冒険者登録
早足で街の中を駆け抜けること5分。
街はまだひっそりと静まり返っているが、目的地である冒険者ギルドが既に活動しているのか、建物の外に冒険者ギルドの紋章が飾られていた。
ギルドの中に入ると、数人の冒険者が新しく張り出されたらしい依頼文書を読んでいた。その冒険者たちの後ろをすり抜けて、カウンターに行くとそこには30代半ば位のがっしりとした体付きの受付がいた。
「お?坊主。今日はやけに早いな?」
「今日で10歳になったので。」
そう答えると受付の男もこちらの目的にすぐに気付いたのか、紙を一枚と羽ペンを取り出してカウンターの上に置いた。
「これが冒険者登録用の用紙だ。必要事項を記入したら、後は属性とLv確認。それと不要かもしれないが冒険者についての説明をする。これは規則で外せない。」
「分かりました。」
そう言って用紙を受け取ると、男は必要な物を取って来ると言って受付のカウンターから離れた。
用紙を見ると書かなければいけない項目は少ない。
まずは名前。それに属性。武装の種類にPT登録を行うか否か、それに職業。
この中では現在、書けないのは職業だ。まだ10歳になったばかりであり、働いていないことも理由の1つだ。また武器を使って前衛になるのか、または魔法を重視して後衛になるのかも関わってくる。多くの人が魔術を使える要素があるとは言え、Lvが低ければ前衛を担当する者も多い。またまだ働いたことも無いので空欄にするしかない。
一応、神殿に近い場所で職の啓示を受けたり、転職することもできるが、暫くは保留だ。
次に困るのは名前だ。正直に言えば今まで呼ばれてきた名前は絶対に使用したくない。幸いにも冒険者登録は元々の名前の記入は義務付けられるが、通名も記入して以後その名を名乗ることも可能だ。すぐに自分の本名を書いた後、自分の通名を考える。通名に関しても変更が出来ないらしく、どこぞの馬鹿が「閃光のハギャ」などと名乗り全員から大笑いされているということもある。
取り敢えず今後は使う予定の無い本名を書いた後は通名だ。呼ばれ易く、覚え易く奇抜で無い名前…。
…………決めた。「ロス」にしよう。苗字は無しで行けば良い。命の失われた「死霊」を操ることと、名前や家族を失ったことを考えれば丁度良い名前だろう。
その後は、武装種類や属性、PT登録の拒否に印を付けて記入完了だった。
それと同時に手首に着けるタグと、半径5㎝程の小さめの水晶を持った受付の男が戻って来た。
「記入終わったよ。」
「ふむ。名前はロスか。ではロス。この水晶に触ってくれ。そうすると属性と魔術Lv、能力値、冒険者Lv、それにステータスLvが映し出される。」
「分かった。」
そう答えるとそっと水晶に触れると、水晶の中に数字が映し出された。
名前:ロス
属性:死霊 Lv3
冒険者Lv:Ⅰ
能力Lv:1
HP:40
MP:66
体力:21
筋力:13
器用:17
知識:25
魔力:32
敏捷:17
「10歳となるとあまり資料が無いが、20歳位の男性の平均が40位だ。そう考えると魔力は高いな。ついでに使えるスキルも確かめるか?」
「出来るならお願いします。」
「分かった。」
男がそう言って水晶の上に手をかざすと、水晶の中の文字が切り替わった。
スキル
「死霊」魔術Lv3
召喚・骸骨・攻撃陣・防御陣・偵察
「剣術」Lv1
「どうやら基礎的な死霊魔術は使える様だが、残念ながらこれ以上の能力はギルドも把握できていない。」
「え?」
「理由は2つ。1つ目は死霊魔術師が冒険者になったことは殆どない。これは他国でも同じだ。だが決して差別されている訳では無く、他国では重宝されている所もある。」
