(1)
一通りのプログラムを終えた後、すぐに帰る者、部活に行く者、だらだらと教室に残る者、目的の違いによって動きは様々だ。
そんな三者の中では嶺井流華と灰田小枝はだらだら派閥に属する者達だった。
「あーだりいー。」
典型的なギャルを主張した金に近いセミロングの髪の端をくるくると指で遊びながら、小枝は気怠い声を漏らした。
イスにもたれかかるように座り、男子高生の興味をこれでもかとばかりに引き付けるように足がはしたなく開かれていた。ただでさえ短く折られたスカートはもはや女子の聖域を守る役割を放棄していた。
流華は校則に従った自分のスカートと彼女を見比べ、せっかく綺麗な顔をしているのに、こういう所がもったいないよなと心だけで思った。
「あんたにとってだるくない日ってあるの?」
「毎日だりいー。」
まったく抑揚のないその声色が的確にだるさを物語っておりそれがなんだかおもしろくて流華はくすっと笑いをこぼした。
「何がおもしろくて毎日毎日よくも分からない教科書眺めなきゃいけないんだか。」
「そう言いながらもちゃんとテストはそれなりにこなすよね。」
「ここの出来が違うのよ。ここの。」
言いながら自分のこめかみを人差し指でとんとんと押しながら自慢気な顔を見せる小枝だが、なぜかこめかみを押す指の形は親指も立っている事でピストルを押し当ててるようにしか見えず、そのままじゃ脳みそが吹き飛ぶわよとこれも心の中だけで思った。
そんななんて事のない会話をしていると気付けば教室はすっかりと気配が薄れ、流華と小枝以外の生徒は姿を消していた。
「よっこらしょい!」
という勢いのある掛け声にそぐわないのろのろとしたスピードで小枝が重い腰をあげた。
「そろそろ行く?」
「ういっす。行こうぜー、るー。」
小枝は流華の事をるーと呼ぶ。傍目から見ればギャルと地味目な二人は不釣り合いに映るかもしれないが、お互い誰よりも気が合う存在だ。
そんなだらだら派閥の中でも群を抜いた二人は、ようやく教室を後にした。
だがまだ学校を出るつもりはない。
二人にはこれから行くべき所があるのだ。