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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人帰還
101/107

軟禁生活

不定期更新ですが、早め早めを心掛けます。

船に乗ってすぐ、ハールドとライオネルは救急用ベッドに乗せられ運ばれていった。

クリスティナローラと夕莉も、別々に連れられて行った。


「手術室も整えておけ。食事は四人分準備」

バリッツ大尉と名乗った人物は部下にてきぱきと指示を出していく。


「『エイザク・ブルネウ』。ご苦労だったな。下がって良いぞ」

「はい」



残されたのは、ガルフォンとイチアールのみ。

フリージー人兵士の何名かはイチアールを見て少々顔を強張らせている。

「治療には誠心誠意当たらせて頂きます。お二人は先にお部屋にご案内しましょう」

バリッツ大尉は動じることなく手を挙げて二人を誘導する。

イチアールをガルフォンと引き離して監禁することはないようだ。


「どうぞこちらへ」

バリッツ大尉が背を向けて歩き出した途端、周りにいた兵士がバッとガルフォンらの周りを取り囲む。

仕方なく、囲まれたまま歩いた。

(こんなふうに、がんじがらめの生活が待っているのかな・・・)

皆が安全な場所に置かれたことを喜ぶべきなのだろう。だがガルフォンは、心が少しずつ沈んでいくのを感じた。



ーー

階段を上がり切った先の幅2、3m程の廊下を歩く。左右には無機質な白い壁。視界の右上左上には、ずらりと並べられた監視カメラ。


息苦しい廊下の端には開き戸の扉。そこを開けると円形の大部屋があった。

大部屋の中央には円形の大テーブル。テーブルを取り囲むようにソファーやクッションが置いてある。床にはピンク色のカーペットが敷かれていた。


「こちらが皆様の共用空間になります。ここから各個室・ユニットバスルームに出入りできます」

壁には5つのドアが取り付けられている。国賓収容のために用意された空間ではないらしい。

「お食事は共用空間に準備いたします。また、壁にインターホンがありますので他に必要なものがあれば何なりとお申し付けください」

「・・・」

「外出の際も、インターホンにてお声掛けください」


では、とバリッツ大尉は部下を引き連れて去っていった。

流石に室内には兵士を張り付かせないのか、と思っていたら閉まったドアがガチャリと音を立てた。


「・・・監禁か」

「異議申し立てをしたら、『船内で迷わないための配慮です』なんて言うんでしょうね」

「さすがに異議申し立てはしないよ」


どうにか抜け出せないかと考えていたが、ここまで厳重なセキュリティを前にしてはなすすべもない。



これからどうなるのか。それを考えただけで心はより重くなっていく。

フリージー星軍はグリーン星軍と合流する。他星の重要人物をその場に置くことで、フリージー星・グリーン星は正式な同盟を結んだこととなる。助けを求め、助けられてしまった以上、ガルフォンたち3人はフリージー星の思惑通りになるよう動くしかない。

同盟が成れば、グリーン星は4星からの援助を断り、冥王星との取引もなくなる。

そして、ガルフォンは冥王星に強制送還されるだろう。家族とも引き離され、再びニクスで兵士生活を送るのだ・・・。



(いったい何が間違っていたんだ)

ここに来たのは仕方のないことだ。意識不明の怪我人がいた。だからああするしかなかった。


冥王星軍が壊滅的でなければ、グリーン星との取引内容もまた違ったものになっていたのではないか? 物資の支援などではなく軍事力でグリーン星に貢献し、他星がつけ込む隙を与えず取引が完遂されていただろう。


否、病気が流行らなければ母と弟と妹はこんな目に合わずに済んだのだ。


そもそも、病原菌が発生しなければ父は死ななかった。

あの村でずっと、貧乏でも家族みんなで楽しく暮らしていけた。


そして、ガルフォンは職人への道を開くことができていたのではないかーーー。



「っライオネルとハールドは無事だよな!」

頭に浮かんだ微かな望みを打ち消すかのように口に出す。不自然に声が大きくなったかもしれない。だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


「信じるしかありません。ハールドさんの方は、死ぬならとっくに死んでたと思うので、今の今まで持ったということは大丈夫だと思いますよ」

「そ、そっか。よかった」


(えっと・・・他に何か気にするべきことは・・・)

「ライヨルさんは怪我してたんだよな、膿んでなきゃいいけどな。夕莉も、高所にベッドを用意してもらえたらいいな! あとでお見舞いに行こうかな!」

「ガルフォンさん」

「えっあっ何?」

「お食事が来ましたよ。食べましょ」

バッと頭を上げる。いつの間にか下を向いていたらしい。


ドアの方には、銀色のワゴンを押す兵士の姿があった。

ワゴンの上にはクローシュが被せられた皿がいくつも置いてある。


「ライヨル嬢は召し上がった後にこちらに来られるということです。ではごゆっくり」

兵士は皿を素早くテーブルの上に置き出ていこうとする。慌てて引き留めた。

「あ、ちょっと聞きたいことがあるんです」

「はい」

「フリージー軍の本拠地に着くまでどれくらいかかるでしょうか?」

「・・・もう、何日かはかかるかと。正確な日時は分かりません」

若干だが、警戒心を含んだ声だった。イチアールがそばにいるからだろうか?

