外伝 片想いは恋愛にはいりますか?
例えばの話だけど、人間の部位を万能細胞で作った部位と一つずつ入れ替えていき、脳の記憶を複製して、脳も入れ替えたら、それは元の人間と言えるのだろうか。
その答えを出すのは難しい。
俺のBRは親父からのお下がりで、現実世界で生活する肉体を頻繁に入れ替えて、新品同様に作り変えられていた。前と後で区別はつかない。腕についた汚れが消えた時は喜んだけど、さすがに人工知能を複製して新しいのにしたときは、俺は混乱した。
本当にこれはマーズなのかと。
「マーズ! 索敵」
美しいマーズは敵の目を掻い潜って、索敵を行って通信をしてきた。俺はそこへ向けて、グレネードを投げ込み、敵をあぶりだして自動小銃で倒した。
「あっ、逃げられた」
通信対戦が無理矢理に切断され、俺の戦績は無かったことにされた。
「僕の活躍が」
「はー……止め時か」
F3のFPSゲームだ。BRが一般化される中で、ソロプレイヤーと言うのはほとんど存在しない、二人一組で縦横無尽に戦うのが主流になっている。よって、人間よりもBRのほうが優秀だと、嫌味を言われたりするが、マーズの場合はゲーム好きだった父親の影響もあり何をやらせても一流の動きをした。
「良いBRもってんな!」とか断末魔に言われたりすると、少々腹が立つ。
「相手の名前を覚えていますが、ブロックする?」
「いや、やらなくていいよ」
ブロックは通信対戦で相手と関わらないための方法だ。
「しかし、前にもして来たよ」
「あいつ、負けそうになるとすぐ切断してくるけど、そこそこ強いからさ。成績に残らなくても、面白いんだよね」
「BRとしては、お勧めしないね」
マーズはそう言うと、充電を開始して部屋に戻ったようだ。部屋と言うのは、いわゆるマイページのことで、色んな家を購入したり、物を買ったりすることが出来る電脳空間だ。長年戦っていたため、ポイントが溜まりにたまって、俺が一生かかっても住めそうにない家に住んでいる。たまに中に入ることもあるが、居間にしか通してくれないので内部がどうなっているか知らなかった。
学校では、みーくんのBRが大人気だ。今まで主人の目を差し引いてもマーズがボーイッシュで可愛いと思っていたが、調査対象となったため最高品質をつかっているシスターズには敵わなかった。最高品質になると会話も滑らかになるため、女の子がそのまま二人増えたような感覚となり、女の子同士で香水の話をしていた。
「そんな話しているの? 嫌だなぁ。香水って高いんだろ」
飼い主のみーくんはこんな感じだ。品行方正で特別目立つところがないが、もてるのだ。もてるので女の子に対して関心が薄い、何もしなくても女の方から放しかけられるとでも思っているのだろう。男だったらイケテイル女グループの会話には誰もが耳をすましているのが普通だ。だから、俺は香水の話を知っているのだ。
ところで、何故みーくんがもてる事を俺が知っているかと言うと、俺の好きな人がみーくんを好きになることが二回あったからだ。
一回目は中学生の頃、俺は体育館裏に女生徒に呼び出されて有頂天になった。昔から好きな女の子だった。名前は御坂だ。シスターズを最初に拉致した女の子だ。呼び出したのはみーくんに手紙を届けてほしいということだった。
俺は泣いた。
マーズが慰めてくれたので、みーくんと友達を続けている。
二回目は今年だ。御坂の友人である井上が、みーくんに手紙を渡してといったのだ。そう……高校に入ってから狙いをつけていた女の子だった。御坂は駄目でも、井上と思っていたのに、哀しいことは続くものだ。
二回目も、泣いた。
また、マーズが慰めてくれた。
友達ながらモテル友人に嫉妬すると共に、手紙を渡したのに友人のままってどういうことなのコイツと思う。俺の片想いを二つとも壊しやがって……。
「と、思うんだが、どう思う?」
「そうか……あたしの弟はそんなにもてていたのか」
