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異世界レシピ  作者: 柚月
14/18

14品目

「優しい人間も、居るんですね。」


言いながらシンの頬に薬を塗り込み、そこを保護するようにガーゼの様な物で覆って手当てをしながら、ゴードは静かにシンに話し掛けた。


「あの、あの人は?」

「マオ様ですか?一度落ち着きたいんでしょう、部屋に籠っています。」


シンの言葉に涙を見せたマオは、その後シンと話す事をせずに姿を消した。

それを心配するかのようにシンが問えば、ゴードは大丈夫だと言わんばかりに返答を返す。

それよりもシンの顔の痛々しい跡の方が気になるのだろうか、シンに向けて心底申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません、でした。よりにもよって女の子の顔に・・・」

「いや、こっちこそすみません。まさか泣かせちゃうとは思わなくて」


しまったしまった、と眉をハの字にして笑うシンを見て、ゴードもつられて苦笑を浮かべる。

なんて優しい子なんだ、と、再び思ったからだ。


「・・・マオ様の涙なんて、久しぶりに見ました」

「長いんですか?付き合い。」

「子供の頃から、ずっと一緒に居ます。マオ様とダイと私と、兄弟と同じ様に一緒に過ごしてきましたから。」

「幼馴染、だ。」

「そういう見方もありますね。昔は泣き虫だったんですよ?マオ様。」


いつからだろうか、泣いている姿を見なくなったのは。

王になると決まった頃かそれよりも前だったか、随分と昔のように思えるまだ幼かった泣き顔を思い出し、ゴードは可笑しそうに笑みを深めた。


それを微笑んで見ていたシンの目の前に、そっと湯気の立つカップが置かれたのはその時で、それを差し出した手を辿ればそこには見たことのない顔。


「えっと、あ、ありがとう、ございます・・・?」

「ダイ、気が利くじゃないですか。」

「ダイ、って、え・・・?え、え?」


呼ばれた名は聞き慣れた名前だった。

けれど見覚えのない褐色の肌の男を見上げて疑問符を頭の上に飛ばすシンに、ゴードは笑いながら答えを教える。


「獣人、と言いましたよね?獣人にも色々居て、普段から見た目は獣で二足歩行の者や、ダイの様に獣と人の姿の両方を自由に交代できる者も居るんです。」

「じぁあ、さっきのは犬の姿のダイさんで今は人の姿のダイさんって事ですか?」

「犬じゃない、狼。」


犬、と呼ばれるのは少し嫌なのか、間髪入れずに訂正を入れるダイ。

その声は確かに先程の獣姿のダイと同じ声で、シンはへーとかわーとか言いながらダイを眺めていた。


それが恥ずかしかったのだろう。

ダイは堪らず大きな手の平でシンの目を覆うと、自分の方を見えないようにする。


「シンさん、あんまり見ると恥ずかしいみたいです。」

「ご、ごめんなさい、珍しくてつい・・・」

「怖くはないんですか?」

「いや、特には。だって優しいって事をもう知っちゃいましたから。今さら見た目とかそういうので怖いとか思えないですよ。」


怖がった方がいいですか?そう悪戯っぽくシンに笑いながら言われ、ゴードは堪らず苦笑を浮かべた。


「マオ様の言葉を借りる訳じゃないですが、本当に肝の座った方ですね。カチにもそうは居ませんよ?貴方みたいな女の子は。」

「褒められてます?」

「褒めてますとも。」


そうですか、と笑いながら言うシンにゴードもダイも続く言葉が出て来なかった。

あまりにも普通に、あまりにも当たり前の様に接してくるシンに、思わず同じ様に接してはいるもののその違和感に気付いたからだ。


「シン、」


不意に名前を呼んだのはダイで。

それにシンが返事を返すよりも早く、ダイの手がシンの頭にぽすん、の置かれた。


「辛い思い、したのか。」


どうしてそう思ったのか。

それに対する明確な答えなどなかったが、けれどダイは、そして恐らくゴードもほぼ同時に同じ事を感じていた。


マオと話している時に言った、"小さな悪意"の話もそうだ。

あの言葉達は、それを向けられた人間だったからこそ妙な説得力を帯びていたんだろう。


そして今、この状況。

シンは明らかに、自分達を敵視する事など一切していない。

警戒心がないとかそういう域の話ではないのだ。



この子は悪意があるかないかを見分ける目を持っているのだ。

恐らく、後天的に自身の実体験を元してに身に付いた、敵意と好意を見分けるための目を。


「・・・頑張ったんだな。」


何があったのか、それはダイにもゴードにも計り知れない。

シンが英雄様と共にこの世界に召喚された、というのは情報として入っていても、それ以降の"シンについて"の情報は殆ど無いに等しい。


けれど、苦労をしたのだろう。

見ず知らずの土地で、知らない人間ばかりの場所で。

まだ若いこの少女は、この場所で生きる為の様々な苦労を。



シンの言葉から、態度からそれを感じ取ったダイとゴードから向けられる視線に、シンは困った様子で苦笑を浮かべるしかなかった。


「そんなに優しくされたら、泣いちゃいますよ?」


まったくもう、と言ったシンの目に僅かに浮いた光るものを、ダイは不器用に指で拭い取った。

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