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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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5. 傷だらけの告白

 5. 傷だらけの告白



 翌日の夕方。


 オレは、全財産と数着の着替えを詰め込んだキャリーケースを引きずりながら、再びあのタワーマンションの最上階に立っていた。


 インターホンを鳴らすと、ほどなくしてカチャリと重いドアが開く。そこには、昨日と同じようなダボダボのTシャツにショートパンツ姿の少女が立っていた。


 ただし、昨日のような小悪魔的な挑発のオーラは微塵もない。彼女はオレとバチリと目が合うと、気まずそうにスッと視線を逸らした。


「……叔母さんから聞いてる。こっちが部屋ね」


 彼女はボソリとそれだけ言うと、くるりと背を向けて廊下を歩き出した。オレは無言のままキャリーケースを引き、彼女の小さな背中についていく。


 案内されたのは、彼女のゲーム部屋(兼リビング)の奥にある、ホテルのように無機質で綺麗なゲストルームだった。ベッドとデスクだけが置かれた殺風景な部屋の中央で、キャリーケースの車輪を止める。


 彼女はドアの枠に寄りかかったまま、足元の絨毯を意味もなくつま先で小突いていた。


「…………」


「…………」


 重い。空気が信じられないほど重い。


 昨日の今日で、しかも最後に「帰れバカ無職!」と泣き叫んで終わっているのだ。気まずくないわけがない。彼女も何か言いたげに口をもごもごさせているが、プライドが邪魔をしているのか、なかなか言葉が出てこないようだった。


(……仕方ない。ここはオレが大人になるべきだろ)


 オレは小さく息を吐き、頭をガシガシと掻いた。


「その……昨日は……言い過ぎた」


 オレの謝罪に、彼女がピクッと肩を揺らす。


「真剣にやってるのは分かってたのに、ただのヘタクソな素人扱いして、頭ごなしに否定した。……悪かった」


「……べ、別に。私が下手くそなのは本当のことだし。それに、図星突かれて逆ギレして追い出したのは私の方だから……」


 バツが悪そうにそっぽを向いたまま、小さな声で返してくる。その素直さに、オレは少しだけ肩の力を抜いた。


「オレさ、つい最近、会社を辞めたんだよ」


 唐突なオレの告白に、「え?」と彼女が顔を上げる。


「ブラック企業でさ。毎日理不尽に怒鳴られて、サービス残業ばっかで。ある日突然プツンと糸が切れて、貯金もないのに勢いだけで辞表叩きつけてきた。……本当に行き当たりばったりの、現実から逃げただけの情けない大人なんだ」


「……なんで、急にそんなこと」


「だから、君を上から目線で説教できるような、立派な人間じゃないってことだ。オレはあの社長に『手取りの5倍出すから住み込みで教えろ』って言われて、明日の家賃とメシ代に目が眩んでここにいる。……最高にダサいだろ?」


 オレがあえて自嘲気味に笑うと、彼女はぽかんとした後、ぷっと小さく吹き出した。


「何それ。偉そうにしてたのに、計画性ゼロじゃん」


「うるさい。だから、お互い様だ。……それで、対等だろ?」


 オレの言葉に、彼女は少しだけ目元を和らげた。そして、ゆっくりと部屋の壁に背中を預け、ずるずると座り込んだ。膝を抱え、ぽつり、ぽつりと、これまで誰にも言わなかったであろう「過去」を語り始める。


「ねぇ、叔母さんから聞いた? ……私のこと」


「……ああ、多少な」


「……私ね。1年ちょっと前に、両親が事故で死んだの」


 静かな声だった。オレは何も言わず、ただ黙って耳を傾ける。


「……本当に、今まで迷惑ばっかりかけちゃってた。……でも、誰でもいいから、私のこと必要として欲しかったの。そうじゃないと、自分がここにいていい理由が分からなかったから……でも、ヤってはいないから!それは信じて!」


 昨日の、あの慣れたような誘惑。自暴自棄な振る舞い。それは、自分を必要としてくれる場所を必死に探した結果の、悲しい防衛本能だったのだ。


「……今は、してないんだろ?」


「え?」


「あー……ゲームと一緒だ」


 オレは無造作に彼女の横に腰を下ろした。


「負けたら原因を探すだろ? 次は同じことをしない。お前はそれに気付いた。……忘れることはできない。でも、二度と間違えることもないだろ?」


「…………」


 柚葉はハッとしたようにオレを見た。


「……慰めて、くれんの?」


「ロジックを言っただけだ」


「ロジックね……今までの家庭教師?コーチの人はさ、みんな、叔母さんのお金か、私の機嫌をとることしか考えてなかった。私がちょっと胸元を見せたり、甘えたりしたら、みんなデレデレして『ゲームは楽しくやればいいよ』とか言い出して……。そんな中途半端な奴らに、私の『神様』のプレイスタイルを否定されたくなかったの」


 昨日の、あの慣れたような「誘惑」の裏には、自分を守るための強固な防壁フィルターと、自傷行為めいた絶望が隠されていたんだな。


「だから、私から誘惑して、ボロを出させて追い出してきた。……私の本気に、命懸けで向き合ってくれない大人なんて、いらなかったから」


 そこで柚葉は言葉を切り、膝に埋めていた顔を少しだけ上げて、真っ直ぐにオレを見た。


「……でも、お兄さんは違った。私の安い誘惑なんて完全に無視して、頭から乱暴にパーカー被せて、『くだらないテストしてる暇があるなら盤面を見ろ』って言った。……私のプレイを『ド下手くそ』って、一切の忖度なしに全否定してくれた。……それが、すごく悔しかったけど……本当は、すごく嬉しかったの」


