神様は、考える
神様視点
黒くて深い夜。生き物たちは目を光らせて走り回り、人々は眠り。夜の時間が始まる。
いつも訪れる、もう何十年何百年と過ごしてきた夜だが、今日は違う。とても気分が高揚していた。いつもよりも綺麗で美しくなった神社、そこで私を迎える狛犬の阿、吽。彼らは、私の顔を見て、溜め息を吐いた。
「春様、顔が緩んでおりますよ。」
「そうか、」
ちらりと、桜に目をやれば桜の花びらが爛々と咲いていた。困った。彼女を見つけてから心が浮いてばかり居る。そしてついさっき会ったばかりなのに彼女ばかり考えている。困ったものだ。
「……美空様ですか?」
「ああ、」
「変に想ってはいけませんよ、貴方の感情は土地に影響するのですから。」
「…………。」
桜を見ると、もうすでにあるべき姿に戻っていた。狛犬達はまた一つ溜め息を吐く。付き合ってられないとばかりに何も言わなくなった。私は桜に近づきゆっくりと根本に腰を下ろした。思い出すのは彼女の事ばかり。
彼女を始めて見たのは私は神社を掃除している彼女姿を眺めていた。
この土地に入ってきたことも容姿などは分かっていたがこの目で姿を見るのは初めてだった。彼女は地元民ではないのにも関わらず根気よく掃除をしてくれていた。
すぐに汚れてしまう私の神社、地元民達が近いうちに掃除をしにきます、と言って、それが来る前に一人で綺麗にしてしまった彼女。適当ではなく丁寧に綺麗にしてくれる彼女。私はそれにとても好感がもてた。
なんて優しい娘なのだろうか。しかも一服堂の私が大好物のお饅頭も置いてくれているし。「祟られませんように」などと願っていたが私はわけも分からぬまま、彼女の前に姿を現してしまった。
彼女が驚いた姿もとても愛らしかった。愛らしい彼女が私の土地に暮らしてくれるのはとても嬉しかった。それと同時に彼女のことがとても知りたかった。彼女の事を知ろうと思えば心を探れるが、どうしてもそれは出来なかった。
なんなのだろうか、この気持ちは。苦しくてまた彼女に会いたくなってしまう。
はぁ、と溜め息を吐く。明日、彼女の家に行こう。
彼女に会ってこの気持ちの正体が何なのか見つけてみよう。この気持ちを彼女に伝えてみれば彼女はそれを教えてくれるかもしれない。
明日も彼女に会えることを考えると、嬉しい気持ちが溢れた。すると私の上から桜の花びらが落ちてきた。上を見上げてみれば桜が満開に咲いていた。
しまった、またやってしまった。
短いです。神様、なんだか乙女チック。
シリアスっぽいけどこれはコメディです。