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まさかの正体

真っ直ぐ飛んできた籠(取れたて卵入り)は私の顔面に直撃した。

……当然ながら卵は全滅である。

それどころか器用に全ての卵に被弾した私は全身どろどろの卵パックでコーティングされた。

何故籠を投げたのに中の卵が先に飛んでくるのかそして全てがヒットするのか……それは恐らく神にも分かるまい…。

しかも顔面直撃の籠は半回転して私の頭に見事被さっている。

もはや都の曲芸師をも凌駕する芸術的な惨劇であると断言しよう!


私は自身の惨状に、院長先生と子ども達は朝食の卵が無くなった事実に固まっていた。

何故後ろにいて姿の見えない子どもの気持ちまで分かるかって?

院長先生が籠を投げてからの第一声が

「お、オムレツが…」

だったからだよ!!

私の心配しろや!!

それとも振り返れば良いのか!?

どろどろのぐっちゃぐちゃだぞ!!


まぁ、ね?

分かるよ育ち盛りの子どもにとって朝食のオムレツがどれだけ重要かは私もこの孤児院で育って身を持って経験してるからね?

でもさ、私はうら若き乙女にあるまじき卵塗れにされたのに心配やいたわりの言葉も無いなんて残念過ぎるじゃないですか!!

分かるけども分かって欲しいのよ私の気持ちも!!


それにしても……さっき見た中に私の知ってる子どもは1人もいなかった。

まさか全員養子になって孤児院から離れちゃったんだろうか。

だとしたら良い事なのかもしれないけどちょっと寂しいなぁ。


「卵を駄目にしちゃってごめんなさいね…」

おいこら子ども達に謝るより私に謝れーっ!


今ならきっと怒りの力で孤児院の鶏小屋を爆破出来ると思った瞬間、私の頭にふんわりと柔らかなタオルが乗せられた。

どうやらいつの間にか私より背の高い人が動物小屋か畑の方から現れたらしい。

ふむ、若干汗臭いが許容範囲内だ!

顔に張り付いた殻を引っ剥がし籠はまぁ頭にジャストフィットしてるから被ったまま、タオルでがしがしと目元を拭いて視界を確保!

タオルを貸してくれた心優しい人は誰だ!?

と、振り返るとそこには…あらまあ好青年しかも複数!

各々首にタオルを巻いて、手にはミルク缶や重そうな野菜籠を持っている。

2年前…いや15年前にはこの孤児院に居なかった人材である。

当時は院長先生の次に私が力仕事をしていたのだが、今はこんなにも逞しそうな男手があるのか!!

これなら私は堆肥やミルク缶の運搬等の力仕事をしなくて済みそうだ。

それにしてもこんな辺境の村の孤児院で働くなんて、なんと立派な青年達だろう!!

それともこの村の娘に惚れて居着いたのか?

もしそうならどうぞ結婚にこぎつけてここで働き続けて頂きたい。

今ならオマケに精霊様に貰った薬を分けてあげても良い!


「ありがとうございます」

タオルを貸してくれたのは片手で軽々ミルク缶を持った赤毛の青年だ。

うむ! なかなかの男前だからきっと君は意中の娘さんと結婚出来るだろう!


「ぷごふっ!」

「ぶふぉあ!!」

と、唐突に赤毛青年の後ろにいる青年2人が盛大に噴き出す…が、更に後にいた黒髪青年に速攻で頭を殴られていた。

しかし黒髪青年の口元が笑いでひくついていたのを私は見たぞ!

ちなみに赤毛青年は真顔である。


……まぁ収穫終えて戻ってきたら卵塗れの人間に遭遇ってそら可笑しいわな。

私も他人事なら素早くその場を離れて相手に分からない所で笑い転げているだろう。

気持ちは分かっても目の前で笑われたら腹が立つのは仕方あるまい。

黒髪青年はセーフとしても噴き出した2人は私が食事当番になったあかつきにはスープの具を少ない目に配給してやるからな!


「やっべ、フィルズと先生のミラクル久々に見たっ!!」

「これは笑わないでいる方が可笑しい…っ!!」

頭を殴られたのにまだ笑うか!!

黒髪もう1発、いや3発ぐらいかませ!

「地面に直接落ちた卵が1つも無いぞ」

「ふひゅっ」

冷静な赤毛青年の言葉にとうとう黒髪青年まで噴き出した!

ぬおお許すまじ裏切ったな赤毛!

って、……んん?

……私と院長先生のミラクルを久々に見た?


赤毛、黒髪、そして殴られた2人は焦げ茶と赤茶の髪。

そしてこちらでは15年の月日が流れた…。

ま、まさか!?

「リスリー!?」

「ああ」

「アグリスト、ライドール、ザナント!?」

「名前、忘れてなかったみたいですね」

「はいはーい」

「気付くのおせぇよ!」


私が村を出た時、あの子達は6~8歳だった…。

……つまり?

ちっ、ちっ、ちっ、ちーん。

「あんたたち母親を差し置いて年上になっちゃったのぉ!?」

「お前なんか母親じゃねーって昔っから言ってんだろババァ!」

!?!!?

19歳の乙女なのに年上にババァって言われた!

これは酷い!!

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