帰って来た!
嗚呼、懐かしのアーダセルバ村!!
久々の故郷に感無量となった私は、年甲斐もなく駆け出した。
2年離れていただけでこれだけ気持ちが溢れるなら、私の家族は私の姿を見てどれだけ驚いてくれるだろうか。
実は私は村を出た日と同じ服をわざわざ仕立て直して帰ってきたのだ。
これなら気付いてもらえる可能性も増える筈だ!
懐かしい村の入り口に掲げられた看板は真新しくなってはいるが、デザインは変わっていない。
教会の塔は相変わらず村で1番背が高く、朝日に照らされ天辺の十字架が青い空に映えている。
知らない家も増えてはいるが、昔から村にある商店や料亭、酒場はそのままでそれが無性に嬉しかった。
勢いはそのままに丁度反対側の村外れにある私の生まれ育った孤児院を目指して見慣れていた筈の道に見慣れないものを見ながら、駆ける私を村の人々が驚いた顔で見ているのを気付かない振りをして走る。
懐かしの我が家!
院長先生は元気だろうか。
あの子達は立派に育っているのだろうか。
私を覚えているだろうか。
そんな思いを抱きながら私は懐かしい孤児院の敷地に飛び込んだ。
が、近くに誰もいなかったのでそのまま孤児院の裏手にある畑と動物小屋の方へ向かう。
「フィルズ•ヤルダン、ただいま帰りました!」
ヤルダン孤児院のフィルズ。
ヤルダンのフィルズが私の名前だ。
この孤児院に来た子どもは名が分からなければ植物から名を肖る。
私は桃の花が咲き誇る春に孤児院の前に置かれていたからフィルズと名付けられた。
自分の名前を叫びながら現れた私を孤児院の皆は困惑した顔で見た。
残念ながらその中に見知った顔は無い。
予想通り朝食前の仕事の最中だったらしく畑と動物小屋から出てきたばかりの子ども達の手には集めた雑草や動物の糞が入ったバケツがある。
私の声が聞こえたのか孤児院の裏口から卵の入った籠を持ったままふくよかな女性が現れ私の顔を見て驚いた顔をして叫んだ。
「まぁ!! あなた本当にフィルズなの!? あらやだ本当にフィルズだわ!!」
あらやだ、って…誰だこのおばさ…ん……っ!?
「え!? まさか院長先生!?」
私はおばさん、もとい院長先生(?)の目の前に駆け寄り、まじまじと見つめ合った。
近くで見れば確かに彼女は私の知るマーガレット院長先生だった。
裏口の段差のせいで見上げる形になってはいるが並べば私とほぼ同じ身長の筈。
だが私がこの孤児院を出た当時の院長先生は逞しさはあったもののこんなにふくよかでは無かったし、それにもっと若々しかったのだが…。
「本当にフィルズだわ…。 まさかあなた…追い出されたの!?」
何で2回も同じ事言った!?
私の偽者がいるとでも!?
そして相変わらず院長先生は私に関してだけマイナス思考で物事を見る!
失礼にも程があるけど久々の邂逅に免じて私は文句を飲み込んだ。
「ち•が•い•ま•す! 役目が終わったから帰って来たんです!!」
「だってこっちでは15年しか経ってないのよ!! 精霊様の元では一体何ヶ月よ!?」
じゅっ、15年ですと!?
「院長先生が変わり過ぎてるから30年は経ってると思った!!」
「私はまだ47歳だ! こんのスカポンタン!!」
はい、15年経っても院長先生の豪肩は健在でしたー。
残念な事に私は身を持ってそれを実感したのだった。