ちら、と天井を見上げてから彼はリストの分量を数えた。

(問題ない。早く終わらせて燃料や武器の方もやらせてもらおう)

チェックしつつ盗む。皆すさまじい量をチェックするのに必死でガルフォンの盗みには気づかないだろう。



だが、缶詰のブロックを見た彼は想定外の事態に顔をしかめた。

縦に横にと缶詰のブロックを囲うように束ねている金属製のベルト同士の間隔がかなり狭いのだ。なんとか指3本が入るくらいの隙間しかない。これではベルトとベルトの隙間から缶詰を取り出すのは不可能だ。

念のため、事務室のゴミ箱から折れた刃物を拾って持ってきてはいるが、これでベルト自体を壊すこともできないだろう。


どうしたものかと焦って他の物資を見るが、全て同じように束ねられている。

(このままじゃ何も取れない・・・)

船だけあっても、グリーン星までたどり着くことはできない。今回の脱出計画は失敗に終わってしまう。

(どうすればいい・・・)


こうしている間にもベルトコンベアでブロックが運ばれていく。

汗を流しながら必死で頭を働かせる。

「痛・・・」

気が付けば、刃物を持つ手に力が入っていた。

と、そこで1つの策を思いついた。


ガルフォンは苦渋の表情で手元の刃物を見つめる。

本当はやりたくない。放浪時代の自分ならきっと、こんな行為を軽蔑していただろう。

(こんな・・・こんなこと)

しかし、今の自分はそれをやるしかない。希望を繋ぐためにも。



血がにじむほど刃物を握りしめ、ガルフォンは一思いにベルトの隙間から缶詰を刺した。

アルミ製だったのか、缶にはあっさりと穴が開く。この瞬間、賞味期限はその日以内の消費期限へと変わったのだ。

(ああ・・・嫌だ。こんな、食べ物を粗末にする行為・・)

だが、1つでは問題にならない。ガルフォンは数10個の缶を刺し、さらにフリーズドライのパックもいくつか破いておいた。


そして。

「少尉、物資の中に穴が開いているものがあります!!」

自作自演の始まりだ。



ーー

ブロックは全部解体。一度ベルトコンベアに流したものも、全て回収。

「不良品が多くある可能性がある。穴が開いているもの、破れているものを見つけ物資から排除しろ」

食糧だけでなく、武器や燃料もその対象だった。特に燃料は、パックが破れていたら本当に洒落にならない。


皆が血眼になってチェックしているのを尻目に、ガルフォンはベルトが取り払われた物資を難なく回収していった。

(食糧、武器、燃料。これだけあれば十分だな)

食べることに苦労した過去を思い出し心がチクリと痛んだ。だが、今を乗り越える為だと切り替える。


(よし、じゃあそろそろ)

物資を入れた袋を持って立ち上がりかけた時だった。



「ああっ」

倉庫に悲鳴が響いた。誰もが手を止め、倉庫の奥に目をやる。

「たす、助け、助け、たあああああああああああああ」

兵士の1人がベルトコンベヤーに巻き込まれている。立ち上がり、全員で駆け寄る。


「どうなってる!!!」

「早く、早く、うがあああああああ」

右半身だけをこちらに向け、右腕と足をばたつかせ必死に助けを求める兵士。それ以上は動けないのだ。制服の襟と左袖がベルトコンベヤーに巻き込まれている。このままでは首や手も金属に侵食されてしまう。


「コンベヤーを止めろ!!」

少尉の指示を待つまでもなく、兵士が停止のレバーを引く。だが、コンベヤーの動きは止まらない。

「だめだ、こいつの服で詰まってます!!」

「助けてくれ、あああああああああああああ」

コンベヤーが兵士の首に食い込み、彼は顔をのけぞらせて喘いだ。他の兵士は何とか制服を脱がせようとするが男の体勢が引っかかって邪魔をする。


「皆さんどいてっ」

群がる兵士を押し退け、ガルフォンは兵士に覆いかぶさった。そして刃物を袖に隠したまま、男の制服をびりびりと切り裂く。迅速に、兵士を傷つけないように。早く、早く・・・。


10数秒後、服は最後まで切れた。

「はあ、はあ・・・」

服の残骸がベルトコンベヤーに消えていき、自由になった男はよろよろと地べたを這ってそこから遠のいた。



息も絶え絶えの彼を支えるものを含め、兵士一同は感謝のこもった目でガルフォンを見る。

「ロインドさん、感謝いたします」

「いえ・・・」

放って置けなかった。それに、兵士がうっかり天井を見てしまったら困るから・・・。



ーー

◇◇

ガルフォンが倉庫で物資を盗み、隙を見て天井付近にいた夕莉に投げ渡す。

その夕莉から物資が入った袋を受け取ったエイザクは今、人気のない通路でこっそり作業をしていた。


盗んだ物資を異邦人の居る監禁部屋に持って行くことはできない。明日合流できないエイザクが持ったままというわけにもいかない。

となれば、監禁部屋から脱出用の船に向かうルートのどこかに隠しておかなくてはならない。こここそが、前もって選んでおいた隠し場所だ。


通路の両脇の壁の上部には蛍光灯が等間隔に並んでいる。その中で唯一点滅しかけている蛍光灯の前で、エイザクは踏み台に上り取り外し作業をしていた。

(蛍光灯を壁に止めるねじを長くすれば、蛍光灯の後ろにスペースが作れるかもね)

袋を引っ掛けた左手で蛍光灯を支え、右手でボルトを外していく。

(よしよし・・・)


「何をしている」

突然、静かな通路に声が響き渡った。それは苦手な上官のもので、顔を向けるとその人物とばっちり目が合った。

「バリッツた・・・艦長代理。お疲れ様です」

「何をしているかと聞いているんだ」

挨拶を返さず居丈高に振舞う男。エイザクは目線を戻しぼそぼそと口を開いた。

「見ての通り、光源のメンテナンスですが。目についたからやっていたんです」

「子供部屋から出て勝手な真似をしているな」


バリッツ大尉はわざとらしくハーッとため息をつくと、ふとエイザクの左腕の袋を見た。

「その袋は何だ。妙に膨らんでいるな」

「別に大したものではありません」

「見せろ」

バリッツ大尉は袋をひったくり、中身を地面にぶちまけた。



ガラガラゴン。ガシャ。

音を立てて地面に散らばったのはドライバー、ボルト、ナット等のメンテナンス器具。そして古い蛍光灯のカバーだった。

「・・・」

「全部拾ってくださいね」

エイザクはバリッツ大尉に一瞥もくれることなく、もくもくと点滅している蛍光灯を新品に取り換えた。


夕莉から預かった袋は踏み台の中だ。この作業が終わった後、隠す予定である。

(蛍光灯の裏には確かにスペースを作れるさ。でも、足場がなきゃ取れないようなところに隠したりしないよ)

壁の下部にある樹脂製のカバープレート。そこを開ければ配線器具用のスペースがある。コードを取り出せば袋が入るだろう。


真上の、新品に取り換えたばかりの蛍光灯がいい目印になる。

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