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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

都会

作者: 銀道 唯兎
掲載日:2026/03/28

『田舎』を読んでからこちらを読むことをオススメしますが、こちらだけでも良いようには書いたつもりです。

「なぁ……レオはさ、田舎の定義ってなんだと思う?」


パトロールの最中、同僚のクロがあたしにそんな質問をしてきた。


「何だ、その質問。お前あれか?五秒以上の静寂に耐えられないタイプか?」


こうは言ったものの、気持ちはわからないでもない。かつては立ち並ぶ店や会社、住宅や電灯で道が照らされ、人通りも多く賑やかだったこの街。

それが今となっては、舗装される見込みのないガタガタの道路に、初期設計にない吹き抜けで、開放感に溢れる家々。客入りどころか店員も居ない店の数々。

黙っていると、もうこの街は死んでいるんだという実感が、余計に湧いてくる。


「はは……いや、まあ、なんか、その、気になって……?」


「…………」


あたしからしたら命懸けのパトロールなのだが、どうも、こいつにとってはそうでもなさそうで、ヘラヘラとしていて少しムカついた。

とはいえ、あたしとしても、こんなやる意味のないパトロールを無言で真剣に続けられる自信はなく、世間話に乗ることにした。


「そりゃまあ、都会から離れた、あんま栄えてないとこってところじゃねぇのか?」


そう言ってクロの方を見たが、返事が無い。ただ、あたしの顔をジロジロと見て、口を開けているだけだった。機械人形(オートマタ)の癖に、なんというか、アホそうな顔をしているそいつの、不自然なまでに黒い目を見て、改めて声をかける。


「おい、聞いてんのか?クロ」


「はぁい!!聞いてますでありまする!!」


嘘だな。ビックリするほど、聞いてなかったやつの反応だ。本当にこいつは機械人形なのか?学習の賜物ではあるんだろうが、ここまで人間臭いと、感心よりも懐疑心の方が勝ってくる。

まあしかし、機械的な対応をされるよりは、大分寂しさが紛れるのは確かで、そこは、AIの進歩に感謝するべきなんだろうと思いつつ、話を続ける。


「ったく、田舎の定義だろ?都会から離れてりゃ、田舎なんじゃねぇのか?」


「え、あ、その……」


?なんか、反応悪いな。お前が始めた話だろうに。


「えっと……。そしたら、都会ってのは?」


前言撤回。自分の意見も返さずに、質問ばっかり続けやがって……。こいつはたぶん、会話の仕方をサンプリングする時、大半をソクラテスから取ったんだろうと思った。産婆術(さんばじゅつ)は、確かに論法として優秀だとは思う。けど、実際やられるとなんかムカつく。


「人が沢山住んでて、あとは、商業やら工業やら、文化が発展してる街……ってとこか?」


「それじゃあ、ここはどっちだと思う?人は沢山住んでるけど」


「…………」


――お前も考えろよ。

――質問ばっかしてんなよ。

そんな返答も、いくつか考えついてはいた。


けど、けれど、直前までのフラストレーションがどうでもよくなる程、あたしの頭ん中は、一つの質問で埋め尽くされていて、反芻されるその言葉で溺れてしまいそうで、吐き出さずにはいられなかった。




