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グレイプニル~異世界学園無双録~  作者: 藍藤 唯
入学 冒険者養成機関グレイプニル
8/49

洗礼と粛清

昨日三話投稿いたしましたが、文字数の割にこの辺りも展開が遅いと判断しましたので、今日も三話投稿いたします。


12:00(今回)、18:00(移動回)、21:00(アルト回)

 この宿場町にある広場とは、町の中心である講堂の裏にある、ただ単純にだだっ広いだけの空き地を指す。

 丁寧に整備の行き届いたこの町にあって唯一、何が起こったのか想像したくないようなクレーターや、草の禿げた荒れ地が混在する場所。

 広さとしては申し分なく、それこそ300人で鬼ごっこをしようが人口密度的には何の問題も無いほどのサイズを誇る。


 さて、この場所がいったい何の為にあるのか。

 それを理解している100人と、理解していない二十余名が現在この広場に集まっていた。


 ざわめきの中、一人の青年が即席の壇上に上った。おそらく土魔法で作られたそれの上に立つ制服の彼に、人目が密集する。


 困惑を含めたまなざしを向けるのは、広場の中心へと連れて来られた"制服でない者達"。そしてぐるりとその周回を取り囲む制服姿の青年達は、どうにもにやついた表情で年下の少年少女を見据えていた。


「さて! 諸君は何が起きているのかわからないかもしれないが、聞いてほしい!」


 壇上で声を上げた青年は金髪の、どこか平凡で印象に残り辛い容姿をしていた。

 この際、正直"制服でない者達"にとっては、誰でも説明してくれるならかまわないと思っていた。

 だからこそ、ざわめくこの場所でも語りがスムーズだ。


 いつか自分がされたことに対する恨みを晴らすことができる。胸のすくような思いを胸に、100名の新三年生はほくそ笑む。


「まず、君たちはどうして今日、この町に居るのかな?」


 その問いかけの意図するところを、すぐに理解するような者は居なかった。

 隣あわせた相手とアイコンタクトを取るも、首を振るばかり。

 そんな彼らを数年前の自分達と照らしあわせることもない。そんな恥を晒すこともしたくない。

 だからこそ、八つ当たり気味とはいえ気持ちよく思い出に別れを告げる。


「愚鈍だなあ、君たちは。今年の機関入学生は、だいたい4000を予定している。南の宿場町……ああここね。ここを通っていく人も、1000人は居るはずだ。もう一度質問しよう。明日入学式の君たちが、どうして今ここに居る?」


 ニヤニヤと、歪な笑みを押さえることももう飽きた。

 どうこの愚か者どもをなぶってやろうか、その一点に思考を絞りたくて仕方がない。


 だが、とりあえずまずは、言葉で一年生の心を抉ろう。


 これは当然の処置だ。本当にやる気のある、魔獣を倒したいと意気込んでいる人間はもっと早めに機関に入り、下見なり何なりしているはずなのだ。


 それができないということは、せいぜい上級冒険者の資格がほしいな程度にしか考えていない情弱どもに違いない。

 自分が去年どうだったか。あれは少しスケジュールが狂っただけで、コイツらとは違う。


 一人頷いて、新一年生を見下した。


「君たちには志が無いということがよくわかる。この時期になってのうのうとやってくるなど、機関をなめているのか、魔獣をバカにしているのかと言いたくなる。だからこそ、君たちには少し仕置きが必要だと判断した!!」


 堂々と胸を張り、青年は宣言した。


 徐々に顔面を蒼白にしていった一年生たちは、とどめと言わんばかりの青年の言葉に動揺を走らせる。


「ぼ、僕は馬車の車軸がおれて遅れただけで……」

「言い訳など、不要!! お前達の意識の低さが蔓延し、機関へ与える悪影響を考えれば、ここは先輩として根性の叩き直しが必要だと思ったまでのことだ!」


 正面に居た少年が一人、声を上げて青年の弁舌を遮る。しかし一蹴、この場所に居る時点で同罪だと言わんばかりだ。

 むしろ車軸が折れるようなトラブルがあっても期限に間に合わせている彼はまともな部類ではないのかと周囲が思うも、三年生にとっては些事である。


 もはや、ただサンドバックになってくれれば良いとばかりに気力十分。

 すでに密かに呪文詠唱を開始する者も居た。


「ちょっと待ってください! 入学式に間に合えばいいでしょう!?」

「機関内部はすでに新一年生にも解放されている。魔獣を倒すために戦いたいと少しでも思う人間はたくさんいる。4000人のうち、この場に居るのが何人なのか考えてその意識の低さを知りたまえ」