「…………」


 オレは言葉を失った。


 この子は、大人の汚さを見透かした上で、ずっと孤独に「自分を本気で叱って、導いてくれる『本物』を探していた。


「突然、理不尽に全部奪われて。自分が生きてる意味も、明日どうなるかも、全部どうでもよかった。……でもね。ある日、たまたまネットで『あのゲーム』の動画を見たの」


 彼女の瞳に、かすかな熱が灯る。


「……『Architect』のプレイ。圧倒的に不利な状況なのに、その人は焦ることも、感情的になることもなくて。ただ冷たく、完璧なロジックだけで、敵を誘導して罠にはめて、盤面を支配してた。……それを見た時、私、ボロボロ泣いちゃったんだよね」


 彼女は抱えた膝に顔を埋め、くぐもった声で続けた。


「私の現実は、理不尽でメチャクチャだったから。……あんな風に、すべての不確定要素を排除して、自分の思い描いた通りに世界(盤面)を完璧にコントロールするあの人の戦い方が……すごく綺麗で、私には救いみたいに見えたの」


 だから、彼女は惹かれたのだ。自分にはない「秩序」と「完璧な支配力」を持つ、あのプレイスタイルに。


「エイムが下手なのは分かってる。でも、私は絶対にあのスタイルでプロになりたいの。あの人みたいに、自分の力で盤面を支配できる強さがほしい……。無謀だって、バカだって分かってるけど、あれが今の私の『生きる理由』だから」


 顔を上げた彼女の瞳は、もう迷っていなかった。涙の跡が残るその顔は、ただ純粋に、自分の信じた光に手を伸ばそうとするゲーマーの顔だった。


「……だから、お願い。私に、ゲームを教えて……センセ」


「……センセ?」


「うん。今日から私の専属コーチなんでしょ? なら、センセじゃん。私のことは、柚葉でいいよ」


 柚葉は少し照れくさそうに頬を掻きながら、まっすぐにオレを見つめた。


「…………」


 痛い。胸が痛い。


 自分が過去にあっさりと捨ててしまったプレイスタイルが、この孤独な少女の命綱になっていたなんて。


『そのArchitect、オレだよ』と言ってやりたい衝動を、オレは奥歯を噛み締めて必死に飲み込んだ。


 ダメだ。今のオレはただの無職で、彼女の『神様』を名乗る資格なんてない。オレが名乗るのは、この子が自分の力で、そのロジックを完全にモノにした時だ。


「……分かった」


 オレはキャリーケースから手を離し、柚葉の前まで歩み寄ると、その金髪の頭にポンと手を置いた。


「柚葉、お前が本気なら、オレも出し惜しみはしない。オレの頭の中にあるロジックを、お前の空っぽの脳みそに1から100まで全部インストールしてやる」


「……うんっ! って、空っぽは余計だけど!」


「ただし、オレの指導を受けるなら条件が一つある」


「条件?」


 不思議そうに首を傾げる柚葉に、オレはニヤリと悪人面で笑ってみせた。


「プロになりたいなら、まずはそのゴミ屋敷と昼夜逆転生活を直せ。オレは今日からお前のコーチ兼『オカン』だ。まずはリビングの片付けからだ、立て!」


「ええっ!?今から!?ちょ、待ってよ、今日くらいゲームさせてよ!」


「ダメだ。健康な肉体なくして完璧なロジックは成立しない。さあ、ゴミ袋を持て、柚葉!」


「もぉ〜っ!センセ、スパルタすぎる!!」


 文句を言いながらも、柚葉の顔には微かな笑みが浮かんでいた。


「……あ。センセ」


 ゴミ袋を縛っていたオレの手が止まる。振り返ると、柚葉が散らかった床に座り込み、どこか勝ち誇ったような小悪魔の笑みを浮かべてオレを見上げていた。


「なんだ?」


「私、まだ処女だからね?もう一度聞くけど、私とヤる?それともゲーム?」


 昨日までの「誘惑」が、今は単なる「冗談」として機能していた。その柚葉の笑顔は初めて見る、年相応の笑顔だった。


「はぁ、ガキが何言ってんだ。……そんなことより、とっとと手を動かせ。早く片付けないと飯の時間にならないぞ?」


 オレが呆れたように鼻を鳴らすと、柚葉は「ちぇっ、つまんないの」と舌を出した。思い通りに動揺しないオレに不満げだが、その表情はどこか晴れやかだ。


「……ねえ、センセ。そんなに威張るなら料理とかできんの?私、ハンバーグ食べたい!」


「26の独身男をなめんな。生きるために最低限の自炊くらいは仕込まれてる。……ハンバーグか。なら材料を買いに行かなきゃな」


「やった!じゃあ、今からスーパー行こ?私、一番高いひき肉選んであげる!手料理とか何時振りだろ!」


「バカ。予算と資源リソースの管理もロジックのうちだ。……ほら、行くぞ、柚葉」


 夕焼けに染まる広いタワーマンション。


 ゴミ袋を持った無職の軍師と、その背中を跳ねるように追いかける小悪魔な美少女。2人の「奇妙な同居生活」は、1階のスーパーへの買い出しから、その幕を開けた。

『面白い!』

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