外伝 悪いことをしてはいけません
「井上は学校にBRを持ってこないの?」
「うん。持ってこないよー」
御坂が満面の笑みで聞いてくるけど、持って来ないのには理由があった。
以前、私の恋心が誰にもばれないように、上条君を経由してみーくんに告白したけど玉砕した。その想いが、まさかBRに出てしまうとは思わなかった。
私のBRの名前はミースはみーくんのような顔をしていた。初恋の相手がそのまんま具現化した。死にたい。振られた上に、みーくんそっくりなんて、皆のように学校へ持って行けないよ……。
「まあ、気にするなよ」ミースが家の中で掃除を隅から隅までやってくれていた。両親の仕事が忙しいので、家事はほとんど自分でしていたが、ミースが来てからは家事全般を手伝ってくれているので凄く助かっている。
「気にするよ。ミースだって学校へ行きたいでしょ」
「……俺は構わないけど」
「訂正。私が困る」
「でしょうね」と言うが、ミースの方は気にする様子は無い。存在意義であるゲームに関しては、私からの制限は一つだけだ。ミースがゲームをする時は、仮面をつけるように指示をしている。これで正体を知られる心配は無いけど、プレイをするときは出来るだけ海外のサーバーを使用している。英語の勉強にもなるし、何かがあって仮面が外れた時も大丈夫なようにだ。御坂からは一緒にゲームをしようといわれているが、親からの命令で海外サーバーを使えといわれていると答えたら、すごすごと引き下がった。
「これぞ神算」
「そうか?」
だが、ある休日の出来事だった。朝から海外サーバーへ移りRPGをプレイしていた時の出来事だ。海外では夜を迎えていた。時間の感覚のズレは慣れているので平気だ。
だが――今日はいつもと違っていた。
クラスメートがとことこと私の前を横切った。基本的に私たち人間のプレイヤーはキャラメイキングが可能だけど、あまり体をかえすぎると感覚が鈍ると言うことで、ほぼ同じ容姿にしている。例外は数多くあるけど、ゲームで頂点を目指すなら自分の姿が一番だ。
クラスメートこと、中島だ。
太めで、アニオタ、超が付くほどのゲーマーと秋葉原大好きだが、性格が良いため皆から好かれている。私と同じくBRを学校に持ってこないことでも有名だ。
今も――BRをつれて歩いていなかったが、そもそも海外サーバーに来ること自体が異常だった。中島も何か後ろめたいことでもあるのだろうか、私は後をつけてしまった。
「まさかのソロプレイだね」
「超上級プレイヤーですね」
中島は高難易度のダンジョンを突き進み、後ろには眼もくれずに、最深部へと入っていった。私とミースは息も絶え絶え、このダンジョンでここまで来るのは新記録だった。
「まったく、自分のことは知られたくないくせに、人のことになると必死なんですね」
ミースがミノタウロスを炎で焼け尽くした。
「……それは自分でも呆れている」
「その執念を、勉強か恋愛に回した方が良いですよ」
「はいはい」
それよりも中島だ。もしや、ソロでクリアするつもりなのだろうか。
私たちは最深部へと入ると、ボスと中島が面と向かっていて、雑談をしていた。
「話している……」
「しかも凄い仲良さそうに」
中島が身振り手振りを交えて、ボスと話していた。よく見ると、そのボスは美しい少女で、ゲームキャラをデザインした人の趣味が知れた。
「……ゲームキャラに恋している?」
「まさか」
「絶対そうだよ。だってゲーム内のNPCの中には、BR並みの人工知能を積んでいるのもいるのよ」
F3の公式発表ではそうなっている。それがダンジョンのボスとなれば、BR並みの人工知能を積んでいても不思議ではなかった。
「あっ」
その声はボスが発した声だった。笑い顔はみるみる怒気に満ちて、私たちと戦闘に入った。中島が唖然としていたが、私だと確実に知られてしまっただろう。あっけなく私たちは全滅して戦闘終了となった。
案の定、次の登校日に中島が、私に話しかけてきた。
「恋人は間に合っています」
「嘘つけ。フリーだろ」
その通りです。クラス中から茶化されながら、私たち二人は屋上へと逃げ込んだ。
「中島はNPCに恋しているの?」
中島が質問をする前に、私が質問をした。
「……何の話?」
「昨日のボスのことだよ。凄い仲良さそうに話しかけていたじゃない」