朱莉と巴が女グループから離れて、校庭で球技をしていたので話しかけた。
「私が思うに、恋人出来るとゲームする時間がなくなるね」
巴も来て、朱莉の横に座った。
「だ、駄目だ……わ、私たちにはまだスライムを倒すという使命が」
なんのこっちゃ。
「それ、秘密、恥ずかしいから」
シスターズがひそひそと密談をしていた。
「でさ、どう思うの?」
「顔かな。女は顔が一番だよ。特に若い子は。上条は整形するべきだよ」
説得力があったが、それはしたくなかった。
「ただ……弟はかっこいいかな?」
「姉さん、隙あればキスしているじゃない」
「だって、可愛いんだもん。巴は母さんに甘えているから弟に甘えてもいいでしょ」
親父を忘れているが、誰も気にしなかった。
「……可愛い! それだ。」
マーズを自転車の籠に乗せながら、俺は帰宅した。
「そうだよ。俺になくてみーくんにあるのは可愛らしさだ」
「……僕が思うに、可愛くなくても良いと思うけど」
「どうして?」
「今のままで、十分カッコいいよ」
マーズが沈黙してからしばらくして、俺の携帯端末に何かを送った。
「これが、生まれたときの写真」
古い部品の時のマーズと俺が写っている写真だ。
「こんな古い写真、見たことが無いぞ」
アルバムにものっていない写真だった。
「では、家に帰ったら見せてあげるよ」
マーズは帰るなり、すぐにマイページ――電脳空間上の家に連れて行ってくれた。普段では居間から別のところへは行かせてくれないが、隣の部屋に移ると、マーズが生まれてから今までの写真が飾られていた。
「こちらはお父上のですが、こちら側は……」
「俺の写真だ。うわー、懐かしい。これ父さんもとっていない写真があるよね」
「ええ、僕が楽しむための写真ですから」
マーズが何枚かを取り出して俺に見せてきた。
「たまたまですけど、中学生の頃から高校生の頃の写真ですね」
「……さっぱりわからない」
「中学から一緒の椚さんは知っていますよね」
「ああ、図書委員の女の子だよね。文学少女を地で行く」
「椚さん――好きですよ。写真を見れば分かりますが」
好き?
「誰を」
マーズが俺を指差した。椚さんは高嶺の花と呼ばれて、色んな人から告白されても好きな人がいると断り続けた。学年でも屈指の美女だ。
「なんで?」
「ずっと見ているんですよ。僕も最初は気のせいかなと思っていたんだけど、写真にも何枚か視線を投げかけているのがあるんだよ」
「ほ、本当だ……」
嘘だろ。
「で、監視していたんですけど、もしかしたらストーカーかなと思って。問いただした」
「なになになに!」
問いただしただと。どういうこと?
「そうしたら、否定していました」
「――否定されてんじゃん」
「でも、その後にこの事は絶対に言わないでくださいって言われた。顔を真っ赤にされてね」
「い、いや、本当にそうだろうか」
「大丈夫ですよ。BR目線で信用が無いかも知れませんが、中学から高校へかけて、凄いかっこよくなりましたよ。僕は昔から写真を撮っているから、最初は不安だったけど、ここまでカッコよくなるとは思わなかった。いまさら可愛いなんて別路線に移っても手遅れだよ」
マーズは全身が変わっても、まったく変わっていなかったようだ。このアルバムの部屋がそう告げていた。ここには文字で表せない歴史があった。BRとは血族の者という意味だ。最初は父のBRだったが、息子の僕が主人になっても血族の者という意味は変わらない。マーズは少しばかり特殊なお姉さんだ。彼女の言うことは、誰よりも信用できるように思えた。
次の日、本当に図書館にきてみた。
椚さんが本に眼を落としており、俺が目の前に行くと頬を赤くした。
「椚さん、久し振り……あの面白い本ってあるかな?」
俺は本を読まない。
「あっ、はい。どんなジャンルですか?」
にこやかに椚さんは笑った。
「れ、恋愛小説を」
取り合えず第一歩進んだ。




