1日目 未明~午後
頑張って書き進めてます!
その日未明、グリーン星の全ての国の上空から無数のビデオテープがばらまかれた。
初めに映し出されたのは、星が大爆発し跡形もなくなる一部始終。
そして画面が変わって、黒ローブを纏った軍人が話し出した。
『本日から7日目に無条件降伏を宣言するように。またその間に、グリーン星の全軍事基地及びそれに準ずる施設を残らず機能停止させろ。では6日後、トラヴァーレ最大の廃墟街で会おう』
トラヴァーレ国。フェアーナ国の隣国。そしてグリーン星を代表して木星人から侵略宣言を受けた国。
「その国の、しかもやつらが最初に焼き払った街で講和を結べと?!」
ビデオを再生したフェアーナ国本隊隊長は怒りで拳を震わせた。
ビデオに映る黒ローブの男は顔こそ見えないもののきっと勝ち誇った顔をしているに違いない。
「私たちが気圧されて勧告に応じると思っているのか、そうはいかんぞ!!」
降伏などしない。無論、敗北も。グリーン星に生きる人々の生活を何としても守り切ってみせる。
「最強兵器の完成はいつだ?!」
「4日後には完成するでしょう。しかし試験がまだの為、実効性が不明です」
「地球人は未だ戻らずか。仕方ない、最悪の場合は冥王星人を使え」
ガルフォン・ロインドの代役が国賓としてフェアーナで活動中だ。
最早罪悪感など感じてはいられない。
「木星人との戦闘で死亡した」と冥王星には伝えることになるだろう。両星の関係は悪化するだろうがやむを得ない。
6日後、トラヴァーレ国の廃墟街で最強兵器を使用する。ウイルスに侵された木星軍は全滅するだろう。
「木星軍・・・なんとしてもお前たちに抗ってみせるぞ」
◇◇
「フェアーナに潜む密偵からの連絡です。『6日後に降伏するよう木星人から勧告があった』と」
「今日から数えて7日目か。性急だな」
「こちらにも猶予がありませんな」
早急に動かなければならないのはフリージー軍も同じだった。
数日前、フリージー星が軍事基地とした無人の星・ペルミネが木星軍の攻撃を受けて塵と消えた。
ペルミネに駐屯していた軍は急ぎ当艦に避難したものの軍全体の4割が壊滅。また、司令官を除く少佐以上の軍人は死亡または重傷を負っている状況だった。
その司令官はというと、辛くもペルミネから脱出しそのままフェアーナ国に向かっている。
フリージー軍の被害状況をグリーン星が知る前に協力関係を結んでしまわねばならない。木星軍の基地を突き止めていること、また拉致されていた国賓を保護していることを武器にすれば協力関係を結ぶことはたやすいだろう。
グリーン星が開発しているとかいう最強兵器。フリージー軍の情報技術と軍事力。その2つが合わされば勝利は確実なものになるだろう。
しかし、もう一つ懸念事項がある。それは北大陸以外の木星人の基地の存在だ。
「グリーン星の勝利をより確実なものにしなくてはな。よって7日目までにこちらから攻撃を仕掛ける必要がある」
集結した尉官の面々はバリッツを仰ぎ見た。
「艦長代理。ご命令を」
「本日より4日目に木星軍の第2の基地を攻撃する」
以前、フリージー星の科学者・ライパミーナドが木星人の通話を盗み聞きし、電波の発信先を特定したことがあった。
グリーン星からもフリージー星からも少し離れたところにある小さな無人の星。分かったのはそれだけだったが、フリージー軍が本格的に探知すれば基地の正確な位置まで特定可能だ。
(フェアーナを襲った円盤や筒形戦車の製造工場の可能性がある。無人の機械相手には最強兵器とやらも効かんだろう)
もしかしたら、ペルミネを崩壊させたミサイルもそこで製造していたのかもしれない。となれば、ますます捨ててはおけない。
バリッツは続ける。
「4日目。3日後だ。それまでにこちらの軍備を完全に整えろ。作戦会議、軽傷者を含む人員の配置、戦闘機・武器の整備、補給。すべてをだ」
ーー
◇◇
メンテナンスルームを出てからというもの、エイザクは新事実に動揺が止まらなかった。
(信じられない。僕は全く気付かなかった・・・いや、切り替えろ切り替えろ。今はそれを気にしてる場合じゃない!)
