スライムに勝てません
ボクが最初のキャラクターメイキングをした女の人――レイが報告の受付を担当するのだけど、最初の一週間で時間を空けてもらい、近くのカフェで待ち合わせをしてもらった。
「どう。ゲームは楽しんでいる?」
仕事場から離れたレイは相変わらず無表情で淡々としていた。
「あの……」
「高性能の人工知能と、双子という特性を活かせば、ゲーム攻略はかどっているんじゃないの?」
「RPGの最初の敵すら倒せません」
「はい?」
そのRPGを買ったのが運のつきだったかもしれない、前述の通り大金を使ったので他のゲームを買う余裕は無かった。そのRPGが村の外で始まり、最初のステータスなら余裕なイベントバトルがすぐに起こるのだけど、二回攻撃ができそうな双子と言う特性が悪影響を与えた。
「ステータスが半分に割り振られるんですよ」
「……双子だから?」
「はい……なので最弱も最弱なんですよ!」
ある程度進んでからステータスが半分になれば、それ以前の場所に戻ればレベル上げも簡単だろうけど、最初の最初だ。戻るとは、現実に戻ることだ。
「それは」
レイは黙って、笑い声をあげた。無表情な彼女が初めて出す人間的な部分だ。
「笑い事じゃあないですよ」
「ご、ごめんなさい……まさかスライムにすら勝てないなんて思わなくて」
「攻撃力弱すぎて、与えられるのは1かミスですよ」
また笑っている。
「これは大変そうね。ただ、私にできるのはステータスを上昇させることぐらいしかできないよ。ようは……チートだけど」
「うーん。それは姉たちが許しませんね」
「姉って呼んでいるんだ」
「ええ、両親が完全に姉が転生したと思っているんで、喋る方を姉にして『朱莉』、無口なほうが妹にして『巴』です。今日は置いて来ましたけど、今も頑張ってスライムを倒そうとしていますよ」
家へ帰ると朱莉が出迎えてくれた。
「おかえり。巴と母さんはピアノの練習しているよ」
なるほど、寂しいのか。
朱莉と巴が来てから一週間になるがお淑やかな巴は自然と母さんに懐いて、活発な朱莉はボクとお父さんに懐いていた。朱莉もピアノをしようとしたが不得意で、スポーツが大得意と分かったので、暇な時は体を動かしている。
朱莉と手を繋ぐと、二階のボクの部屋まで引いていった。二人は外見の区別をつけていないが、ボクたちにとってはそれでも判別がついた。ただ、学校デューするときには髪形を変えたりして、友達連中にも分かりやすいようにしようかと思っている。
部屋の中で二人で向かい合い、おもちゃのテニスを打ち合った。
「はっ!」
「ほい!」
「まだまだっ!」
「食らえ!」
朱莉の動きは速く、アクロバティックな動きも織り交ぜていた。体の大きさでは劣るけど、負けん気と速度で勝とうとしている。そうなると必然的にボクの攻めも意地悪になるけど、それでも壁打ちをしているようにはねかえしてきた。
その運動神経のよさをスライム相手に示して欲しいのだが、ステータスには勝てないのだろうか。
三十分は遊んだ頃に、巴が入ってきた。
「おかえりなさい」巴は言葉少なに言い、ボクの膝の上に乗った。
「もう、遊んでいたのに」朱莉は怒っていたが、すぐに怒りは冷めたようだ。「巴も戻ってきたし、そろそろ行く?」
「……うん」
二人の姉は性格は違うけど、同じ情熱を持っていた。
そう――ボクにゲームをさせると言う、お姉ちゃんの決意だった。
ゲームを買って、ゲームに対してやる気があって、最初のスライムを倒せないとは、それに二人は世界初めての双子であり価値があるとチヤホヤされていた。それなのにスライムすら倒せないとは……。
めらめらと闘志が燃え上がっている。
「なら、今日も修行に出かける?」
ボクの中ではすでに修行の領域に入っていた。
「おう! 行くぞ!」
「はい……」
ボクは専用のヘッドギアをつけて、ゲームにジャックインした。
見渡す限りの草原が広がり、ボクの肩ぐらいの大きさの朱莉と巴が現れた。ファンタジーらしく布の服を着ており、手には何も持っていなかった。
そう――本当なら二人旅だ。この場所で郷愁にふけったあとに、自分が生まれ育った村へ戻ると言う話だ。ボクは非戦闘キャラとして表示されているので、直接戦闘には参加できない、なので蘇ったばかりの姉たちの世話になりっぱなしだ。
二人とも同じ容姿だが、ボクの理想像と言うだけあり、姉ながら顔を見るとドキッとしてしまう美しさだった。大和撫子と言う言葉が似合う美しい黒髪と、肌理の細かさは一度手を握ってみたが滑々として驚いた。
「よし、いくぞ!」
「うん」
ボクたちは一歩フィールドに出た。
スライムが現れた。この小さい魔物がこれほど恐ろしい魔物とは思わなかった。ここさえ抜けてしまえば村で、村に着けば他のプレイヤーがいるので、パーティーに入ることで経験値を手に入れることができる。
そこに行けば、天国だ。
朱莉が素手で殴りかかった。
巴も素手で殴りかかった。
スライムは固い、コンクリートより固いのではと思えるほど、朱莉と巴の攻撃はミスの連発だった。そして反撃をされて、しばらくのうちに全滅した。
それを百回ほど繰り返した。
「無理だよ」
「あ、諦めるな!」
朱莉がボクの太ももをぺしっと叩いた。
「お姉ちゃんが絶対にゲームをさせてあげるから諦めないで!」
朱莉が必死の表情でボクを見つめた。
巴は負けすぎて心が折れそうになっていた。
「わ、わかったよ」
だが、負け続けてボクはゲームから遠ざかり、暇すぎて勉強する日々が続いた。




