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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人帰還
104/107

1日目 午後~夜中

「事務室の人と夕莉さんの部屋の見張りに睡眠薬を盛りました」

状況を飲み込めていないガルフォンが口を開く前に説明を始めた。


睡眠薬は倉庫に保管されていたものだ。「最近不眠症だから」と申請して貰ってきた。

「効き目は1時間です。1人分を分けて飲ませてるので」

それ以上の時間だと業務に影響が出るし何より不審に思われるリスクもある。


「状況はこんな感じ。じゃ、時間ないんでちゃちゃっと話し合いましょう」

「・・・君は、僕らに何をしようとしているんだ?」

「まだ不審に思います? 貴方たちをここから逃がしてあげようとしてるんですよ」

そう、異邦人にはこの船から逃げ出してもらいたい。


「はあ?! どういうことだよ! 君は僕らをフリージー軍に引き渡そうとしていたじゃ」

「ガルフォンさん!」

激高しかけたガルフォンを夕莉が小声で制する。

「大声上げたらここの人起きちゃうでしょ」



ガルフォンは慌てて口を閉じたが、それでも不審げな目でエイザクを睨んでくる。

まあ、ガルフォンらにとっては当然の疑問か。

「北大陸にいた時はフリージー軍の意向で動いていましたけどね。この船に乗船してから考えが変わったんですよ」


「貴方達異邦人に関心を持ちました。特に天王星の王子様。まだ貴方達は面会してないでしょうけどもう回復間近ですよ。壊死しててもおかしくない重症を負ったり、あんな高所から落ちて頭を打ったりしてたのに」


「あの人の体は普通とはだいぶ違うみたいですね。そんな面白い研究対象を閉じ込めたままにしておくなんて勿体無いじゃないですか」



()()()()()を述べたところで、真上からの視線に気が付いて顔を上げる。

「・・・好奇心ってことね。それだけの理由で私達を助けてくれるんだ?」

夕莉が鋭い視線を向けてくる。だが、時間がないことを意識しているためかそれ以上の追求はしてこなかった。

ガルフォンの方は苦い顔をしつつも一応納得しているようだ。

「配下にこんな奴がいるとか、組織にとってはとんだ災難だな」

「でしょうね。じゃあ本題に入りますよ」

声を一層落として続ける。



「フリージー軍の思惑から簡単に説明しますね。フリージー軍はグリーン星と協力関係を結び、後に銀河公認の正式な同盟を結ぶつもりでいます」

「僕らが必要になるのは後者ってことだな」

「そう。協力関係の時点で実質の同盟ですが、それでもまだ2星間だけのものでしかないのであくまでも『仮同盟』のようなもの。銀河連盟から派遣されてきている貴方達の立会いのもとで正式な同盟が実現するんですよ」

「協力関係の後で同盟か・・・。何で2回に分けるの? まどろっこしいな」

夕莉から鋭い指摘が入る。まあそれはこちらの話を聞いていくうちに分かるだろう。

まずはエイザクのプランを聞いてもらおう。



「今現在、フリージー軍の司令官が密かにフェアーナ国に向かっています。今日から数えて5日目には両星の間で協力関係が結ばれるでしょう。貴方達にはその場に割り込んでほしいのです」

「協力関係を結ばせないように邪魔しろって言ってるのか」

「いいえ。協力関係自体は結ばれますよ。フリージー軍(こっち)にしかない情報とかありますので。ただ、貴方達が割り込んでくれればフリージー星が優位に立つことができなくなるんですよ」

そう。フリージー軍が抱える問題、不利な要素を異邦人によって暴露してもらうのだ。


「・・・何を教えてくれるんだ」

ガルフォンはさっそくメモを取る準備をしている。

「流石、話が早いですね。じゃあ順番に説明していきますね」


「その1、フリージー軍の基地があったペルミネ星が木星軍の攻撃を受けて消滅したこと」

「その2、その被害によってフリージー軍の戦力の4割が壊滅したこと」


「よって、現在のフリージー軍は万全の状態ではないということです。フリージー軍の司令官はその事実を隠したまま協力関係を結ぼうとしてるんですよ」



夕莉は驚きのあまり目を見開いている。

「星1つがなくなったんだ・・・。エイザクさんは元からそのことを知ってたの?」

「いいえ。北大陸にいた時は知りませんでした」

乗艦してから兵士たちに聞かされ、エイザク自身も衝撃を受けたのを覚えている。


「そんな状態で協力関係を結ぼうとしてるなんて。・・・少しでも復旧してからにすればいいのに」

「そうも言ってられないんですよ。木星軍がグリーン星に降伏勧告をしたのでね」

「そんな・・・!」

「はい。6日後・・・今日から数えて7日目に降伏するようにと言われたようです」

ペルミネから脱出した司令官は、「取り急ぎ協力関係を結ぼう」と当艦に戻らず直接フェアーナに向かうこととなったのだ。



◇◇

「まだ話は続きますけど、ここまで大丈夫ですか?」

うん。オーケーオーケー。

ガルフォンさんの方も、メモを見ながら復習しているみたい。

「グリーン星が木星から降伏勧告を受けている、フリージー星は戦力低下を隠して協力関係を結ぼうとしている。僕らは脱出して、フリージー星の現状を告げて、フリージー星の立場を悪くする」