 楽しげに手を広げて、豪語する青年。

 一瞬の沈黙とともに、理不尽だと糾弾する声が上がりはじめ、潮時かと青年は満面の笑みを浮かべて言った。


「さて!! じゃあ愚者である君たちに洗礼だ! 学年の違いとともに現れる実力の違いを考えて、もう少しこれから賢く活動することだな!!」


 青年の声とともに、二十数名の一年生に向けて飛びかかる戦士、魔法をぶつけにかかる魔導師、弓を引くシーフ。


 あちこちで悲鳴が上がり、早くも倒れ伏す少年も居る。


「ふははは! これからは真面目になることだな!」


 高らかに笑う、青年。土でできた壇上から、彼自身も適当に射撃魔法を放つ。

 魔法自体はそこまでの威力ではないとはいえ、その精密さはなるほど、二年を機関ですごしただけのことはある。


「ふはは……! ……そういえば、昼過ぎの生意気なガキが居ないな……」


 思い出すのは、黒髪の少年。何でいく必要があるのかと、生意気にも口答えをした人間。

 ……しかし、一年生と判断した人間は必ず無理にでも連れてくるように言っているし、サーチ専門の魔導師に、若い年齢の人類が町に残っているかを調べさせた後だ。三年生は全員いるし、サーチした結果無関係だった者をカウントすれば、残りはゼロ。

 きっと、この中に居るだろう。


「思い出したらむかついて来たな、オラオラオラァ!」


 下卑た笑いも大きな声で、叫び笑うフラストレーションの発散。

 一年生たちの混乱と悲鳴が心地よく、いつも虐げられている分のストレス解消にはもってこいだった。


 ……しばらくの、間だけは。














 少女は不幸だった。

 三日前につくはずの馬車が遅れ、宿もとれず、それでも期日に間に合うように必死で歩いて隣国から機関までやってきたのだ。

 やっと、やっと前日に宿場町にたどり着いた時には食料も尽き、使わなかった銭でようやく食事にありつく始末。


 悲惨な旅路ではあったが、間に合ってよかったとほっとしていたのだ。


 しかし、これは何だろう。

 先ほど威圧されて脅迫紛いにこの場所へ来るように言われ、いざ日没になってみれば、呼びつけた青年による理不尽な宣言。


 意欲が、やる気が、気迫が足りない。

 

 そんなことはない。魔獣を倒したいという思いだけを胸に、一心で歩いてここまでやってきた。

 間に合わないなどという失態は犯したくないから、強行して睡眠もそこそこに危険な夜も進んできたのだ。


 だというのに、あんまりな所行だ。三年生といえば、最高学年。そんな人たち100人が、自分達を相手に攻撃するなどリンチも良いところではないか。


「オラオラ弱ぇ弱ぇ!」

「きゃっ!?」


 ここ最近食べることもままならなかったからか、力も衰えていた。そこを、ハルバードなんていう重量武器で強襲されたら勝てるはずがないではないか。


 盛大に弾かれて、体も、得物のレイピアも派手に転がる。

 口の中に広がる鉄の味と、飛沫として入った砂利が気持ち悪い。


「おいおい、転がって逃げようとするなんて器用じゃねえか」

「待てよフレッド、お前だけでいたぶるつもりか?」

「俺たちも混ぜろって」


 よろめいて立ち上がる。男の言葉の意味がわからず場所を確認すると、どうやら今の転倒でうまく三年生の包囲網を突破できたようだった。


 だが、それでも窮地は変わらない。

 ニヤニヤと汚い笑みを交えてにじりよる三年生の数が増えた。よくよく考えれば当然だ。既に力つきて倒れている一年生は十名以上に上る。それに対して三年生は未だ無傷で百人を数えるのだ。時間が立つにつれて不利なのはわかっていた。


