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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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1. 無職の軍師

 1. 無職の軍師



『――さあ、残り時間はあとわずか! エキシビションマッチ最終ラウンド、両チーム一歩も譲りません! しかしここでプロチーム【Nova】がキルトレードを制し、人数有利を作った!』


『プロ側は残り3人。対する防衛側は……たった1人! 一般参加枠の『Owl』、プレイヤーネーム"Architect"のみだぁーっ!』


『これはもう勝負ありましたね。いくら彼が『円卓』のプレイヤーとはいえ、連携の取れたプロ3人を相手に、この絶望的な盤面を一人で覆すことは不可能です!』


 2年前。熱狂の渦に包まれた巨大ドーム会場。実況と解説の叫び声が、スピーカーを通してガンガンと響き渡っていた。


 だが、その熱狂の中心にいるはずのオレは、会場の裏手にひっそりと用意された『顔出しNGの一般ゲスト用』の隔離部屋で、一人冷めた目でモニターを睨んでいた。


(……足音が3、スキル発動音が2。馬鹿め、綺麗に一直線に並びやがって)


 オレは手元のマウスを滑らせ、相棒のキャラクター『Owl』の特殊スキル『音波センサー』を、敵からは絶対に見えない壁の裏側へと、ミリ単位の正確な角度で撃ち込んだ。


 ピコンッ、という無機質な電子音と共に、分厚い壁の向こう側で突入を仕掛けていたプロ選手3人のシルエットが、オレの画面に赤くハイライトされる。


『――っ!? Architect、ここでセンサー!? しかし目の前には分厚い壁があって、射線は通りませ――』


 実況の悲鳴を置き去りにして、オレは高威力の重スナイパーライフルの引き金を、何もないただの壁に向かって、一切の躊躇なく三回連続で引いた。


 ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!!


『壁抜き(ウォールバング)ヘッドショット! 怒涛のトリプルキル!!』


『な、なんだぁぁぁーっ!? 抜いた! 見えない壁越しから、生き残っていたプロ3人の頭を完全に撃ち抜いて試合終了だぁぁっ!!』


『信じられません! まるで未来が視えているかのような完璧なロジック!1対3の絶対的不利を覆し、プロを完全に手玉に取っているぅぅーーッ!!』


 隔離部屋の分厚い防音扉越しにすら、地鳴りのような大歓声がビリビリと響いてくる。


 だが、オレは歓喜に沸くことも、ガッツポーズをすることもなく、ただ壁掛け時計をチラリと見て小さく舌打ちをした。


(ヤバい。さっさと終わらせて裏口から抜け出さないと、明日の面接用の履歴書を買う前に駅前の文房具屋が閉まっちまう……!)



 ***



『TwelveOrderトゥエルブ・オーダー』——今や、この国でその名を知らない若者はいないだろう。


 電車に乗れば高校生たちが大会のハイライトで盛り上がり、街を歩けば大型ビジョンでスタイリッシュなキャラクターたちが銃撃戦を繰り広げている。


 世界的な人気を誇るタクティカル・シューター。


 単なる反射神経の撃ち合いではなく、キャラクターの固有スキルを駆使し、相手の手札を読み合う高度な情報戦。ヘッドショット一発で沈む極端に短いキルタイムの中で、たった一人の「盤面把握能力」が勝敗を大きく左右するその競技性の高さは、eスポーツという枠を超えて一つの社会現象になっていた。


 そして、このゲームには特別なシステムがある。


 上位1%の魔境をさらに勝ち抜いた者たちの中で、全12キャラクターそれぞれの「国内ランキング1位」だったプレイヤーにのみ与えられる絶対的な称号——『円卓』。


 文字通り、国内最高峰の12人だけが座ることを許される神の領域だ。


 2年前、オレはその席の一つに座っていた。


 使用キャラクターは、情報収集と盤面操作に特化した索敵枠『Owlアウル』。プレイヤーネームは『Architect(建築家)』。


 オレの戦い方は、他のトッププレイヤーたちとは少し違った。派手なエイムで敵をなぎ倒すのではなく、わずかな情報から敵の配置と心理を完全に推理し、罠にハメて、見えない壁の向こうから一方的に撃ち抜く。相手からすれば、未来を予知されているような理不尽な悪夢だっただろう。


 エキシビションマッチで現役のプロチームを完封勝利した後、当然のように隔離部屋には無数のスカウトが殺到した。提示された契約金は、数千万というバカげた額だった。


 だが、オレはそれらをすべて断った。


『あー、すいません。プロとかプレッシャーえぐそうで絶対に無理です。親にも手堅い会社に入れって泣かれてるんで。明日面接あるんで帰りますー』


 そんな普通の大学生丸出しの理由を残して、オレはゲームの表舞台からあっさりと姿を消した。


 ゲームの盤面は完璧に支配できても、自分の人生となると途端にビビりで、ただ普通に、平穏に生きたかっただけだ。


 ——はずだったのだが。


「……あー、来月の家賃どうすっかなぁ……」


 オレ、鳴海理人なるみ りひと、26歳。


 大学卒業後、普通の就職を選んだのオレの人生の履歴書は、もう取り返しがつかないほどボロボロになっていた。


 2年前のあの日。ドーム会場から逃げるように抜け出し、スーツのシワを伸ばしながら向かった面接で、オレはようやく「手堅い正社員」の座を勝ち取った。これで自分の人生の盤面ボードは完璧にコントロールされたのだと疑っていなかった。


 だが、現実はクソゲーだった。


 オレがすがりついた中堅のITベンチャーは、外向きの「アットホームで成長できる環境です!」という謳い文句とは裏腹に、中身は絵に描いたような漆黒の『ブラック企業』だったのだ。


