お姉ちゃんは転生しました
「世界でも初めてのことですね。驚きました」
無表情で白衣を着ているため無機物のような印象のある女性だった。黒髪で長さを短めに切っていて、髪を染めた跡も無い、言葉とは裏腹に驚いた表情をしない冷たい印象のある女性だった。
後々知ることだけど、レイという名前の女の人だ。
「初めて?」
ここは通称F3と呼ばれるゲーム会社の支社だった。このゲーム会社では16歳になればあることが解禁される。
略して『BR』=blood relation。日本語で血族の者と呼ばれるキャラクターメイキングだ。
高校一年になってから友達が次々とBRを作り羨ましかった。友達として遊んだり、F3が作ったゲームでパートナーとして使ったりしているのを見て、誕生日を迎える何ヶ月も前から両親に甘えた。BRは高性能の人工知能を搭載しており、全ての面で非常に優れた技術を使用しており、軍事利用すらされている技術だそうだ。
F3のゲームは販売されているだけでも、百タイトルを超えている。
その全てにBRは使うことができ、ある時はファンタジー、ある時はシューティング、ある時はホラーなど、プレイをある程度制限されるときがあるが、BRをキャラクターとして使用することができる。
愛着のあるキャラクターがゲームを越境する夢のような技術だった。
そして年月も越境するので、古いBRになると十年以上になり、個々のゲームで経験が無くても人生経験のあるBRとなる。
社会人でもその優秀な人工知能を有効に使っている人もいるそうだ。
「ええ、六時間にわたって睡眠状態で試験を行いましたが、あなたのキャラクターは双子の姉妹です。BRは基本的に一体しか作ることが出来ませんので、これは異例の出来事ですね。何か――双子の姉妹に心当たりはありませんか?」
「あります」
それを聞かれてすぐに分かった。
「ボクの姉ですね。産まれてすぐに死にました」
姉は双子だった。産まれてすぐに死んで、そのため次に生まれたボクは姉の生まれ変わりと言われた。もう一人生まれれば、妹の生まれ変わりだと言われたのだろうけど、あいにく生まれなかったので、ボクは二人の生まれ変わりだと言われて今まで育った。
その事が、棘のように刺さっている。
ボクがボクじゃないような、拠り所の無い感覚だ。
目の前の女性に説明をすると、静かに頷いた。
「BRを生成する試験は、対象者の自動化された行動を除いた思考を介する行動を抽出、意識を除いて無意識を抽出して、理想の異性を作成します。ですが、時々これに当たらない例が発生します。あなたのように誰々の生まれ変わりと言われて、同じようにそっくりなBRが生まれたことがある例もあります。ですが、双子は初めてです。お願いがあるのですが、この後時間がありますか?」
今日は休日だ。時間はあった。
「F3は特殊な事例は調査研究の対象となっています。これからBRが現実で動くためのアバターを提供しますが、一週間に一度の報告と一ヶ月に一度の面会を行っていただければ、最高性能のアバターを提供していいことになっています。どうですか、あなたが嫌だと言えば引き下がりますが、悪くは無い条件だと思います」
ボクの答えはすぐに出た。
「はい。お願いします」
BR二体が自転車の籠に乗り、街を疾走する姿は眼を引いたようだ。双子のBRはいない、それにアバターが最高性能のせいか細部まで美が表現されており、BRの美しい姿が眼を引いたようだ。二人とも黒髪ロングで、ボクの学校の女子生徒の制服を着ている。頭ぐらいの大きさのBRはデフォルメされた人のようで可愛らしいデザインだ。
会話は少なかった。
「よろしくね」といったが、
「うん」と一人はいい、もう一人は無言でコクリと頷いた。
なんとなく喋ったほうが姉で、無口なのが妹だろうか。生まれたばかりなのでそれほど性格に差が出ないと思ったけど、そうでもないようだ。
ただ緊張しているだけかもしれない。慣れれば会話も弾むだろう。
しばらく自転車で走り、家につくと、双子は止まった途端にぴょんと跳ねてタイルに見事着地した。ボクが鍵を開けるのを待って、喋った方のBRが先に入り、無口なほうはボクの後に入ってきた。
「ただいま」
「おかえり。どうだったBRは?」
母さんが台所から出てきた。
BRを作るのには大金が必要だったので両親に出してもらった。と言っても、10万だ。ただBRが気に入らないと言って新たに作っても同じBRが出来るそうなので、一生物と考えるとかなり安い。
「あれ? 双子……」
何故? と言う表情を浮かべた。
双子のBRは母を見て、走って抱きついた。
「ママー!」と言った。
母さんは明らかに慌てて、二人のBRを抱きしめ返した。
「ど、どういうこと?」
ボクは経緯を説明すると、母さんは涙を流して何も喋られなくなった。
喋ったBRは姉で、無口のBRは妹だった。
父さんも帰ってきて説明を聞くと、涙を流した。
両親は気付いていないが、ボクは救われた。今まで姉たちの代わりになろうと一生懸命虚勢を張って生きてきた。二人分の頑張りをしようと、もがき苦しんでいた。
それが、双子の姉の帰還で終わりを告げた。