「理不尽じゃない……!!」


 足下もおぼつかない。レイピアを支えに立ち上がりつつ、思わず少女はそうつぶやく。


「どうして……こんなひどいことをするの……なにも悪いことなんてしてないじゃない……!!」


 切実な訴えだった。

 この心のうちを占める思いのほとんどは、理不尽という言葉に集約される。

 自分の村をめちゃくちゃにした魔獣を、今度は己の手で葬る為。その志を胸に機関に着たというのに、出だしからこれではあんまりだ。


 機関は魔獣を倒す人々を育成する場所ではないのか。

 こんな、人をいたぶって遊ぶような、初心者をいびって楽しむような人間の巣窟なのか。


 涙すら、思わずでてきてしまう。

 こんなヒドいことが平然と行われるようなところだと言うなら、もう心が折れそうだ。


 彼女の叫びに対する返答は、嘲笑だった。


「なにいってんだこいつ」

「魔獣も狩れない弱者に用はねえんだよ」

「そうそう。俺たちくらい強くねえとな!」


 げらげらと、少女を指さして一頻り笑う。

 呆然としていた。機関とはこんな醜悪の詰まるような場所なのか。


「……ふ、ざけるな……」


 気付けば取り囲まれ、自分を含め既に数名しか残っていないらしいこの状況だ。

 もう絶望的ならいっそ、差し違えてでもこの下劣な連中を。

 ドス黒い感情が彼女に宿る。


「ふざけるな……!! 絶対に許さない!!」

 

 涙混じりにレイピアを振るう。不意を打ったこの一撃さえ入れば……!!


 しかし、それは予想済みとばかりに目の前のエストック使いが簡単にレイピアを弾き飛ばす。


「おおっと」

「えっ!」


 返す刀、振り上げられるその細身の剣身。


「お前ら……絶対にいつかぶっ飛ばす!!」


 嘆きにもにたその声。

 剣で打たれる直前に吐き出したその怨念の声は、広場中に響きわたった。


 そして、それをなんとも思わない青年の剣が彼女の首もとに……










「なるほど、芯の強い子だ。よく言った」










 目を開く。目の前にあるのは、細身の、そして自分の両腕以上の長さを持つ長刀。


 揺れる二房の金糸。


 彼女を打つ瞬間のエストックを受け止めて、そのツインテールの少女は笑う。


「調子に乗った報いを受けろ、愚か者共」

「何だこのガキ……やっちまえ!」

「やっちまえ、か。それはこちらの台詞だ……スザク!」


 金髪の少女が、似つかわしくない黒い笑みを浮かべる。

 何のことかと思ったその瞬間、二人の少女の周りを獄炎が包み込んだ。


「ぎゃあああああ!!」

「な、どこから!! 熱い! 熱いよぉ!!」


 焔の舞は一瞬。蒸気とともに消え失せた紅の代わりに、5、6人の倒れた青年と、一振りの直剣を持つ少年。


「最高のタイミングだ」

「っつーかアルトお前、ノリノリだな」


 鮮やかな手つきで長刀を納めるアルトと呼ばれた少女は、守った少女に振り返る。


「後は私たちに任せるといい。ここまで劣悪だとは思わなくてな……少々、遅れた」

「……はい……」

「む……顔が赤いな。まあ良い、行くぞ魔法剣使い!!」

「わかってるっての!!」


 スザクと呼ばれた少年は、直剣を地面に叩きつけた。

 突然なにが起きたのかわからない三年生達は、新参の二人組に気づく。


「あ! あいつ等!! 昼間の!!」

「殺せ!! あいつらは殺せ!!」


 新手の三年生が襲いかかるも、少女アルトは涼しげな表情を変えることもない。


「グレイブバッシュ!!」

「流石、わかっているじゃないか!」


 どうしようもなく息ぴったりだった。

 叩きつけられた剣により、土が直線上に弾け飛ぶ。

 それだけで吹き飛ばされる三年生を無視し、そのエネルギーに乗ってアルトが跳躍、長刀を抜き、閃く白刃が魔導師の魔法を全て切り捨てる。


「なっ……!!」

「何者だあいつ等!!」

「や、やれ! やっちまえ!!」


 スザクの方に向かった三年生数名が、取り囲むようにそれぞれの武器を振り上げる。

 その瞬間、背後空中からアルトが襲いかかり全ての得物を切り捨てて、鉄くず同様のゴミへと変える。


 その空中で回避性能が落ちたアルトに対して放たれた魔法の数々。風の刃や、炎の弾丸、土の槍。アルト自身が気付いて振り返るよりも先に、彼女のさらに後方からトルネードもかくやという炎の渦が、全ての魔法を弾き飛ばして魔導師数人へと直撃する。


