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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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6. 軍師の座学(前編)

 6. 軍師の座学(前編)




 翌日の昼下がり。


 昨夜、数時間にも及ぶオカン(オレ)の監視のもと、ようやく「人間が住める空間」へと生まれ変わったタワマンの最上階。


 ピカピカになったデスクの前で、柚葉は真新しいゲーミングチェアにふんぞり返り、得意げにマウスを握っていた。


「ふふーん。どうよセンセ、この完璧なゲーム環境!ゴミもないし、空気も綺麗!」


「それが当たり前だからな?絶対に汚くするなよ」


「分かってるって。さあ、昨日言ってた『完璧なロジック』とやら、早速マッチ回して教えてよね!」


 やる気満々で『TwelveOrder』のアイコンをクリックしようとする柚葉。だが、オレはその白い手をガシッと掴み、無情にもゲームの起動をキャンセルした。


「え?ちょ、何すんの」


「マッチングは回さない。今日は『座学』だ」


「……は? ざがく?」


 オレはサブモニターに、このゲームの12人のキャラクターと手書きの図解やテキストをまとめたメモ帳の画面を映し出した。


「お前は自分のフィジカル(エイム)のなさを自覚して、純粋な『罠と情報』だけで勝とうとしている。方向性は悪くない。だが、お前は盤面の『駒』の性能を全く理解していないから、予想がすべて希望的観測で終わってるんだ」


「なっ……!ちょっと待ってよ、キャラのスキルくらい全部頭に入ってるし! 誰がどんな技使うかなんて、そんなの常識でしょ!」


 柚葉は不満げに頬を膨らませた。


「あのさぁ、私だって毎日プレイしてるんだよ?わざわざ初心者みたいなキャラ解説なんて聞かなくても……」


「お前、知ってるって『うわべ』だけだろ。完全に理解してないから、昨日みたいな素人丸出しの『勘撃ち』をするんだ」


 オレの冷たい一言に、柚葉がウッと息を詰まらせる。


「いいか、よく聞け。『TwelveOrder』は純粋なダメージを競い合うゲームじゃない。いかにして射線を切り、視界を奪い、情報を得るか。全12キャラクターは、すべてその『戦術タクティクス』のために存在している。……じゃあ聞くが、お前が使っている『Owlアウル』の本当の役割は何だ?」


「えっ、と……索敵ドローンや音波センサーで、壁越しの敵を可視化して、有利な撃ち合いの起点を作る……ロケーター(情報・索敵枠)?」


「それは公式のチュートリアルだ。オレが聞いているのは『盤面における存在意義』だ」


 オレは画面に、12人のキャラクターのアイコンを6つのロールに分けて表示させた。


「いいか。情報枠ロケーターにはもう一人、罠やカメラでエリア侵入を遅延させる守備型の『Ravenレイヴン』がいる。レイヴンが『待ち』のロケーターなら、『Owl』は『攻め』のロケーターだ。自ら情報を獲りに行き、見えない壁越しから敵を一方的に処刑する」


 オレはさらに、別のアイコンを指差す。


「だが、お前の索敵がどれだけ完璧でも、他の駒の動きを理解していなければ『罠』は機能しない。例えば、射線制圧枠スナイパーだ。撃った直後に瞬間移動で逃げる攻撃型の『Wolfウルフ』と、裏取りを警戒する定点防衛型の『Spiderスパイダー』。奴らがどこでワンピック(初弾キル)を狙っているか逆算できなければ、お前の罠はただの飾りになる」


「……っ」


「それに、真っ先に陣地をこじ開けてくる突撃枠ストライカーの存在だ。圧倒的な機動力で飛び込んでくる『Lionライオン』や、フェイクの足音で撹乱してくる『Pantherパンサー』。こいつらの『最速の侵攻ルート』を潰すための罠を張らなきゃ、お前は真っ先に狩られる」


 柚葉の目が、少しずつ真剣なものに変わっていく。オレは容赦なく言葉を叩き込み続けた。


「まだあるぞ。煙幕で物理的に射線を切る『Bat』や、毒の壁でエリアを分断する『Viper』といったコントローラー(煙幕枠)。壁越しにフラッシュやスタンを撃ち込み、作戦を根底から狂わせる『Hound』や『Fox』といったイニシエーター(妨害枠)。そして、回復や物理的な壁でチームの生存率を上げる『Stag』や『Turtle』といったセンチネル(遅延枠)。……これらすべてのキャラが『今、どこで、何をしたいのか』。……さらに、こいつらの戦況をひっくり返す『アルティメットスキル(大技)』がいつ上がるか。お前はそれを完全に把握した上で罠を置いているか?」