「……お前はさ、ここに居るのが()()()()()()()?」




「当たり前だろ?俺らがやってるのは、()()()()()()のパトロールだ」




「……そうか。お前は、そう思うのか」




正確には、お前()、だ。こいつが、特別こうというわけじゃない。少しでも、人間臭いなとか思った、あたしが馬鹿だった。


「え!?ごめんごめんごめん、どした?なんか嫌な事言っちゃった?俺」


「……なんでもねぇよ」


いつの間にか、泣いていたらしい。心配されて気が付いた。


「地方にある、親の出身地なんかも田舎って呼ぶらしいぜ」


詰まりそうな息を吐き出しながら、必死に、世間話を続ける。このまま会話がなくなるのは、さすがに気まずい。


「へ、へぇ……?」


――お前が始めた会話だろうが。ノッてこいよ。


「ってことは、こんだけ人が居ても、ビルが立ち並んでても、人によっちゃ田舎扱いになるってことか?」


「……まあ、そうなるかもな。あたしも、よくわかんねぇけど」


しくじった。終わらせといた方が良い会話だった。前提認識が違う相手と、世間話なんてできる気がしない。それに――




「ギ、ギギギッ、グガギッ」




――感染者だ。遠目では、人間のシルエットをしているそれはしかし、かつての思考能力も、感性も有してはいない。こんな、崩れ掛けの廃墟にも平気で出入りするし、ここが何の建物なのかとか、この街が、田舎なのか都会なのかなんて気にする事もない。

ただ、感染を広げる事を本能として、それを遂行するだけの群体として、存在理由を塗り替えられた彼らの調査と、リスト管理があたし達の仕事だ。


「お、見ない顔だな。あの家にも住んでたのか。レオ、データの照合頼むわ」


こっちにも居た。眼前のあれを、平気で家として認識して、あんな、元の顔なんて識別不可能な程グチャグチャなやつに、見ない顔だなんて表現を平気でするやつ。

感性がこうも違うと、感染者もアンドロイドも、大差がないなと思う。見た目が整っていて、会話の真似事ができるだけ、アンドロイドの方が幾らかマシだけど。


「はいよ。……ったく。こんなの意味無いってのにな」


「そんな事言うなよな。人々を守る大切な仕事なんだろ?リーダーが言ってたじゃん」


「……ああ、そうだな。」


そのリーダーは、もう死んでいる。それをクロ達は、認識出来ているのか。そんな事考えてたら、また泣きそうになってきた。どうにも今日は、気分が沈みやすい日らしい。


「……今日はもう帰るか!無駄話してる内に、今日の担当範囲は見終わったしな!」


アンドロイドの癖に、気を遣っているらしい。

そんなクロに、一つ、意地悪がしたくなった。


「おう。……その、帰る前にあたしからも質問があんだけどさ」


「お?珍しいな。どした?」


「あたしらの基地は、都会だと思うか?」


「田舎だろ?()()()()()()()()()


「……そうか。そうだな」




意地悪なんて、しなければよかった。余計に虚しさが増すばかりで、何一つ面白くない。

廃墟ばかりの元主要都市より、余程発展したあの基地を、彼は、自分達が人間ではないからという理由で、田舎だと言うのだ。


せめて、自分の生まれ故郷だからという理由にでもしてほしかった。そういうところは、気が利かない。


帰り道や、基地に着いた後の事は、あまり覚えていない。クロがいつもの報告をしている声だけ、少し、耳に残った。


――「SN-00(エスエヌゼロゼロ)SN-96(エスエヌキューロク)帰投しました」


SNってのは、シリアルナンバーの略で、あたしも、それで管理されている。

というか、してもらっている。

実のところ、この基地にはもう、あたし以外に生き残りが居ない。そんな中で、あたしだけ人間として、この無数のアンドロイド達に特別扱いされる生活に、耐えられなかった。


孤独感から群体で在りたかったのか、ただただ、仲間はずれが気分悪かったのか、今となっては覚えていない。


「あたしも、さっさと感染した方が、幸せなのかもな」


あんな風になる前の街の写真を見て、そんな、馬鹿げた独り言を漏らすあたしに、拳骨が落ちてくる事はもう無い。

月日が流れても流れない悲しさに、濡れた枕の感覚に少し、安心した。

初めましての方は初めまして、銀道(ぎんどう)です。

『田舎』ではクロの視点を、今作『都会』ではレオの視点を書いてみました。


自分達が今住んでる土地を、どちらで認識しているのかでタイトル分けしてみました。

私自身、東北の漁師町から関東に出てきたもので、自分からすれば都会だな〜って土地ばかりなのですが、ここにずっと住んでいる方々は、田舎だ田舎だと口を揃えて言うんですよね。


結局は、田舎だとか都会だとかって、絶対評価ではなく、相対評価なのかもしれませんね。


セットだと考えていたあまり、田舎の方には書き忘れましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。


また、次の作品でお会いしましょう。

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