神様と、帰り道
「と、言うことなので私帰りますね。」
立ち上がって背中を反らす。ボキボキとなる嫌な音。運動不足のせいだ。今日は結構動いたのできっと今日はぐっすり眠れるだろう。いやその前にまだ開けていない段ボールを開けて整理しなければ……。
私は春様に向かい合って頭を下げた。
「では、失礼します。さようなら。」
すぐさま春様に背を向けて鳥居をくぐって歩き去る。
もう、会うつもりはない。神様がいるって事は分かったけど、やっぱりこういうのは関わるもんじゃない。きっといつかへまをして祟られるに違いない。
……けれど、狛犬とはときどき会いに行こう。
そう思っていれば、
「え?」
と、まぬけな声が私を追いかける。
「待ってよー、美空ちゃん!」
妙に声が近いな、と思えば。あけていたはずの春様と私の距離が何故か近くなっている。近い。すぐ隣で私の顔を覗き込んでいる。
なんだこれ、これも神様特殊能力の一つか?神様はまったく、いいように作られた物だな。いや、ちがうか。神様なんだし、いいように作られるか、普通。
「―――…なんで、となりに居るんですか。」
「なんで、って送るっていったじゃない。」
「ああ、はぁ…。」
ニコニコ、ふわふわ笑っている。ついでにふわふわ浮いている。
歩けよ、神様っ!
腹が立つなぁ、神社を磨いて、トラウマな神様に出会って身体も精神的にも疲労しているというのに、しかも帰ったら荷解きもしなければいけないのに。っていうか神社掃除する前に私に自分の家を掃除すれば良かった。優先順位間違えたなぁ。誰も住んでなかった家だから蜘蛛の巣とか酷かった。
家に帰ってやることを悶々と考えていると、ふわふわ浮いていた春様は知らぬ間にちゃんと地に足を着けて歩いていた。にしても流石この土地の土地神様。着物という和装もこの何もない田舎だからこそ似合っている気がする。いやこの人がその場の空気を支配している感じ。春様の美貌のせいか、それとも神様特殊能力のせいか、――――たぶん両方だろう。
きっとネオンでギラギラの都会に行っても、春様はへらへら笑ってその場を支配しているのだろうな………
「やだなぁ、そんなこと無いよ。ほらその土地じゃないと効果ないかも知れないし、」
「…………心を読みましたか?」
「ご、ごめんね。美空ちゃんの考えてること手に取るように分かるし、丸聞こえだから…」
「貶してるんですか!それとも貶してるんですか!」
「ち、違うよ!っていうか一択しかないよ!」
失礼な神様だ。まったく。
「だって美空ちゃんの心をちらって覗いたら……」
「また、心を覗かない!」
「はい、」
とぼとぼと、少し遅れて付いてくる春様。
この人にはプライバシーの欠片ものないのか。なんて神様だ。
チカチカとぽつんと、電柱の明かりがつく。それと共に一気に辺りも暗くなってくる。さすが田舎。明かりもほとんどないし、畑と森ばかりだ。都会暮らしだった私には、少し寂しいと同時に、喧騒も何もない静かな場所にほっとする。
私は安らぎを求めるためにここに来たのだから、それが本望だ。
神社とは近い、私の自宅は一人にしては大きな家で平屋だ。
「おお、ここは大きな家だね。」
「神社の近くだし、貴方の土地でしょう。知ってるんじゃないですか?」
「うん、そりゃね。」
春様はうんうん、と着物の裾の中に手を入れながら頷いた。
神様なんだしちゃんと土地のことは把握しないとね!とウインクする。なんだか神様なのにチャラいな。そう思いながら、へぇ、と曖昧に返した。
敷地内に入りながらポケットから鍵を探す。源さんにはそんな物騒ではないので鍵は掛けなくていいといわれたが心配なものは心配だ。すると、まだ後ろに居る神様がぽつりと言う。
「だって私。ここに住んでいたし。」
「はっ!?」
まさかのカミングアウトに、私は春様を見る。
じいっとみれば、春様はにっこりと微笑えんだ。
神様はかなり自由な人のようだ。
神様の土地は神様の物。神様の土地にある物も神様の物。
美空ちゃんのお家は神様の物。