「それは……」


「例えば、お前が使っているOwlのアルティメットスキル『ディープ・インサイト(深淵の眼)』だ。あれの本当の恐ろしさが分かってるか?」


「え?前方に巨大なスキャン波を撃って、壁の向こうの敵を3秒間赤くハイライトする大技でしょ?敵がどこに隠れてるか丸わかりになる、最強の索敵じゃん!そのくらい分かるよ!」


「最強ね……いいか柚葉?あれはただ『敵を見るため』のスキルじゃない。『不可避の処刑』を実行するためのスキルだ」


「しょけい……?」


「3秒間、壁越しに敵の頭の位置が完全に透けて見える。だが、ゲームの仕様上『弾が貫通する壁(壁抜き)』は1枚までだ。隣のエリアの死角に身を潜め、マップ上の抜ける壁の材質をすべて暗記し、高威力の重スナイパーライフルを構えた状態でそのULTを撃ち込めばどうなる?」


「あっ……」


 柚葉は弾かれたようにモニターを見つめた。


「敵は自分の視界にお前を一切捉えることなく、逃げる間もなく、見えない壁の向こうから頭を撃ち抜かれて死ぬ。……情報(索敵)を、完全な暴力キルに変換する。それがOwlというキャラの真骨頂だ」


 オレはそこで言葉を区切り、息を呑む柚葉の顔を指差して意地悪く鼻で笑った。


「もっとも、これは『壁越しにコンマ数秒でヘッドショットをピンポイントでぶち抜ける変態的なエイム力』があって初めて成立するロジックだ。今の絶望的なフィジカルのお前じゃ、透けて見えたところで壁の向こうの敵の胴体にすら当てられないだろうけどな」


「うぐっ……!か、確信突かないでよ!今は無理でも、ぜ、絶対に練習してできるようになってやるし!」


「ああ、せいぜい頑張れ。だが、それができるようになるまでは――今は、『目』として使えばいい」


「味方のための、目……」


 柚葉は自分の両手を見つめ、そして強くマウスを握り直しモニターに映る12人のキャラクターたちを食い入るように見つめた。


「敵の編成を見て、誰がどこのエリアを取りに来るか。味方の編成を見て、どこに自分の罠を置けば一番カバーが機能するか。……お前が信じた『Architect』のロジックってのは、ただ動画の罠の配置を丸暗記することじゃない。この12個の駒の思考を完全にトレースして、盤面全体を一つの生き物として支配することだ」


 オレが説明を終えると、部屋には静かなPCの駆動音だけが響いていた。


「……私の、うわべだけだった」


 ぽつり、と。柚葉が絞り出すように呟いた。悔しそうに唇を噛んでいるが、その瞳は昨日オレを睨みつけていた時のような反発の色ではない。


 未知の深淵を覗き込み、そして、自分が目指すべき「本物の頂」の高さに武者震いしているような、純粋なゲーマーの目だった。


「……ごめん、センセ。私、分かったつもりになってただけだった。キャラのスキルなんて、ただの『技』だと思ってた。……でも、違うんだね。それが『盤面を動かす理由』になるんだ」


「そうだ。それが分かったなら、お前は今日、ただの丸暗記の人間からゲームのプレイヤーに一歩近づいたことになる」


「言い方ムカつく!けど……言い返せない」


 柚葉は悔しそうに唸ると、デスクの引き出しを乱暴に開け、真新しいキャンパスノートとペンを取り出して机に叩きつけた。


「……教えて、センセ。12人全員の、一番嫌がる『罠の置き方』と『思考のクセ』。全部、私の脳みそに叩き込んで」


 マウスをペンに持ち替え、画面の向こう側の『思考』を読み解くための、果てしなく地道な座学がスタートした。オレのロジックをすべて吸収しようと、ノートにカリカリと文字を書き殴る柚葉の横顔は、戦場に向かう若き将校のように凛としていた。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


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