(3)
「クチサケオンナ?」
ぽかんとだらしなく口を開け空を眺める小枝の顔は芸術的なまでにあほ面だ。
「あらら、これはまた。」
「嘘でしょあんた。さすがにそれはないと思うけど。あんたまさか……。」
「知らなーい。そんな有名なの?その、クチサケオンナって。」
今度は流華の口がぽかんと開く番のようだ。
流華達がわざわざ放課後、保健室に来る理由。
三人を繋いでいるもの、それが都市伝説だった。
きっかけは授業をさぼって保健室に寝に行った小枝と香澄先生が出会った所から始まる。
暇そうに寝転がる小枝の姿を見た香澄先生は特に彼女を咎める事なく、それどころか親しげに話しかけてきたという。
もともとこの学校の保健室には美神がいるという噂は早くからあったし、実際に何度かすれ違った事もあるのでその噂が本物だというのも公然の事実であるが、それでもここまでじっくりと近距離で彼女の姿を見た事のなかった小枝にとって、その存在は改めて圧倒的なものであり、それでいて全てを包容してしまう独特な空気は大人を信用していない小枝の心にあるバリアを一瞬で取り払ってしまったのだ。
さらに小枝を魅力したのが、彼女が唐突に話し始めた都市伝説の話だった。
香澄先生は都市伝説好きで、いろんな人に様々な都市伝説を話すそうなのだが彼女はいつも通りそういった類の話を小枝にも試みた。
ところがここで想定外の出来事が起きた。
彼女の出す話を小枝は一切知らなかったのだ。都市伝説といえば有名なものからマニアックなものまでピンキリであるが、これは知っているだろうと言うもはや常識レベルのものですら小枝は知らない、いわば都市伝説オンチだったのだ。
だがこの事実が香澄先生をがっかりさせる事はなかった。なにせ知らない都市伝説の話に小枝は興味津々で非常に新鮮なリアクションを返してくれたのだ。
そんなこんなですっかりお互いを気に入った二人に小枝と普段から特に仲の良い流華がこの会に混ぜ込まれるのは自然の摂理とも呼べるほど当たり前の流れであった。