よく見たら似てる。
椅子にふんぞり返り、机の上にすらりと長い脚を投げ出している榊に開口一番、せめて靴を脱げと見当違いな事を言い放つ人形を見て、榊の横におとなしく座っていたよつばは、全身の毛が逆立った。
しゃべる人形が怖いからではない。
知っている。
よつばはこの人形を知っているから。
人形を抱いている人物も、ぞろぞろ付いて入ってくる金髪も、賢そうに吊り上がった眉をした人物も、同じ顔をした人物達も。
知っている。
「と、いうわけでぇー」
前置きもなく榊はしゃべり始める。
「見ての通り、こんな事になってますがぁー。……なんとなく予想はついたかしら?」
いまだに机から脚を下ろそうともしない榊に促されて、よつばの止まっていた思考は再びぎくしゃくと動き始める。
この人達を知っている。
知っているが、自分が知っているよりもずいぶんと若い。
ずいぶんと、というレベルではない。
どう見ても自分より年下で、その事実に心臓が壊れそうな早さで、苦しいほど動いている。
手足が冷えて、目の前をまた白い粒がふわふわ漂い始める。
と、いうことは。
ばかりが頭の中を駆け回りその先の答えが出ない。出したくないだけなのかもしれない。
答えは既に出ているのに、認めたくないという思いと、『と、いうことは』が混ざり合うことが無いまま渦巻いている。
混乱で生命機能を維持するだけで精一杯のよつばをのぞき込んできたのは史隆だった。
「え?ねぇ、この人が前に言ってた、都の先生の人?」
椅子にふんぞり返ったままの榊は机に乗った脚を組み替えると、ふぅん、となんとも言えない返事をする。
「よつば……なのか?」
優しく話しかけてきたのは、金髪の男前だった。
ひとつの言葉がのどまで出かかっているのに、大きな塊が詰まったようになって、思うように声が出ない。
その塊はどんどん大きくなって、胸の内側から破れて飛び出しそうなのに、声の出し方が分からない。
「おお?!──そうか?……そう言われてみれば、どことなくそんな感じもしないでもない」
史隆はよつばとリュカの顔を交互に見比べて、何もかも悟ったような顔でうなずいている。
全員が代わる代わるよつばの顔を覗き込み、大きくなったの、かわいくないのと散々言いたい事を言われているうちに、喉のつかえはしゅるると音を立てて小さくなっていく。
そうだった、と思う。
そうだった、この人達はいつもこんな調子で、あれこれ悩む事がバカらしくなってくる。
体中の力が抜けて、つかえていたひとつの言葉がこぼれ出る。
「お父さん……」
はい、と優しくリュカは返事する。
子どもにそうするように、よつばの髪の毛をかき混ぜる。
金髪の青年に頭を撫でられる、青年をとうにはみ出した大人の絵面だが、撫でられている大人は気持ちよさそうに目を細めているし、見ている全員は微笑ましい空気にうんうんと頷いている。
よつばは過去に来ていた。
何故、どうやって、と考えたところで何も変わらない。
これがよつばの引き起こした事象なのか、よつば以外の何者かの仕業なのかも解らない。
解っているのは、よつばの生まれる前の過去に来たという事だった。
飲み込んでしまえば、悩むも何もない。
飲み込んでしまったものが毒なのか薬なのか。
効き目が現れるまでじっと様子を見るに限る。
消化して自分の身にするしかない。