 決定的な崩壊スナップが訪れたのは、つい三日前のこと。三日三晩、デスクの下で仮眠を取りながら必死に組み上げた大型プロジェクトのプレゼン資料。完璧なデータとロジックを詰め込んだその集大成に対し、直属の上司は鼻で笑ってこう言い放ったのだ。


 「なんかさぁ、フォントの選び方から”熱意”が伝わってこないんだよね。もっとこう、ガツンとパッションを感じるデザインで、今日中に全100ページ作り直してよ。気合いでさ」


 プツン、と。

 オレの頭の中で、何かが完全に焼き切れる音がした。論理的ロジカルな反論の余地もない、ただの「気分」と「精神論」による全否定。


 気がつけば、オレは無言で立ち上がり、上司のデスクに自分の社員証を力いっぱい叩きつけていた。


 「やめます。パッションに溢れたフォントは、ご自身で探してください」


「は? おい鳴海、お前何言って……ふざけんな、ここで逃げたらお前の人生――」


「うるせえ!オレの人生の指揮権(IGL)をお前みたいなクソエイムの無能に握らせてたのが、一番のプレミ(プレイングミス)だったんだよ!」


 静まり返るオフィスに響き渡った怒号。


 これが、かつて「未来を予知する」とまで恐れられた天才軍師(Architect)が実行した、リアル『レイジクイット(ブチギレ切断)』の全貌である。


 ――そして現在。


 平日の昼間。都内の安いカフェで、冷めたコーヒーをすすりながら、オレは手元のスマホに表示された銀行口座の残高を虚ろな目で見つめていた。


 『口座残高:34,500円』


 「……はぁ。日雇いのバイトでも探すかぁ」


 求人サイトをスクロールしていると、突然スマホが震えた。画面には見知らぬ番号。

 

「はい、鳴海です」


 《久しぶりね、"Architect"くん。……あら、今はただの無職の鳴海くんだったかしら?》


「……えっ?」


 スピーカーから聞こえてきたのは、やけに聞き覚えのある、余裕たっぷりの大人の女性の声だった。


 「どちら様ですか? あと無職は余計ですけど」


 《ふふっ。アークリヴ(ArcLive)の社長の小鳥遊よ。ほら、あなたが2年前、うちの大会でプロをボコボコにした直後に「面接があるんで」って逃げるように帰った、あの時の》


 その言葉で、オレの脳内に記憶がフラッシュバックした。当時、エキシビションマッチを主催していたeスポーツ界を牽引する巨大IT企業の社長・小鳥遊社長だ。


 プロのスカウト陣をガン無視して帰ろうとするオレを見て、なぜか腹を抱えて大爆笑していた、あのやけにスタイルのいい美人社長……。


「あああっ!あの節はどうも……!いや、でもなんでオレの番号を?ていうか、もうゲームはやってないですよ。今はそれどころじゃなくて……」


 《知ってるわよ。せっかく入った会社で丸2年すり減って、限界迎えて無計画に辞めたんですってね。相変わらず、現実の立ち回りは本当に下手くそね》


「……うっ」


 図星すぎて胃が痛い。なんでこの人はオレの情けない現状を完璧に把握しているんだ。


 《ちょうどいいわ。ヒマを持て余しているなら、うちの姪っ子の「家庭教師」をやってもらえないかしら?》


「家庭教師? いや、オレ人に勉強教えられるほど頭よくないですよ。数学とか完全に忘れてますし」


 《勉強じゃないわ。ゲームよ。……あの子、TwelveOrderのプロゲーマーになりたいなんて言い出してるの》


 社長の声のトーンが、少しだけ真剣なものに変わった。


 《あの子を、諦めさせてほしいのよ》


「……オレに、ゲームで完膚なきまでに叩きのめせってことですか?」


 《その通り。今まで何人もプロや有名なコーチを雇ったけど、みんな「社長の姪」だからって機嫌を取るばかりで、使い物にならなかった。……でも、あなたなら違うでしょ?》


 電話越しの社長は、面白がるように、しかし確かな期待を込めて言った。


 《プロを相手に勝利しておいて、次の日に「面接なんで」ってあっさりゲームを捨てたあなたなら、相手が誰だろうと絶対に忖度しない。久しぶりに"Architect"の頭脳を使って、あの子の甘い夢を完璧なロジックで否定し尽くしてちょうだい。プロなんて絶対に無理だと分からせるのよ》


「……」


 《今日一日、あの子の心を完膚なきまでにへし折ってくれたら……あなたが前の会社でもらっていた手取り、まるまる3ヶ月分を今日ポンと振り込むわ》


 オレの目は、スマホの画面端に映る『口座残高:34,500円』という絶望的な数字を捉えていた。


「やります。今すぐ行かせてください」


 《ふふっ、即決ね。じゃあ今から言う住所に向かってちょうだい。あの子には、新しい家庭教師が行くって伝えてあるから》


 通話が切れ、オレは深く息を吐いた。


 ごめんよ、見知らぬ姪っ子ちゃん。オレだって本当は、夢見る若者の心をへし折るような悪役みたいなことはしたくないんだ。


 でも、背に腹は代えられない。オレも家賃を払って生きていかなきゃならない。


「……よし、仕事だ。今日だけは、心を鬼にして魔王をやろう」


 オレは残りのコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がった。


 ゲームの盤面の中で、現実(実力差)を教えればいいだけの簡単な仕事だ。ボコボコにして、サクッと諦めさせて、サクッと3ヶ月分の生活費をもらう。


 オレは送られてきた住所を頼りに、電車に飛び乗った。

『面白い!』

『続きが気になるな』


そう思ったら広告の下の⭐に評価をお願いします。面白くなければ⭐1つ、普通なら⭐3つ、面白ければ⭐5つ、正直な気持ちでいいのでご協力お願いします。


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