「あと80人しか居ないのか」

「違うなスザク。まだ80人も玩具がある」


 剣を構えたスザクの背に、ぴったりと背を合わせてアルトが笑う。

 二人の剣士を取り囲むは、80人の三年生。


「なるほど、玩具か」

「そうだ、玩具だ」


 言葉を交わす声は弾む。楽しげな金と黒が、自然に周囲を威圧する。


「派手にやろうか、スザク」

「やっぱ誘ってよかったよアルト」


 会話の切れ目が、蹂躙開始の合図となった。

 既に二人に気圧された三年生は腰も引け、黒と金の格好の餌食へと成り下がる。


「……なんだ……これは……」


 青年は絶句していた。

 金髪の少女も大概だが、それ以上にあの昼間の少年だ。

 あの戦闘スタイルに、該当するのはただ一つ。

 伝説の英雄が使う、御業。


「魔法剣……だと……!?」

「誰かと思えばモブ先輩」

「モッ……!?」


 いつの間にか目の前に現れた黒の少年に、青年はたじろいだ。あんな恐ろしい技を使われては、もうなにも言えたものではない。


「聞いた話だけどよ、あんた随分理不尽なことしたんだってな」

「……こ、これは機関に代々伝わる……」

「この腐ったしきたりがか」

「なにを……!?」


 自分がされた。だから後輩にもする。それのなにが悪いというのだ。

 その思考が頭を埋め尽くし、目の前のきれいごとを吐く少年を睨み据える。


「最初はおもしろ半分だったんだけどよ。ちょっとこりゃあんまりじゃねーの?」


 少年の視線の先には、うめき声を上げ、悔しさに涙を腫らした一年生たち。

 理不尽を真っ向から受け止めて、受けきれなかった悲しい末路。


「まあ流石に殺しては居ないみたいだが……許されることじゃねえわな」


 言いつつ、剣を振り上げる少年に、慌てて青年は両手を上げた。


「ま、待ってくれ!! 俺たちだってやられた側なんだ!もうこんなことはしないと誓おう!! だから……だから許してくれ!!」

「……誓うか?」

「誓う!! 誓いますううう!!」


 なにも言わず、冷たい目で青年を見る少年。

 だが、余りにもその所業が哀れで、思わず少年は剣をおろした。


「二度と、するなよ」

「ゆ、許してもらえるんですか?」


 二学年も違う相手に、情けなく命乞いをするこの青年と相対する事自体がバカらしくなってきた少年は、くるりときびすを返した。


 魔導師に対する警戒が甘い。

 青年は無詠唱で魔法を放つことができる人間だ。

 少年が背を向けた瞬間、炎の玉を放つ。


「あはは!! 何が許すだバァカ!!」

「っ!?」


 振り返りざま、少年は慌てたように剣を振り上げ、


「私は許すなどと言っていない」

「がっ!?」


 彼らの間に飛び込み、炎の玉ごと青年を叩きつけた、アルト。

 ふ、としたり顔でスザクを見るアルトに、彼は肩を竦めて、倒れ伏した青年の前に進み出ると。


「ぎゅぺ!?」


 思い切り顔を踏みつけた。


「……なるほど」

「昼間の貸し借りはなしな」

「当然だ」


 納得したような表情のアルトに、スザクは憮然として言った。


「……ありゃ、もう全部片づいたか」

「スザクが遊んでいる間にな」

「お前辛辣だな」


 見れば、三年生を含め、ほとんどの人間が倒れ伏していた。散々魔法剣を使ったこともあり、来た時以上に広場は荒れ果てていた。


「まあ、もう二度と使わせまいよ」


 黙って荒れ地を眺めるスザクの横で、アルトは言う。


「そうだな、うん」


 彼女の言葉に頷き、直剣を腰に差す。アルトも鮮やかな手つきで長刀を鞘に納め、「では戻ろうか」と一言。

 そのまま進もうとする彼女の後ろ姿を、スザクは昼間と同じように呼び止めた。


「そういえばさ、アルトって何者?」

「……ふむ。魔王を倒す為に、上級冒険者資格を取りにきた15歳だ。それでいいかな?」

「いやまあ、それは俺と同じなんだが……ぶっちゃけると、強くねお前? ってこと」

「なるほど、なにをやっていた人間か聞きたいということか。いいぞ、教えてやる」