「そうそう」


・・・なんだかなぁ、聞けば聞くほどエイザクさんの言ってた理由を嘘くさく感じる。

「好奇心を満足させるため」みたいな漠然とした欲望じゃなくて、もっと明確な目的があるから私達を逃がそうとしているんじゃないのかな。

まあ、今は問い詰めないけどさ。



◇◇

「じゃあ次は脱出計画と諸注意について。・・・うん?」

「ガルフォンさん?」

ガルフォンはメモを見つめたまま思考を巡らせていた。


「もしかして僕が嘘ついてるんじゃないかって疑ってます?」

「逃がしてくれるつもりなのは疑ってないよ」

ただ。

(君のプランに従うことによって僕らに何のメリットがあるって言うんだ?)



ーー

「というのがエイザクの言うプランなんだ。僕はそれに乗っかろうと思う」

「分かりました」

「・・・」

暗闇の中、時計の光が3人の顔を明るく照らしている。


現在、23時半。

23時にガルフォンは情報の共有を始めた。普段は寝ている時刻だが、エイザクからの指示があったため2人にも起きてもらったのだ。


「エイザクが言うには、今日から4日目にフリージー軍が木星の第2の基地を攻撃するらしい。で、前日つまり3日目に、僕らは小型船に移されゆっくりとフェアーナに向かう。その、小型船に移る時が逃げるチャンスだと」

ガルフォンは自分が書いた予定表を2人に見せた。


1日目:今日

3日目:脱走予定

4日目:フリージー軍が木星の第2の基地を攻撃予定

5日目:グリーン星とフリージー星の協力関係成立予定

7日目:木星人が告げた降伏日


「4日目の攻撃に備えて、フリージー星は軍備を整えるのに大忙しだ。だから僕が助っ人として兵站の仕事をすることになった。明日いっぱいまでね」

また、戦闘に備えて訓練時間の確保や省エネも徹底されているという。


『貴方達の部屋は監視されてますが、23時~25時は一切の監視がなくなり部屋のロックだけがされています。貴方達が寝ているとみなされたその時間に、兵士達は戦闘シュミレーターで訓練をしているんです』

『夕食の時に時計を持って行きますので使ってください』



次にガルフォンは各々の役割について話し出した。

「エイザクが今日中に、脱出に使えそうな船を探しておいてくれる。それを受けて、僕が明日の兵站業務中に艦内の内部構造を把握し逃走経路を確保。それと、現場監査の隙に武器と食糧と燃料を盗み出す。夕莉は高所のセキュリティの配置を把握してくれる」

4日目に備えて、国賓ではない彼女の部屋の見張りは撤廃されることになったのだという。

また、夕莉は天井が背中にくっつくくらい浮くことができるので、歩き回る兵士達には見つかりにくい。


こうしてエイザク・ガルフォン・夕莉の3人が外で動き、23時にガルフォンがイチアールとクリスティナローラに情報を共有する。問題は・・・。

「ライオネルとハールドをどうするかなんだよな・・・」

2人は衛生部に隔離されており、今後この監禁部屋に来ることはできない。


ライオネルは完治間際ということで面会はできる。だが兵士の同伴の上でだ。

また、ライオネル自身をこっそり連れ出すこともできないとエイザクは言う。

『戦闘部と衛生部は普段の生活が明確に区分されてます。僕が睡眠薬入りの嗜好品を渡すこともできません』


一方のハールドは、完全に意識不明だという。



クリスティナローラが重い口を開く。

「殿下には知らせずに計画を進めるしかありませんわ・・・ハールドさんは、元から巻き込むべきではないでしょう」

「だよね、彼はグリーン星にも僕らにも関係ないんだからな」

「はい」


クリスティンローラは予定が書かれた紙面に目を落とし、躊躇いがちにガルフォンの方をじっと見た。

「私、正直この計画には乗り気ではありませんの」

「うん」

予想していた反応だ。

「だって・・・逃がすと言っても結局エイザク・ブルネウの望むままにされるだけですもの」

「いいや、そうはならないよ」

エイザクのプラン通りに動くつもりなどさらさらない。

驚く2人を前に、ガルフォンはいつになく力強い声で告げた。



「脱出して、フェアーナに行って宣言するんだ。グリーン星、フリージー星に加えて、僕ら異邦人も木星人戦に参加させてもらうと!!」

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