中島は顎を撫でて、にやけ、笑った。
「そうか。そう思ったのか。なら用は無いや」
「へ?」
「そうそう、俺はNPCに恋をしているんだよ」
「完全に嘘じゃ無いですか」
家に帰ると、ミースが布団を干していたが、中島の態度を聞くと怒って布団叩きを加速させた。小さな埃が辺り一面に広がった。
「どういうことだろうね」
ミースが布団をしまいこんで、
「まず、中島が最初に話しかけてきたのに注目しましょう。彼は何かを言おうとしていましたが、マスターが先走って質問をしてしまったため、マスターにその考えが無いのを確信して話を打ち切りました。となると、中島はNPCに恋したわけではありません。で、どういうことかというと……」
「どういうこと?」
「さっぱり分かりません。ただ中島にとっては隠しておきたいことですね」
その後、同じダンジョンへ行ったが中島と会えず、ダンジョンの最深部へも辿り着くことが出来なかった。執念が足りないのだろうか、目の前に餌があれば死ぬ気で頑張れるのだけど……。
それから数日が経った。
中島は同級生からは好かれていたけど、先輩に眼をつけられたそうだ。
一年生は誕生日を迎えればBRを買うことが出来るけど、買えない生徒は上級生からBRを使って虐められることがある。BRは高性能であり、ある程度の喧嘩も出来るからだ。
こういうときに役に立ったのが上条君だ。子供の時からBRマーズを操っている上条君は相手を返り討ちにする。
だが――、「昼休みは図書館で椚とお喋りするんだよ!」
いつの間にか恋の病に落ちていた。
マーズが溜息をついて、「腑抜け」と言った。
「ちょっと待ったー! あたしが行こう!」
みーくんのBRである朱莉が胸を張っていった。巴も服をつかまれて、シスターズがとうとう学校で喧嘩をするのかと期待が集まった。
「シスターズのオトオリダァ!」朱莉は巴を引っ張っていってしまった。腑抜け上条君は図書館へふらふらと旅立って、マーズとみーくんが向かい合っていた。
「喧嘩ってどこで起きているの?」
「最後まで聞かずに行っちゃうんだもんなぁ。うちの姉たちは」
喧嘩が起きているという視聴覚室へ、私とみーくんとマーズが一緒に行くと、部屋の中は真っ暗だった。BR同士が飛び交いながら戦っているようだが、中島はBRを連れて歩いていたようだ。上級生のBRを五体も相手にして縦横無尽に戦っていた。
マーズは感心しながら、戦いを観戦していた。
「ほほー、久し振りに面白いものが見れたね」
「姉ちゃんたちもこればよかったのに」その頃、朱莉と巴は校庭に出ていた。
カーテンが揺らめき日の光が入ると、中島のBRは日を避けて、暗闇を駆けた。衝突音が五つ続けて聞こえて勝負があった。
「あっ、その顔は」
中島のBRの顔に見覚えがあった。ダンジョンのボスの顔だ。中島は私の台詞に慌てて、指先を立てて黙っててと言った。
「俺のBRはカミラ――吸血鬼女なんだよ。だからBRと言えど、外に出れないんだ」
中島が放課後に話しかけてきて、一緒に帰ることになった。
「だから、ずーっと一日中ゲームばかりしていたんだけど、その実力を買われて、ダンジョンのボスを担当するようになったんだ。あの時は、丁度ボスの交代時間だったから、俺はカミラを迎えに行っていたんだよ」
「なるほど、そういうことだったんだ。でも、それが隠したいことなの?」
「あのねー」
中島は呆れたようだ。
「これで金銭が発生しないと思うの?」
「ああ――そういうことか」
学校は原則アルバイト禁止だ。校則違反になってしまう。
「そういうこと。でも、今回ので止めることにしたよ。これ以上続けていって、校則違反で停学は勘弁だからね」
「うーん。ばれる前に止めた方が良いよ」
「だよなー」
中島の鞄の中から「だよなー」とカミラの声が聞こえた。
「ところでさ、聞きたいんだけど、井上もBR持っているんだろ」
「うん」
ゲーム内で見られているから、言い逃れは出来なかった。
「なんでみーくんなの」
私の人生、終わった。
「……」
「カミラが戦闘の時にBRの仮面を攻撃しちゃって、顔見ちゃったんだよね」
「……」
「大丈夫か?」
「……黙っていて」
「お互い様だから」
「そうね」
「そうだね」
私たち二人は友情ではない、強い結びつきを得た。