それとも、抜け出そうとしているのを悟られたか?



兵士がワゴンを押して帰っていく。

「食べようか・・・イチアール?」

「本拠地か・・・。仕組まれていたペルミネまでの経路・・・うーん、本拠地ってペルミネのことかなあ?」

「ペルミネってなんだっけ?」

「木星人の船にホログラムがあったでしょ? あのホログラム、ペルミネまでの航路を示してたんです。ガルフォンさんも見ましたよ」

「あ、そういえばそうだったね」


「あの航路、消し忘れかと思ってたんですけど、エイザクさんみたいに木星軍にも潜入者がいて、こっそりあれを仕込んでた可能性あるなって今思ったんですよ」

「なるほど。僕らをペルミネに誘導しようとしたわけ?」

「そうです。でもペルミネが本拠地となると、北大陸からそう何日もかかるわけないんですよね。ペルミネ自体がグリーン星のすぐ近くにあるんで」


イチアールはテーブルに頬杖をついた。

「フリージー星軍にとって、想定外のことが起きたんじゃないのかな、なんて」



◇◇

天井高6,7mくらいありそうな大部屋の天井付近にベッドを取り付けてくれた。

傍には高窓もある。宇宙の星々を見ながら寝ることが出来そうだ。


「ありがとうございます」

梯子を下りた兵士たちにお礼を言う。勿論、大声で。

「いえいえこれしきの事」

「もうお休みになられますか」

「あー・・・ガルフォンさん達に会えますか?」


寝たいけれど、その前にみんなの様子を確認したかった。

怪我は大丈夫か。

手術は成功するか。

まさか・・・閉じ込められてやしないか。


「顔色が悪いですよ。今日はもう、お休みになられた方が」

「そうですとも。明日、皆様用のお部屋までご案内しますよ」

若干強引に押し切られようとしている、気がする。

「そうですよね」

直感的に、逆らわない方がいいなと思った。



大部屋のドアも窓もすべて鍵が掛けられた。一応あたしも、警戒されているらしいね。

空中をすいすいと泳ぎ、宇宙が見える窓まで移動する。


「・・・」

瞬く星々が美しい。こんな光景、滅多に見られないだろうな。

そう思うのに、心が晴れない。


「ガルフォンさん達、これからどうなっちゃうんだろ」

勿論、仲立ち役を務めるしかないんだろうな。本人の意思とは関わりなく。屈辱感を覚えるだろうけど、それで済んだらまだいい方かもしれない。

「祖星から裏切者扱いされたらどうしよう」

ありうる。特に、クリスティナローラさんは。


「あああああああ」

こうなったのは、あたしのせいでもある。あたしのせいで、みんなはフリージー星軍に頼らざるを得なくなった。

でもフリージー星軍に頼らなければハールドが危なかった。それに木星人だっていきなり船を爆破してきたじゃないの・・・。



葛藤していると、不意に視界の端に何かが映りこんできた。点だが、だんだん大きくなっている。

この船に近づいてきているらしい。

「木星人の船?!」


だと思ったけど違った。灰色の小型機だった。

でも、さっき見たやつと違ってひどくボロボロだ。砲撃を受けたのか、いたるところが破損し煙まで出ている。飛ぶのがやっとの状態らしい。


「どうしたんだろ」

小型機が船内に収容されたのを確かめて、あたしもそっと窓から離れる。そして、廊下側の高窓に張り付いた。

部屋の前には護衛?の兵士が立っていた。見えないだろうけど、念のために目だけ出して様子を窺う。



少しして、数人の兵士が部屋の前までやってくる。そのうちの一人が明らかに異様な格好をしていた。

頭には包帯を巻いて、足を引きずっている。よく見たら指にも包帯が巻かれているらしい。多分、これがさっきの船のパイロットだろう。

残りの兵士は彼の持ち物を持ってあげているみたい。



「さっきの木星人戦で負傷した? 圧勝に見えたけど・・・」

部屋の前を通り過ぎようとする彼らをじっと見てたら、今度は逆方向から偉そうな人が走ってきた。

私たちを迎えに来た人。バリッツ大尉だっけ?

防音が施されているのか声は聞こえないけど、でも表情からものすごく怒っているのが分かる。


バリッツ大尉はあたしの部屋を指さして何か言っている。反射的に目を窓からそらした。



少し経ってから恐る恐る目線を戻すと、負傷した兵士もバリッツ大尉ももうそこにはいなかった。



ーー

◇◇

「ペルミネからの撤退が完了しました」


少尉からの報告を受けたバリッツ大尉は頷いた。

「了解した。急ぎ負傷者の救護に当たれ」

「はい」

「分かっているだろうが、ペルミネの件を異邦人には漏らすな!」


そして、バリッツ大尉は先程の不祥事を語った。

ペルミネから撤退してきた兵士が異邦人の寝室前を通ったのだ。


「異邦人の目に触れる場所に怪我人を出すな。我々の危機を勘づかれないよう細心の注意を払え。監視を怠るんじゃないぞ」

「はい」

「ウサギや子供だと思って侮るな。あれは皆実力者だ。六人ともな」

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