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「うげー、何それ。超後味悪い話じゃん。最悪だわー。」


と小枝は向け所のない口裂け女への軽蔑を香澄先生へと投げつけた。


「確かに改めてちゃんと聞くといろいろとひどい話だよね。」

「そうね。恐ろしい話を考えつくものだわ。」

「え、考え付く?じゃあ実際はいなかったって事なの、そのクチサケオンナ。」

「そりゃそうでしょ。っていうか都市伝説なんてたいがいそういうもんでしょ。」

「なーんだそうなんだ。それにしたってじゃあなんでこんな話が出回ったのさ?」

「そうね、いろいろと諸説はあるようだけど。この話の主人公が一つのポイントね。」

「主人公?」

「そう、この話は一種の教訓話として語られたのではないかと言われているわ。」


ぽんと小枝が手を叩く。何やら閃いたようだ。


「分かった!」

「はい、さえちゃんどうぞ。」

「この話の主人公は男の子、そして謎の美人。でもその正体は恐ろしいクチサケオンナ。つまり、美しい花には棘がある!美人だからってほいほい声をかけるような女好きはいずれ痛い目をみるぞーっていうそういう教訓だな!うん、間違いない!」


自信に満ち溢れた小枝の様子を見て、香澄先生は困り笑顔で流華の方を見て肩をすくめた。

いやそんな目を私に向けられてもと流華は静かに首を振った。


「まあ、そういう教訓と捉えてもいいかもしれないわね。それに当たらずも遠からずな答えよさえちゃん。」

「えー正解じゃないのー。絶対そうだと思ったのにー。」

「小学生にそんな教訓教えても仕方ないじゃん。」

「え?これ小学生向けの話なの?性質悪すぎじゃない?だってこんなんトラウマになっちゃう子も下手したら出るよ?」

「確かにそうかもしれないけど、だからこそ教訓になるって事じゃない?」

「汚い大人の事情か。」

「そんな言い方しなくても。」

「大人代表として謝った方がいいかしら。」


香澄先生がまゆ毛を下げて本当に申し訳なさそうな表情を見せる。


「いやいや、香澄先生が謝る事じゃないです!」

「そうだよ、かすみん。かすみんは汚くなんかないよ。」


小枝の言葉に今度は心底安心した表情を見せる。情緒の忙しい人だなと流華は苦笑した。


「で、かすみん。結局どういう教訓なのさ。」

「あ、そうね。これは主人公が少年という所と夜という時間帯がキーワードなの。」

「ほうほう。」

「あなた達も小さな時にご両親から言われなかった?日が暮れるまでにちゃんと帰ってきなさいって。」


記憶を掘り起こせば流華すぐにその場面を思い出せた。外に遊びに出た時は17時までには絶対に帰ってきなさいと親には厳しく言われていた。そして1分でも過ぎれば反省しなさいとしばらく家に入る事を許されなかった。

早く帰ってきなさいといいながら、その罰が家の中へ入れないというのは今にして思えばひどく矛盾を感じるが、当時はそんな親が怖くてちゃんと言いつけを守っていた。


「言われました。確かに親ってそういうの厳しいですよね。」

「言うよねー。あたしん家の場合は父ちゃんの鉄拳制裁だったよ。痛いのなんの。まあそれでも楽しくてついつい時間過ぎちゃうんだよねー。」

「小枝らしいね、なんかそういう所。」

「そんな小枝ちゃんみたいな子を戒める為にこの話があるのよ。」

「え、あたしの為だけに?」

「みたいなって言ったでしょ。あんた一人の為の話が日本中に轟くってどんなよ。」

「つまりは、寄り道せずに早く帰ってきなさいよ。そうじゃないと危ない目にあっちゃうかもしれないわよ。そういう話として広く流れたんじゃないかって。」

「ふーん。そんなんで効果あるもんかね。」

「でも、世の子供達をそれなりに恐怖させた話ではあるわよ。」

「確かに当時怖かったです。もし会ったらちゃんと撃退出来るようにってちゃんと呪文を覚えたりしましたよ。」

「呪文?何それ、口裂け女って魔物なの?」

「そういうわけじゃないけど、ポマードって三回唱えれば助かるとか撃退方法がちゃんとあるんだよ。」

「何それめんどくさい。走ってにげればいいじゃん。」

「無駄よ。口裂け女は100Mを7秒台で走る俊足の持ち主だもの。」

「ワールドレコードじゃん!なんでそんな強靭な足腰を持ち合わしてんの!?」

「しかも凶器の七つ道具を持ってて、逃げた相手を確実に捉えるなんてのもあったりするわね。」

「忍びなの!?もしくは、くの一!?俊足に七つ道具って忍のスキルじゃん!」

「オリジナルにいろんな情報がくっついていくのもまた都市伝説の面白い所ね。」

「いやマジ強すぎ。ポテンシャル高すぎだわこの女。そら死ぬわ少年も。」

「どう、面白い話だったでしょ。」

「そだね。ありがとかすみん。勉強なったわ。」

「どこのテストにも出ないけどね。」


忘れ去っていたあの頃の確かな恐怖と懐かしさにしみじみと想いを寄せる流華であったが、小枝は何やら腕を組んでうんうんと唸っている。どうやらまだ何か気になる事があるようだ。


「ねえ、かすみん。」

「どうしたのさえちゃん。」

「この話ってすんごい有名なんだよね?」

「ええ。社会現象にまで発展したぐらいだから、日本中といってもいいくらいに広く知れ渡った話よ。」

「ふーん。そっか。じゃあやっぱりそうかな。」


小枝の表情がきりっと変わる。

あ、始まるなと思った流華は少し態勢を整えた。


「あたし、本当にいたんじゃないかって思う。口裂け女。」


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