初めての戦闘
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暫くは定期的に上げていきたいと思いますので、楽しんで頂ければ幸いです。
冒険者ギルドの建物を出て東に向かって真っすぐに歩いて行くと、街を覆う壁と出入り口となる門が見えて来た。この街では東西の2つの門があるが、どの街でも共通しているのは、一般的な門と、冒険者用の門の2種類がある。一般用の門では朝の日の出から日が落ちるまでが開門期間であり、街に常駐している兵士が門番を担当している。また門も大きく、馬車などが擦れ違って通り抜ける余裕もある大きさだった。ただ通行には門番の確認を受ける必要があり、場合によっては2、3時間待たされることもある。もっとも商人は待つのを嫌い、兵士に賄賂を渡していることが多いが…。
一方の冒険者用の冒険者ギルドが管理しており、門番に当たる者はいない。また門も人が1人ずつ通れる程度の大きさしかない。利点としては、門に設置された小さな水晶にタグをかざすだけで入れること、それに1日中通行可能な点だった。また、冒険者以外でも同行者を1名だけ通過させることが出来るが、その同行者が街で騒ぎを起こした場合は、中に招き入れた冒険者も責任が発生することになるが…。
そんな訳でまだ朝早い時間にも関わらず、一般用の門の前では既に馬車が数台並び、兵士のチェックを受けている。この兵士もこの街の出身ということもあり、「死霊」属性には良い感情を持っていないので、恐らく兵士のチェックを受けたら時間が掛かる筈だ。だが既に冒険者になった自分には関係無い。誰も並んでいない冒険者用の門に、手首に掛けたタグをかざすと当然の様に扉が開いた。兵士がその様子を見て少し睨んでくるが無視する。
街の外は鬱蒼と生い茂った森が広がり、その合間を縫う様に街道が整備されている。取り敢えず街道沿いに進むことにした。徒歩で1週間先にある隣町まで行ったら、もう少し準備を重ねて国外に移動すれば良い。ついでに街道沿いに進んでモンスターが出たら倒して下僕にすればなお良い。そう考えながらゆっくりと歩き出した。
正直に言えば1日目は退屈だった。擦れ違う馬車や冒険者はいるが、話し相手になる訳では無い。1日中もくもくと歩き続け、日が暮れたら簡単な野営の準備をする。街道で火を焚くのは厳禁だが、少し外れた場所なら良いので、冒険者たちも街道から少し離れた場所で野営するのが決まりだった。これまで冒険者たちに教えられてきた知識を使って、野営の準備を整えるとあとはぐっすり眠ってしまった。
これはもちろんアウトだ。寝ている間にモンスターや野生動物に襲われたり、荷物を誰かに盗まれることがあるからだ。幸いにしてそのようなことは無かったが、今後は気を付けいないといけないと自分に言い聞かせた。
2日目も何事も無く過ぎていったが、途中でタグに意識が宿っていることを思い出して話をしたが、これが思わぬ効果を発揮した。どうやら生前の知識が少し残っていたのか、僕の知らない魔術の基礎知識を教えてくれた。例えば、属性のLv1毎に3つの魔術を覚えるらしい。僕がLv3でも4つしか使えないのは属性の理解が足りないかららしい。試しにと促されて、魂を呼び出すというイメージを頭の中に描いてみた。中々難しかったが、少しずつイメージを高めた結果、新たなスキルを獲得した。
《死霊スキルLv2の召喚・魂を獲得しました》
そんな言葉が頭の中に響き、魂を召喚できるスキルを獲得した。魂の召喚は時間が経った魂ほど記憶の劣化が激しくなるようだが、呼び出された魂はこちらの問い掛けに正直に答えるようなので、死んだ者からも情報収集が可能になるらしい…。あまり使いたくない使い道に少し嫌になるが、これも自分の属性故と思い我慢した。
その後も歩きながら会話を行っていたが、流石に新しいスキルを更に獲得することは無く夜を迎えた。
街道から外れ前日と同じ様に焚火の準備を始めようとした時だった。がさがさと近くの草むらから音が聞こえてきた。
すぐに動きを阻害する荷物を下ろし、腰に下げた剣を抜く。ここらで出てくる存在は半野生動物半モンスターといった中途半端な存在だった筈。冒険者に教えられた知識を思い出しながら、ゆっくりと音の主が姿を現すのを待った。その間もがさがさという音は鳴り続け、やがて草むらから1体のモンスターが姿を現した。
体長1m程の灰色の狼。名前は見た目の通りに灰色狼だった筈だ。半分はモンスター化しているが、この街の付近ではよく見られる低級モンスターで、場合によっては群れで行動することもあるようだが、どうやら今回は一匹だけの様だ。流石に低級モンスターと言えど、数が揃うとそれなりに厄介らしく、年に数回群れに襲われたソロの冒険者が色々と齧られた状態で見つかることがある。
ただ、その毛皮は滑らかで採取してギルドに持って行けば、ある程度のお金で買い取ってくれるので、小遣い稼ぎ目的でも狙われるモンスターだった。
震えそうになる腕を必死で抑えつけ、剣の先端をゆっくりと灰色狼に向ける。
(確か、毛皮を取ることもあるので、口を開けて襲って来たら突きを口の中に突き込むのがお勧めだと言っていた筈だ。)
剣を向けられたことで灰色狼もこちらを警戒したのか、頭をゆっくりと下げて歩き始める。それに合わせる様にこちらも体の向きを変える。
そんな膠着状態が4、5分ほどは続いただろか?先に痺れをきらしたのは灰色狼の方だった。如何にモンスターと言えど、元々は所詮野生動物に過ぎない。そこまで駆け引きの出来る知能も無かったようだ。鋭い牙を剥き出しにして唸ったかと思えば、体を下げて力を溜めると全速力でまっすぐに向かって来る。口を大きく開け、先程以上に鋭く見える牙が口の中に大量に見える。こちらを食べる気なのか、口から涎も垂れて来ている。
(よし。訓練の成果は出ているな。)
灰色狼が猛ダッシュで向かって来るのを、それ程恐れることなく観察できることに安堵しながら練習を思い出す。冒険者からのアドバイスの1つに戦闘中に混乱を起こさない様にすることというのがあった。パニックになれば勝てる相手もにも勝てなくなる。だから恐怖を覚えても良いが、それに呑まれずに考えろという名目で、数多くの冒険者の立ち合いを行って殺気を叩き付けられてきた。その経験に比べれば、 灰色狼の突進など軽いものだった。
走って来る灰色狼の口に狙いを付けて、一気に剣を突き出す。
ガシュッという音と、柔らかい部分と硬い部分を貫いた感触が手に伝わって来る。突き出した剣は見事に灰色狼の口に刺さり、頭まで貫通していた。ガガッという音が灰色狼の口から漏れ出たが、すぐにその音も消えて動きも止まった。それと同時にスキルを獲得した時に聞いた声が聞こえた。
《灰色狼を倒しました。対象のモンスターのステータスを確認できるようになります》
《死霊スキルLv2の死者鑑定を獲得しました》
これで本日2個目のスキルを獲得できた。ついでに新鮮な死骸を手に入れたのだから、やることは1つだけ。この死骸に召喚・骸骨を掛けて下僕を手に入れる。
初めての属性魔術の行使に緊張と不安を覚えながらも、ゆっくりと魔力を練り上げていった。
ロスト獲得スキル
「死霊」魔術Lv3
「死霊」魔術Lv3
召喚・骸骨Ⅱ・攻撃陣Ⅰ・防御陣Ⅰ・偵察Ⅰ
・召喚・魂Ⅰnew・死者鑑定new
「剣術」Lv1