 進みかけた歩みを止めて、スザクの前へと戻ってくるアルト。

 単純にこうして見れば、本当に可愛らしいだけの少女だが。それでもスザクと共闘し、三年生を100人根絶やしにした相方だと思うとギャップに笑みがこぼれる。


「そのまえに、だ」

「ん?」

「私たち、息がぴったりだったよな」

「まあ、そうだな」

「条件がある。それを飲めば、私の肩書きを教えてやろう」

「……何だ?」


 人差し指を立てて、スザクの顔の前にもってくる。よもぎと違って、鍛錬の痕を感じさせるその指に一種の尊敬が生まれるも、それはまた別のこと。


「機関では、一年生はパーティを組めないことを知っているか?」

「いや? 初耳だ」

「そうか。まあ、組めないんだ。代わりに、ツーマンセル……パートナーになることは出来る」

「なるほど?」

「私たち、息がぴったりだったよな」

「まあ、そうだな」

「察しが悪いなお前!?」


 恥ずかしさに顔を赤くして、アルトは怒鳴る。

 突然怒られても、スザクは感情の機微に疎いのだ。ストレートに言ってくれる方がありがたいが、怒られるようなことであればしっかりと言葉を整理することくらいは出来る。


 息ぴったりで、パートナーの話をされた。


「ああ、俺と組みたいってこと?」

「……あ、ああ。ストレートに言うと、なんかこう、こそばゆいな」


 ぎこちなく目を逸らすアルトに、スザクも少し考える。

 確かに、パートナーとなるにはもってこいだ。


「俺で良いのか?」

「むしろスザク以上の人間が居るとも思えないな。いくら魔獣を倒す人間が多々在籍する機関とは言え、平均はアレだ」

「……あ~」


 アルトの視線の先には、倒れ伏した数々の生徒。


「そういえばアレ、助けなくていいのか?」


 ふと気付いたスザクが、口にした疑問。

 アルトは特に何の感慨も示さず、近くの茂みを指さした。


「そこに隠れてる大人たちが全部やってくれるだろうよ」

「……やっぱ観戦来てたのか」


 たち、ということは果物屋の仲間だろう。

 挨拶を交わすようなことをするのもおっくうだし、そのままスルーで行こうと考えたスザク。


「まあ、とにかくだ。スザクは私のパートナーに申し分ない。だからどうだ? 組まないか?」

「……」

「なにを悩む必要がある。私はお前の剣に惚れ込んだと言っても過言ではない。仲間として、信頼は大切だ」

「お前さっき恥ずかしがってた割にストレートだな」

「今も恥ずかしいわ!!」


 お前が理解出来ない奴だから恥を忍んで言っているのだろうがと、半ば猫のような怒り方で怒鳴る。フシャー、とか言いそうだな、とスザクは思っても口にしない。


「そうだな、組むのは悪くない」

「お、そうかそうか。良く言ったな」


 ぽんぽん、と肩を叩くアルトだが、身長が足りず若干背伸びだ。そんな微笑ましい少女が、戦闘になると滅茶苦茶強いというのだから笑えない。


「ただ、俺からも条件がある」

「何だ? 聞ける範囲で聞こうではないか」

「俺はお前とも戦いたいから、第一のパートナー、というだけでちょいちょい離れる」

「……願ってもないな。それは少し言いづらかったが、トーナメントでスザクと当たるというのも一興だ」


 うんうん、と頷くアルトに悲観は見られず、スザクも笑う。


「じゃあ、決まりだ。よろしくな相棒」

「相棒か、悪くない響きだな。よろしく頼むよスザク」


 すっかり日も暮れて夜になった空き地で二人、握手を交わす。


「さて、じゃあ肩書きを聞かせてもらおうか」

「構わん。私は王族直属首都防衛隊隊長アルトリーゼ・フォン・シルフェニア。言っておくが、最年少の隊長だ。私は強いぞ?」


 今まで見てきた彼女の歪んだ笑みも悪くはなかったが、彼女の楽しげな今の表情も、月に照らされてとても可憐だった。

アルトリーゼがやたら好意的な理由は次回以降にて。


NEXT→4/10 18:00

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