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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
これは14日間のおはなし。
6/83

5人と1体。






食事を受け取るカウンターに両腕を乗せて、可愛らしく元気良くあいさつをすると、厨房の中のご婦人達は、必ず都のデザートを大盛りにしてくれる。


生徒用の食堂を利用する者は、もちろん若い人間だが、都はその中でもひときわ若い。

ただいま8歳だから、幼いと言った方が正しい。

この学園でもちろん最年少、〈特科〉にいる最年少の少年、イコール天才少年、という式が成り立っていた。


間違いではない。確かに都の能力は平凡ではない。人並み外れた記憶力を持っている。本人は持て余してどうしようもない程の。


都は大盛りのデザートでバランスの悪くなった日替わり定食のプレートを両手で運ぶ。


「琴野さん、お醤油取ってよ」


琴野の隣にちょこんと座るコッティの隣の席に、椅子に少し上るようにして都はちょこんと腰掛けた。


隣のコッティは琴野の持っているフランス人形。かわいい人形の見た目に合わせて、コッティ、と呼ぶようにしている。

しかし見た目は愛らしいコッティも、中身はおっさんだった。


お人形から出てくるのは渋いバリトンの声、コッティの中にはコッティを作った人形師の魂が入っていた。


「かわいい都、あまり醤油をかけるなよ、塩分の取り過ぎは体に良くない」

「……人形に言われてもな」


テーブルの真ん中にある調味料の入った入れ物に、小さな都の手は届かない。


琴野は調味料の容器の並ぶ皿から、醤油を選んで都に渡した。後で大盛りプリンを半分こしようという都の提案に、琴野は笑顔で頷いた。


琴野は霊能力を持っていた。

やはり本人が持て余してどうしょうもない程の。


田舎にある実家の蔵から90㎝程の大きさのフランス人形を初めて見つけた時は、琴野もあまり変わらない大きさだった。

埃を被った体を抱き上げ、人形の言葉を聞いた。

人形の言葉は誰にでも聞こえる訳ではない。だが誰にも聞こえない訳でもない。その差はほんの些細な差なのか、でも誰もその差が何なのかは分からない。


琴野自身は極端に言葉を発する事を恐れている。いくら心を許していても、自分の言葉で他人から恐れられる事も、他人を傷付ける事もずっと忘れられないし、それはもう十分過ぎる程味わってきた。


琴野の言葉はコッティが代弁してきた。


琴野は13歳、コッティは200歳を超えた時から歳を数えるのをやめた。

反対隣には和隆がもそもそと不味そうに食事をしている。

その向かい側には同じ顔の史隆が座っている。

和隆がデザートの皿を琴野の前に置いた。


「琴野、俺のプリンあげるよ」

「カズ君、そのプリンは俺がもらおう、琴野さんが太るから」

「何を言うのだ、史隆。私の琴野の食後のお楽しみを奪おうというのか」

「コッティ……琴野さんが何て言ってるか、言ってみ?」

「……和隆のプリンは、史隆が食べれば良いと……」

「ほらね!琴野さんならそう言うと思っていた俺だよ!!」


史隆と和隆は双子で、やはり本人達も、その両親も持て余してどうしょうもない能力があった。

今の都の歳の時、強くなっていくふたりの力に疲れ果てた両親は、我が子達の手を離さざるを得なくなった。

それから7年、この学園で過ごしている。


顔は同じでも、能力はまるで違っていた。プラスとマイナス、陰と陽。

史隆はモノのエネルギーを文字通り爆発的に高める事が出来る。

和隆はその逆でエネルギーを打ち消す事ができる。


どちらもひとりでは居られない。ひとりになれば周りの何もかもを無くしてしまうから。

近くにいる事でお互いの力を相殺している。


史隆とひとつ席を置いて、コッティの正面にはリュカが器用に箸を使って食事している。


両親に見放され、こっちからも両親を捨てて、8歳で生まれた国を自ら出てきた。リュカにも人並み外れた能力があった。


人並み外れた筋力を持ち、同じく並み外れた回復力を持っている。

狼男の血を引いているとかいないとか、本や映画でみるように狼に変身するわけでも無いし、毛深くもない。満月に吠えたりするわけでもないが、母国では非道い仕打ちにあっていた。

〈特科〉に来たのは5年前、リュカは最年長で双子のひとつ上の16歳。


「琴野さん、じゃあ、俺のプリンを食べたら良いよ」

「待て、ルカ。そのプリンも俺がもらおう」

「史隆が太るぞ」

「俺はデブらない。ていうかなんで都だけいつもいつもデザートがたくさんあるんだ!!」


ズルいぞと口を尖らせる史隆の方が、よほど都よりも子どもっぽい。

都は片方だけ口の端を持ち上げると、可愛いからだろと吐き出すように言った。


今のところ、この5人と1体が〈特科〉の生徒。


これが〈特科〉が〈特科〉である理由。


他の科の生徒も、教師達も〈特科〉に居るのがどのように特別であるのかは知らされていない。

知っているのは担任を勤める榊と、理事長である一ノ宮、それと数人の関係者と限られている。






やっと生徒が出てきました。

学園モノとは……。



都→みやこ、と読みますそのまんま。

カナダと同じイントネーション。


琴野→ことの、と読みます。

ポルノと同じイントネーション(いや、ナニその例え‼︎)。


コッティはポッキーと同じイントネーション。


史隆→ふみたかは普通で。

和隆→かずたかも同じく。


リュカは発音が難しいので、もっぱらルカと呼ばれています。フランス語圏のコッティ、フランス語の素養がある人は上手にリュカと言ってのけます。

リュカとルカの表記は雰囲気を醸し出す為にあえてふた通りでやっていきますので、雰囲気を楽しんでいただければ。


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