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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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7. 軍師の座学(後編)

 7. 軍師の座学(後編)




「……わかった。12人の駒の役割は、なんとなく見えてきた。じゃあ、早速マッチに行こうよセンセ!」


「待て。まだ話は終わってない」


 意気揚々とマウスに手を伸ばす柚葉を、オレは片手で制した。


「えーっ、まだあるの!? 早く実戦で試したいんだけど!」


実戦マッチに行く前に、お前がこれから登ろうとしている『山の高さ』を正確に把握しておけ。……柚葉、まずはお前の最終目標を言ってみろ」


「そんなの決まってるじゃん!最高到達点の『円卓』!そこに行って、Architectと同じ景色を見る!」


 柚葉が迷いなく答えると、オレは傍らにあったホワイトボードをペンで強く叩いた。


「まぁ、そうだな。じゃあお前が軽く言ったその『円卓』が、どうすればなれる場所なのか説明してやる。『円卓』は、ただポイントを稼げば到達できる『階級ランク』じゃない。Order1(上位1%)という魔境をさらに勝ち抜いた者たちの中で、『全12キャラクターそれぞれの、国内ランキング1位』にのみ与えられる特別な称号だ」


「……え?」


「つまり、日本中でたった12人しか座れない『神の席』ってことだな」


 柚葉の目が点になり、ポカンと口を開けた。


「たった、12人……?じゃあ、私が円卓に行くには……」


「そうだ。お前は索敵キャラの『Owl』を使っている。つまりお前が円卓に座るためには、現在『Owlの国内1位』に君臨している現役の最強プレイヤーを、実力で引きずり下ろさなきゃならない」


 その絶望的な事実に、柚葉はゴクリと喉を鳴らした。だが、オレの講義はまだ終わらない。オレはホワイトボードに、階段状の図を書き殴った。


「さらに、このゲームはランクが上がるごとに『ルール』そのものが進化する。お前が今いるアイアンからゴールド3までの下位帯は、【3対3】の少人数戦だ。撃ち合いの基礎と、味方とのシンプルな連携を学ぶ『チュートリアル』に過ぎない」


「ゴールド3までが、チュートリアル……」


「そうだ。そしてゴールド2に上がった瞬間、盤面は【4対4】に進化する。ロールが一つ増え、戦術の幅が爆発的に広がる。……さらにその先だ」


 オレは階段の一番上、『Platinumプラチナ2』の文字を赤いペンでグルリと囲んだ。


「プラチナ2到達。ここでついに【5対5】が解放され、このゲームは『真の姿』を現す。十人のプレイヤーのスキルが入り乱れ、射線管理と情報処理が極限状態に達する。……いいか柚葉。指揮官(IGL)であるお前が把握し、指示を出さなければならない情報量が、今の3人戦とは比較にならないほど膨れ上がるんだ」


「…………っ」


「今の【3対3】の盤面ですら、お前はパニックになって死んでいる。その処理能力のままじゃ、5対5の魔境には絶対に通用しない。だからこそ、今のうちに盤面を俯瞰する『目』を完璧に養う必要があるんだ。……どうだ。円卓になるってことが、どれだけイカれてるかわかったか?諦めるなら今のうちだぞ?」


 オレがわざと冷たく突き放すと、柚葉はじっと自分のノートを見つめていた。


 沈黙。あまりの壁の高さに、普通の女子高生ならマウスを投げ捨てて泣き出すレベルの絶望だ。


 だが、柚葉は顔を伏せたまま、肩を震わせて――。


「……ふふっ」


「ん?」


「あははっ! なにそれ、ヤバすぎ! え、私、そんなバケモノみたいな道のりを登ろうとしてたの!?」


 柚葉は顔を上げ、怯えるどころか、信じられないほど楽しそうに目を輝かせて笑った。


「最高じゃん!だって、そのルールなら……私が円卓に着いた時、文句なしで『日本で一番Owlが上手いプレイヤー』ってことだよね!?Architectに『私、あなたと同じところまで来ました!』って、胸張って言えるじゃん!」


 柚葉はバンッと机を叩いて立ち上がり、オレに向かってビシッとペンを突きつけた。


「3人でも5人でも、全員私の言う通りに動かしてやる!センセ、一番最初の基礎から全部教えて!絶対にその『1位のバケモノ』、引きずり下ろしてやるから!」


(……その1位のバケモノ、今お前の目の前でホワイトボードに文字書いてるんだけどな)


 喉元まで出かかった最大のツッコミを必死に飲み込み、オレは小さくため息をついて、僅かに口角を上げた。


「……いいだろう。なら、まずはマウスを持つな。そのノートをもう一度開け。――今日は朝まで『座学』だ」


「ええーっ!? 結局ゲームさせてもらえないのーっ!?」 




 数時間後。ノートを真っ黒に書き潰した柚葉が、机に突っ伏したまま恨めしげにオレを睨んできた。


「……うぅ、脳みそがオーバーヒートして爆発する……センセ、これ完全なパワハラ。労基に駆け込むレベル。……ねえ、何かないの? 頑張った教え子への『バフ(強化魔法)』とかさぁ」


「バフだぁ?飯ならさっきの特製ハンバーグでステータス全快だろ。とっとと寝ろ」


「ちっがーう! もっとこう、視覚的なご褒美だよ!」


 柚葉はむくりと起き上がると、わざとらしくぶかぶかのTシャツの襟ぐりをぐいーっと広げ、手でパタパタと中に風を送り始めた。


「あー、頭使ったら熱がこもっちゃった。……ねえセンセ、今なら私の『ここ』、一秒につき百円で見せてあげてもいいよ? 特別価格。ほら、見て見て。完璧にノーガードだよ?」


 薄暗い部屋の照明の下、はだけた襟元から覗く白い鎖骨と、その奥の危うい曲線が、嫌でもオレの視認範囲エイムにクリティカルヒットする。


「……お前な、さっき『軍師』になるって宣言したばっかだろ。自分の貴重なリソース(情報)をそんな安売りしてどうする。敵に弱点を見せるな」


 オレが呆れたように視線を逸らすと、柚葉はさらに身を乗り出し、Tシャツの襟ぐりをわざとらしく広げて不敵に笑った。


「弱点? センセ、大丈夫?これ、アタシの『アサルトライフル』なんだけど?」


「は? ……せいぜい『ハンドガン』だろ。ふざけたこと言ってないで寝ろ」


 最高火力のメイン武器アサルトライフルを自称する小悪魔に対し、オレは鼻で笑ってサブ武器扱いしてやった。だが、柚葉はその言葉を拾って、さらに深々と、邪悪な笑みを浮かべる。


「ハンドガン……。ふーん、みんなお世話になるもんね。……そういうことでしょw」


 一瞬、意味が分からなかった。だが、コンマ数秒後、彼女が何を暗示しているのかを理解し、オレの顔は一気に沸騰した。


「下らねぇこと言ってんじゃねぇ!早く寝ろよ!!」


「あははっ!センセ、顔真っ赤!命中ヒット確定ー!」


「うるさい、黙れ!さっさと寝ろ!」


 柚葉は「あはは、おやすみ~」と言いながら部屋に戻っていく。静まり返ったリビングで、オレは一人深くため息をついた。


「……アイツ、近距離戦の立ち回りがエグすぎるんだよ……」


 オレは熱くなった顔を冷ますように、一気に冷え切ったお茶を飲み干した。

『面白い!』

『続きが気になるな』


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