死闘、スライムとの戦い
中学生の頃は部活をしていたので筋トレをしていたが、まさかBRと一緒にするとは思わなかった。腹筋、背筋、腕立て伏せから初めて、徐々にメニューを追加していった。YOUTUBEでダンスの映像を見ては踊り、トレーニング方法を見てはやってみて、夜の走り込みを始めた。一ヵ月後には筋肉質になっていた。
ボクは肉体も頭脳も鍛えて、すこぶる健康な人間となった。
はたして、ここまで鍛え上げて、意地になってまでゲームをする必要があるのだろうか、とても疑問だ。もう、良いのではないか。そんな気がしないでもない。
F3のレイさんに一ヶ月の報告をしに、双子と一緒に出かけたら、一通り検査をしてもらった。すると、
「ここまで現実の肉体を自由に操作しているBRはまずいないわよ」
とそこまで言われるようになったが、
「それでもスライムは倒せないの」
「ステータスで勝負するゲームなのに、自分たち自身の能力を高めて倒すという考えが凄いわね」
「お褒めに預かり感謝します」
朱莉はそう言ったが、遠まわしに「馬鹿」と言っている様な気がしないでもなかった。
「最近では、私も避けられるようになった」
朱莉と違って活発でない巴には一ヶ月の鍛練は大変だったようだけど、それでも検査の結果は異常な数値を出していたそうだ。
「これで倒せるぞ……スライムが!」
双子はワキャワキャしていたが相手はRPG最弱のスライムだ。
決戦の日は来た。
ボクがヘッドギアをつけて準備していると、両親が双子に連れられて入ってきた。
「今までの頑張りをみせてくれるって」
母さんよ……息子は成績が優秀になり、肉体も壮健になりました。今から進む道は堕落の道です。母さん、それが分かっていないのですね。
「さーて、それではスライムを倒しましょうか」
いつも通りの草原だ。
ボクの生唾を飲む音に、双子はびくりと反応した。
両親を連れてきて、自分たちを追い詰めての戦いだ。
例え、相手がスライムであろうと……当人たちには本気だった。
フィールドに出てすぐに戦闘音が鳴り響いた。
青々として、間抜け面をしたスライムだ。レベルを上げた冒険者なら、簡単に……寝返りを打ってでも殺せるような雑魚的だ。だが、今はその青々とした体が不気味かつ高貴な印象すら見える。もしも、相手のスライムがこちらを倒した経験値を貰っていたら、転職ができるくらいの強さになっているだろう。だが、こちらとして歴戦の勇者と対面しているような心地だった。丸々とした眼も鋭さを隠して、わざと見開いているようにみえる。間抜け面も賢さを隠しているように見える。手足が無いのも、相手を油断させるためにしか見えなかった。つんと尖った頭もやわらかそうに見えるが、棍棒のように固くて殴りつけて来そうだった。
ボクは思った。
何故、スライムにこれほどの恐怖を抱かなければいけないのか。一つのキャラで双子と言う特殊な状態なので、一ターンで二回攻撃ができる。そうだと思ったからRPGにしたのに、最初の取っ掛かりが難しすぎる。
だが、もう決戦はすぐだ。
ボクは一緒に旅をしている一般人と言う設定だ。戦いはしないが、双子が負けた後に、ボクが攻撃されれば負けになる。ようはチェスのキングだ。双子の負けイコール世界最弱のスライムに殺されるという屈辱を何度も味わった。それももう卒業だ。
朱莉がスライムの間合いの外を時計回りに、巴は反時計回りに回った。武器は無く素手だけだ。スライムが片方を攻撃しようとしたら、後ろから攻撃、それでも殆どがミスになる。双子はスライムの摺り足(?)に合わせて、微妙に位置を変えながら間合いを計った。
スライムが朱莉へ向けて飛んできた。踊りの成果か出て、華麗に避けながら蹴りを放った。ぺちっと音が出たがミスだった。
だが、ここで諦める双子ではない。
HPは5である。五回ダメージを与えれば勝利なのだ。一方、こちらは一回か二回しか守りきれない、残念なことに双子のどちらかが戦闘不能になると、どちらも倒れてしまうのだ。
なんという無理ゲー。
ゲーム創世記初期の無茶苦茶さ並だった。
朱莉が後ろにさがりながら拳を繰り出した。家で朱莉が何度も繰り返し練習していた技だ。スライムになんと1ダメージ食らわすことができた。
HPは残り4だ。
「集中だよ!」
朱莉は巴を見ながら、スライムからじりじりと後ずさりした。スライムは攻撃されて、標的を朱莉へと絞っている。後ろから攻撃すればいいのだが、巴より先にスライムが動いた。
頭の尖がりが伸びてきて、朱莉の足を狙った。ぴょんと飛び避け、巴の援護が入った。巴は体当たりをすると、スライムはよろめいたが、ノーダメージだった。
「むー、よろめいてもダメージ判定なしか」
朱莉は汗をかきながら、スライムを見た。スライムの体当たり、巴はまともに食らって、ゲームオーバーかと思ったけど、朱莉は動いたままなのでセーフだったようだ。
その時、朱莉に奇跡が起きた。
拳が光り輝き、エフェクトが発生した。あまりの運の無さにまったく起きなかった現象だ。それが起きた。まさに奇跡だった。
会心の一撃!
スライムにダメージ2。
「よっしゃあ!」
朱莉は喜んでいるが、ボクは始めて神様を恨んだ。絶対に勝ったと思ったのに……。
朱莉は巴の手をつかんで無理矢理起こして、スライムから距離を取った。
スライムのHPも残り2である。こちらはどちらも一撃死は間逃れない状況だ。だが、朱莉は一回ないしは二回までは耐えられるので、スライムの正面に立ちふさがり、巴がスライムの後ろに回るのを援護した。
「はっ!」
威勢のいい掛け声はフェイントだった。巴が隙を見て、スライムを爪先でけり、
1ダメージがはいった。
「残り1……」喉がからからに渇いた。
「最後だ……」
双子は視線を交わして、前後から一斉に蹴りをいれた。
パチン。――がミス!
朱莉はスライムの尖がりに腹を突かれて死にはしなかったが、意表を疲れたようだ。その後も五度隙をついて攻撃したが、最後の一撃に恐怖してなかなか決まらなかった。
攻撃の態勢が悪いのであろう。勇気を持って攻撃すれば1は与えられるはずだ。
なら――。
「うわー!」
ボクは大声を出して、スライムに突撃した。ボクが倒されればゲームオーバーだが、ようは攻撃を受けなければいいのだ。スライムが迎え撃とうとしたので、鍛えたとおりに避けてスライムの上を飛んだ。
スライムの視線が、ボクを見つめている。
「いくよ!」
朱莉と巴がもう一度同時に攻撃した。
バン。――1のダメージ。
スライムが目の前から消滅した。
「や、や、や、やったー!」
朱莉が抱きついてきた。
「う、嬉しい」
巴はその場で泣いていた。
よほど大変だったようだ。
草原を歩き続けても、魔物は現れず、最初の村に到着した。
双子が村の入口にいる男の人に話しかけたくて仕方ないような顔をしていた。
「いーい?」
「うん」
双子が話しかけると、
「ここの村はアルフレアだよ。なーんにも無い村さ」
と聞き、何度も何度も話しかけて同じことを聞いていた。




