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剣の墓標、春の城  作者: 銀野
無印
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10030日目


夜中にこそこそと起き出し、宿を抜け出し周りに人間が居ないことを念入りに確認した上で、自室に置いて来たペンと日記帳を魔法で遠隔操作しこの日記を付けている。

端から見ていたら至極怪しげな動作をしているであろうが、日記を見られるよりは「夜中に一人でパントマイムの練習をしていた」と思われるほうが幾分マシなので、文字の乱れなどの弊害はあるだろうが暫くこの手法を用いたいと思う。

……暫く、本当に、いつまで掛かるかわからない。

至極なおざりな内容ですませてしまった昨日に起こった事を含め、この状況に至った経緯を以下に記したいと思う。


昨日は何となく早くから起き出す気がせず、水晶玉に映像を映し始めたのが人間時間で言う昼を大分過ぎたあたりであった。

あの子らは朝が早いから、今日の様子は大分見そこねてしまったなと。

自身の怠惰を少し嘆くが、久し振りに寝たくった事が幸いしたのか、珍しく私は新しいことを思い付いた。

常では、私はあの子が一日の活動を終え、布団に入った後に日記を付けていた。

当然、映像を見ている間、手は遊んでいる。

その事実を並べてみて、私は思い付いたのだ。

ならば映像を見ながら日記を付ければ、より臨場感のある日記を付けられるのではないかと。

……まあ、臨場感が出過ぎて、結果は至極、残念なものであったのだが。

とりあえず、何故あのような日記になり、しかも次の日まで放置してしまったかである。


簡単に言うと、隙が無かったからだ。


箇条書で簡潔に、順を追って記そう。

・日記を広げペンを持ち、さあ書くぞと意気込んだ瞬間、あの子の乗った船が真っ二つに割れて沈み始める。

・動揺のあまり筆が滑る。

・流石にあの子の命の危機だと判断し、慌てて地上に赴く。

・気を失っていたあの子らを手近の島に運ぶ。

・配下が、「土左衛門が出ると、その度に捜索だかなんだかで家が人間に荒らされて泣きたい」と言っていた事を思い出し、その他も適当に助けに行く。

・あらかた助け終えて戻ると、あの子が目覚めかけていた。

・姿を見せるべきか見せないべきか、グダグダ逡巡している間に本格的にあの子が目を覚まし、立ち消えるように姿を隠すわけにもいかなくなる。

・助けてくれたのかと問われたので肯定すると非常に感謝される。

・そうこうしているうちに他二人も目覚め、何故か同行することになる。今はここである。


一日過ごしてみたが、皆いい子でかなり楽しい。

しかし、無断で出て来てしまったから、配下が心配しているだろうと思うと少し、心苦しい。

帰る時は土産か何かを調達せねばと思う。


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