余計な思考を取っ払い、事務室のドアをコンコンとノックする。
「『エイザク・ブルネウ』です。入りますよ」
ドアを開けると床一面に散らばる書類。部屋の真ん中のテーブルを囲むのは、目を血走らせてモニターを見つめる兵士10数名。
「コーヒーメーカー持ってきました。今夜から徹夜でしょ」
「ああああ、置いといてくれ」
エイザクが足を踏み入れても兵士達は誰一人としてモニターから目を離さない。激務の真っ最中だからだ。
だがひと段落して休憩時間になり、コーヒーカップに口をつけると各々が肩の力を抜いて軽口をたたき始めた。
「気が利くな。3時間後には食事も頼むぜ。食べやすいもんがいいな」
「ついでに掃除も頼むわ」
「はいはい」
「ここまで早急な攻撃なんて普通はありえない。木星のやつら、本当にいい加減にしろよ」
彼らは兵站を担当する兵士であり、今は3日後の攻撃のための軍備を整えている最中だ。
「2日後にはもう全部終わらせる・・・この面々だとかなり不安だがな」
こう言ったのは、兵站部隊を束ねる少尉。この中で元々兵站を担当していたのは彼だけである。
ペルミネにいた兵站部隊は彼を除いて全員死亡したからだ。
唯一生還できた少尉が、戦闘部隊にいた兵士を一から教育して兵站の業務に取り組んでいるのが現状だ。
「俺らもここまで大変とは思いませんでしたよ」
「戦争終わるまでろくに寝れないって今から悟ってますもんね」
「同盟結んだら、グリーン星のレストランで無銭飲食してやろうかな」
「言うは自由だが、先は遠いぜ~」
兵士たちの口が大分緩くなってきたところで、そろそろかな、とエイザクは口を開く。
「たかが閉じ込められているだけで、安全な場所で寛げる奴らが羨ましい、とか?」
「それ!」
兵士の一人がすぐに食いついてきた。
「国賓国賓ってちやほやされてインターホンさえ鳴らせば欲しいものは何でも手に入る! 贅沢な生活送ってるよホントに!」
「確かに! 俺らよりもたっぷり寝ていい飯食ってさ!」
「できるもんならあの子達にもそれ相応の対価を払わせてもいいと思うんだよな~」
「あ~それいいかもな。仕事押し付けてやるか。このままじゃ終わるかどうか怪しいし」
兵士たちの間で異邦人への不満と欲求が伝播していく。ついに兵士の一人が少尉に懇願し出した。
「異邦人、どうせ暇なんでしょ。俺らの仕事をちょっとさせるくらい問題ないんじゃないですか?」
「バリッツ大尉がお許しにならん」
「だから、内緒でですよ。それにあの子達、フェアーナでは書類仕事もしてたっていうじゃないですか」
「機密中の機密を触らせなきゃいいんですよ」
「そうそう。それにこのまま軍備が整わなかったらそれこそ問題ですよ」
「・・・」
床に散らばった書類を整理しながらエイザクは一人ほくそ笑んだ。いい流れだ。これでなんとか、監視部屋の外で異邦人と作戦会議ができる。
ーー
「というわけで、ガルフォンさん。僕らについて来てください」
「僕がフリージー軍の仕事を・・・」
ガルフォンは、何故そんなことになったのか分からない、という顔をしていたがそれでもチャンスだと思ったのか大人しく部屋から出てきた。
「私も」
「ガルフォンさんだけです。大人しくしておいてください」
続こうとしたクリスティナローラを兵士の手が阻む。問答無用でドアを閉めた。
事務室にやってくるとエイザクはドアを開け兵士達に呼びかけた。
「連れてきましたよ」
「こんにちは。冥王星のガルフォン・ロインドです」
「ロインド様。助力に感謝いたしますよ。こちらの制服に着替えていただいてもよろしいでしょうか。本日から、事務処理を担当して頂くことになりまして・・・」
ペルミネの件は勿論、3日後の攻撃のことも何も伝えない。こちらが指定した仕事をやらせるだけ。
それなら機密が漏れることはない。さらに人選も相まって少尉は納得した。
そう。異邦人の誰に手伝わせるか、という話し合いになった時、誰もがガルフォンの名前を挙げたのだ。
危険なのはグリーン星の兵士と無双したカルメヂ貴族。その2人に比べ、農家出身の冥王星人など大したことはないと判断したのだろう。
だが、フリージー人は知らない。ガルフォン・ロインドにデータを扱わせるとはどういうことなのかを。
ーー
◇◇
「1日当たりに必要な栄養価のデータがありますか?」
「ボイル野菜の缶詰だけ他の半分しかありませんね。ライムを調理して補いましょう」
「以前のレーションの問題点を総括すると、栄養価と重量のバランスが取れていないってことですよね」
「兵士たちの携行食はフリーズドライとミネラルウォーター、氷砂糖、それとビタミン剤のセットが最適です。これなら3日は持つし、装備としても軽いです」
ガルフォンが任されたのは食料だった。冥王星では兵站を担当したこともある。この程度はわけもない。
最初は一方的にデータを渡されるだけだったが、次第に彼の方から発言したり積極的にデータを求めたりするようになり周りもそれを拒まなかった。
とにかく忙しいので、数をこなすガルフォンを警戒するのではなく重宝し出したのだろう。
データをすらすらと処理しつつ、目に入った情報を余すことなく頭に入れていく。
食糧の種類・量。食糧庫の位置。船内に収容されている補給船の位置。補給船が宇宙に出るときのゲート。監禁場所からそこに至るまでの経路。
(折角監禁場所から出れたんだ。脱出の手がかりになりそうなものは絶対に見逃さないぞ)
そして次なるデータを求め、書類から顔を上げ話し出した時だった。
「ビタミン剤の摂取量についてですが・・・え」
寝ている。正面にいた少尉も。両側の兵士も。テーブルを囲む全員が頭を垂れて眠っていたのだ。
「もしもし?」
呼びかけてもだれ一人として返事しない。完全に意識を手放してしまっている。
「・・・どうしたんだ急に。疲れてたのか?」
「あ、効いたみたいだな。良かった」
背後からの声に振り替えると、エイザクが脚立に上って高窓を開けていた。
開いたそこから夕莉が部屋に入り込んでくる。相変わらず宙に浮いているようだがしっかり寝たのか健康は戻っているようだ。
「ガルフォンさん」
「夕莉、無事でよかった!」
エイザクがぴしゃりと窓を閉める。
「さあ、作戦会議しましょうか」