第4話、少女と骸骨
圧倒的…ッ!
圧倒的文才不足…ッ!
少女、月影 紗織はツイて無かった。
そもそも彼女にこのゲームをやる予定はなく
今頃、家族と旅行に行っている
…筈だった。
彼女の父親に
緊急の仕事が入ったのだ
彼女の父親は
原子力サービスという会社で働いている
テレビなどを見てその仕事への風当たりが強いことも
大事な仕事だということも理解しているつもりだったが
楽しみにしていた旅行が無くなったときは
つい父親にきつくあたってしまった。
だが彼女の父は
たった一言
「ごめんな」
としか言わなかった。
その一言に
どれほどの意味が込められていたのかを彼女が知るよしもなく
彼女は部屋に閉じ籠もり
断固抗議をすることにしたのだ
母親譲りの頑固さで
長く続くと思われたそれは、意外にも早く終わりを告げる。
部屋の中で何があったのか
部屋から出た彼女は
まるでこれから旅行にでも行けるかのような嬉々とした表情で
父に頼むのだった。
「VGが欲しい!」
というのも彼女の友人
陽向 灯
からのお誘いによるものだ
紗織はあまりゲームをするほうではなく
それよりも母親から習った裁縫や料理を進んでやった
話題のDGOの名前こそ知っていたが
それがどういうものか知らなかった。
逆に灯は活発な少女だが、親がその関係らしくビデオゲームにおいて私のクラスでは最強を誇っていた。
その灯が私を誘うということがどういうことかは分からかったが、彼女の話はとても新鮮で心踊るものだったのだ。
冬休み前日になり、父が約束通りにVGを買ってきてくれた日は、眠ることが出来なかった。
母の仕事用のパソコンを借り
今か今かと待った。
…しかし彼女は
ゲーム初心者が、VRをやるということ
それがどうゆうことか理解していなかった。
まず、ゲームで見なれている者ですら恐怖する竜。
そして複雑なキャラメイク。
多すぎるスキル。
そのどれもが紗織にとって初めてのことで
やっとのことで始められたときには感動よりも安堵があった。
暗闇へと歩みを進めるのに躊躇が大きく
暫くそこから動けなかった。
歩みを進めたはいいが
そこで沢山の
骸骨に囲まれる。
ゲームをリアルのように感じてしまうほどの完成度は
彼女にとってデメリットでしかなく
迫る骸骨に腰が抜け
その錆び付いた剣で斬りつけられる
…この時彼女の体力がもっと少なければ
カゲヌイと同じように一撃だっただろう
しかし、彼女は一撃で死ぬことは無かった。
それがさらなる悲劇を呼ぶことになる。
骸骨に斬られることで命の危機を感じたのか
彼女は骸骨がいない方向へと駆け出した
―自分が来た方向へと
それから彼女は
一歩たりとも街から出ず
【裁縫】や【料理】などの生産をしていたのだが。
【裁縫】がレベル5になったときだ。
∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇
下級裁縫師の試練
《クエスト報酬》
裁縫レベルキャップ
6~10解放
下級裁縫キット
《クエスト内容》
オークの毛(0/10)
オークの皮(0/10)
△△△△△△△△△△
彼女は躊躇したが
【裁縫】をすることは
楽しいし、レベルがあがる度に作れるものが増える喜びは大きかった。
灯の話で
オーク=豚と聞いていた彼女はなんとかなるだろう
そう思っていた。
その時までは…
◆
そこは森の中でも少し開けた場所で
俺が駆けつけると
まだ小学生ほどであろう少女が
巨大な牙を持ち
2メートル近くはあり
目は血走り、口からは大量の涎をたらす猪の獣人
オークと呼ばれるであろうモンスターを前にして腰を抜かしている。
ドラゴンを見たあとだと
大してオークには恐怖を感じないが
体つきや手にもつ槍を見るからに
今の俺が勝てる相手ではなさそうだ。
だが、彼女を救うぐらいならできる。
俺は少女の右隣に移動し
【バインディング】
を発動する
オークとの距離は5メートル程だが
スキルレベルが4になり距離が伸びているため問題ない
オークが動かないことから
スキルは成功したようだ。
俺も動けないが
それでいい。
「おい、さっさと逃げるなり倒すなりしろ」
と静かに告げる。
…隣からは
何の反応も無い。
「おい!」
と急かしつつ右を見ると
少女が気絶している。
「おィィイ!?」
これじゃ逃がすことも
倒すこともできない
んだけどぉ!!?
っと…オロオロしている時間も無さそうだ
此処は森の中でオークの住処
いつ別のオークと出会うか分からない
俺は決心した
「……よし、やってやろうじゃないか」
このオークを倒す。
失敗は許されない
死に戻りになるのが俺だけじゃないからだ。
大きく深呼吸をして
【バインディング】
を解除する。
解除されると同時に凄まじい速度で突進をしてくる
だが予想済みだ
「【聖者の十字架】!」
俺とオークの間に現れた木で出来た粗末な十字架に
オークが激突する。
俺は十字架設置と同時にオークとの間を詰め
「【愚か者の沼】!」
を発動し足下がぬかるむ。
しかし、それでもまだオークの動きは止まらない
しかし十分だ
【バインディング】
のディレイが終われば勝負が決まるのだから。
十字架の持続ダメージが入り
ターゲットが俺に移る。
だがオークと俺の間には十字架があり
あの体格では下をくぐれないため
回り込まざるをえない
しかし【愚か者沼】lv2の効果で
移動速度が40パーセントまで下がっているうえ直線的な動き以外は大して早くないので
俺も合わせて移動し
十字架を挟んだ反対側をキープし続ける。
そうしている内に
【バインディング】
のディレイが終了した。
◆
大きな戦果をあげそろそろ街に戻ろうとしていたときだった。
「フハハハハハハハハ」
…どこかで聞いたような声が聞こえたのだ
それは連れも同じようで
私の顔を伺っている。
「はぁ…」
1度大きく溜め息を吐いた後
声のした方向へ歩を進めた。
◆
「フハハハハハ!…勝てる…ッ!勝てるぞッ!」
そう言って笑う骸骨の前に
猪が磔になっている。
いや正確に言うなれば
“十字架ごと
縛られている”
と言った方が正しいだろう
十字架から発生する持続ダメージは毎秒50
ランクFの両手剣等の通常攻撃に匹敵するが
特別強いものとはいえない
だがオークは、この
【バインディング】
を解くことができず
ジワジワと追い詰められていく。
このまま勝負が決まるものと誰しもが思った。
カゲヌイは気付いていなかった
自身が大きなミスを犯していることを
◆
それは、オークの体力が残り1割を切った時に起こった。
―モンスターのポップ
1匹や2匹ではない。
オーク5匹と、もう1匹
それは、一際大きく
オークリーダーと呼ばれる部類
少し開けているこの場所は、オークリーダーがポップする場所だったのだ。
「くそっ…」
俺はあと3回程のダメージで倒せるだろうオークを解放し
少女の近くに下がる。
向かってくるオークに
俺は虎縄を構えた。
―後書き
俺の小説に不憫キャラが多いのはなんでなんだ…
俺に足りないものそれはッ
文才思想理念優雅さ勤勉さ
そしてなによりィッ
速さが足りない…ッ!