12品目
今、目の前の美女は一体何を言ったのか。
思わず口を開けて固まるシンに、マオは更に続ける。
「そこで、だ。英雄様の好きな食い物とか喜びそうな贈り物を教えて貰おうと思ってだな、」
「いや、いやいや、ちょっ・・・ミユキちゃん、女、ですよ?」
「知っているが?」
「え、だって、貴方も、女じゃ」
「ああ、そんな事か。」
シンの戸惑いの意味に気付いたマオは、そんな事、と片付けると口元に弧を描いた。
「私は、"両方"だからな。」
「両、方?」
「なんなら見るか?」
何を、と問おうとしたシンの言葉よりも早く、胡座をかいていた自らの足に手を伸ばすと、下半身を覆っていた太股までスリットの入った薄い布に手を掛けたマオ。
それが捲られようとした、その寸前で、
「何を見せようとしてるんですか!!」
ゴッ、と響いた低い音。
しかしそれが何の音なのか、シンには分からなかった。
何故か、その理由は目を隠すようにダイの尻尾がシンの視界を遮ったからだ。
「っ痛えな!!ゴード、何をしやがる!!」
「此方の台詞です!何を見せようとしたんですか!!」
「何って、」
「言わなくて結構!!」
まったくもう、と呆れたのか疲れたのか分からない溜め息をもらすゴード。
その時にはシンの視界からダイの尻尾は退いていて、何が起こったか分からないままのシンはただ目を瞬かせるばかり。
「あの、」
「・・・シンさんには馴染みがないかもしれませんが、マオ様は所謂、雌雄両方の性別を持っているんです。」
「両方って、そういう事・・・」
理解さえまだ出来てはいないが、そういう事かと半ば無理やり頭を納得させたシンはふと思い付いた問いを口にした。
「でも、何でわざわざカチから?確かにミユキちゃん、可愛いけど、」
カチは他の大陸とは一切交流を持っていない、と話では聞いていた。
場所も遥か遠い、海の向こうの更に向こうだ。
「何か、あるんですか?」
シンからしたら、当たり前の、何でもない問い掛けのつもりだった。
だがその言葉にマオからは表情が消え、辺りの雰囲気は一気に硬いものとなった。
「交流を持たない、んじゃねえ。」
持つことを、やめたんだ。
低く響いたその声は、シンの体を強張らせた。
けれどマオは止めることなく、続けて言葉を発する。
「何百年と昔は、そんなに多くじゃねえが他の大陸とも交流があった。」
だがそれは、途中で途切れる。
理由など、簡単だ。
"見た目が違う"
ただ、それだけだ。
「ヒトより、鋭い牙
ヒトより、強い腕力
怖かったんだろうよ、それが。」
カチ以外の他の大陸に居た"同族"達は、迫害という言葉が正に合うだろう仕打ちを受け、カチへ戻った。
戻れた者はまだいい、戻れず命を失った者、捕まり晒し者にされた者も居た。
「そんな歴史があって、カチは他の大陸との交流を一切断った。」
例え大昔の歴史だろうと、その過去は語られ引き継がれ、今まで来た。
恨みも憎しみも薄れる事はあるかもしれないが消える事はない。
「嫌いなのさ、私達はお前達が。」
「それなら、どうして・・・」
マオの金色の瞳の奥には、怒りの炎が燻っていた。
それは目の前に居たシンにも向けられているのだが、シンは震える声でなんとかそれだけ絞り出す。
「それでも、今、私達は他の大陸と交流を持たなきゃいけねえ状況になったからだ。」
「持たなきゃ、いけない、って、」
「理由を言えば、協力するか?」
シンの問いに、マオの目が鋭く光る。
先程までのふざけていた様子などまるで無く、空気が緊張するかのように震えた。
「お前が私達に協力するって言うなら、理由を話そう。」
取引、という言葉が正に合うだろう。
剣呑な空気を帯びるその言葉に、シンはゴク、と唾を飲み込んだ。
言葉を、選ばなくてはいけない。
はぐらかした言葉も、偽った言葉も恐らく通用しないだろう。
そんな事が考えるまでもなく分かったシンは、自分を落ち着けるかのように深く深呼吸をしてからマオの顔を真っ直ぐ見やった。
「その"協力"で、ミユキちゃんに危害が加わることが絶対ない、って約束してくれますか?」
「危害?」
「ミユキちゃんを、泣かせたり悲しませたりしないか、って事です。」
「・・・こんな状況で、他人の心配か?」
「だって、」
あの子しか、いないんだ。
自分が元居た場所の事を知っているのは。
何も知らず、何も分からずに放り出された見ず知らずのこの世界で、それがどれだけ救いだったか。
「助けてくれた人も居る、守ってくれる人も居る。」
だけど、気持ちを汲んでくれるのは、立場は違えど同じ状況に居るあの子だけなんだ。
「だから、約束、してくれますか。」
あの子が笑って、自分で決める事なら背中を押そう。けれど嫌がるのなら無理強いはしない。
「ミユキちゃんの"自由"を、脅かさないって。」
その言葉に、マオが目を見開いたのは一瞬だった。
けれど確かに、たったの一瞬だとしてもマオは気圧されたのだ。
シンの、真っ直ぐな言葉に。
僅かに間を置いて、口元に笑みを浮かべたマオ。
そしてシンの頭に手を置くと、ぐしゃ、とその頭を緩く撫でた。
「どうせなら、嬢ちゃんが英雄様なら良かったのによ。」
「え?」
「何でもねえ。いいぜ、分かった。約束してやるよ。」
「じゃあ私も、出来る事は協力します。」
「・・・それじゃ、理由をまず話そうか。」
シンの言葉に雰囲気を緩めたマオは、ゆっくりと話し出す。
それはカチの、今の現状の説明からだった。