「ではそういった方から話を聞ければ…。」
「2つ目の理由は深刻だ。死霊属性でLv4に上がった者は今までギルドでも確認出来ていない。」
「?!本気ですか!!?」
告げられた内容に驚きの声を上げるが、受付の男は重々しく頷いて言った。
「事実だ。そこで実は相談がある。」
「何ですか?」
「もし君がこの街以外でも良いから、Lvが上がった際にスキルをギルドに教えて欲しい。」
「スキルを教えろって!?」
スキルを教える=優位性を手放すと同じ意味であり、到底呑めない話だった。言外にそのことを責めるような口調で言うと、受付の男も焦ったようで早口で続けてくる。
「いや、全てで無くて良い。教えても良いと思ったものだけで良い。勿論、報酬は弾む。これは全てのギルドで適用されるルールだ。」
「こちらが提供して良いと思った物だけで良いんですよね?」
「ああ。」
こちらの確認も頷いたので、この話をまた時間が経ったらということで落ち着いた。
「で、次はこのタグだ。これは冒険者の身分証明書だ。街の出入りが楽になるだろうし、持って念じれば自分のステータスを確認できる。調整はしたからやってみろ。」
そう言われてタグに手を触れて念じると、頭の中に先程と同じ文字が浮かび上がってくる。
名前:ロス
属性:死霊 Lv3
冒険者Lv:Ⅰ
能力Lv:1
HP:40
MP:66
体力:21
筋力:13
器用:17
知識:25
魔力:32
敏捷:17
「スキルも確認すると良い。」
その声に促される様にスキルを見たいと念じると、文字列が変わった。
スキル
「死霊」魔術Lv3
召喚・骸骨Ⅱ・攻撃陣Ⅰ・防御陣Ⅰ・偵察Ⅰ
「剣術」Lv1
「ん?」
「どうした?何か問題でもあったか?」
「いや、何でもない。他に何かある?」
「そうだな。あとは冒険者Lvについてだな。」
受付曰く、冒険者Lvはギルドの規定に則った試験或いはクエストを受けることで上昇する。
LvはⅠ~Ⅹまであり、Ⅹになっている者は大陸全土で現在や過去も含めて全部で5人程しかないほどの称号だった。凡そはLvⅥ止まりが殆どで、現状ではLvⅧが最高位だそうだ。
またLvが上がることで、勿論冒険者ギルドからのバックアップも充実していくし、受けられるクエストの幅も増えていく。LvⅠ~Ⅱが初心者クラスで、Ⅲ~Ⅳが中堅、Ⅴ~Ⅵが上級、Ⅶ~Ⅷが最上級、Ⅸ~Ⅹは別次元とまで言われるらしい。
「説明は以上だ。あ、あとタグのステータスは本人のスキルを解析して詳しく教える機能もあるから、何か分からないスキルがあったら調べて見ると良い。」
「分かったよ。後はお金かな?」
「ああ、そうだ。登録料は銅貨20枚だ。」
言われた通りに銅貨20枚を払うと、早速自分のスキルについての疑問を解決する為に、近くに設置されていた椅子に座ってタグに手を当てた。
スキル
「死霊」魔術Lv3
召喚・骸骨Ⅱ・攻撃陣Ⅰ・防御陣Ⅰ・偵察Ⅰ
「剣術」Lv1
(このスキル名称の後ろの数字は何だ?)
そう考えると、頭の中に直接声が聞こえてきた。
(熟練度を示しており、Ⅰ~Ⅹとなっています。)
(お前は誰だ?)
突然頭の中に響いた声に声を上げそうになるが、それを我慢して心の中だけで聞き返す。
(恐らく無意識の内に呼び出された魂だと思います。どうやらタグに憑依した状態のようです。)
(ステータスの確認以外で他に何かできるか?)
(話すことだけですね。)
その返答に奇妙な道連れができたなぁと思いながら、当初の予定通り街を出る為に、冒険者ギルドを後にした。