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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

過去縛り

掲載日:2026/02/22

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 先輩は、人はいずれ時間を支配できるようになると思いますか?

 いえ、最近はうちの文芸部だとタイムスリップとか、パラレルワールドものが隆盛の時期でして。ちょーっと食傷気味な感じがしているんですよ。

 そうもたくさん、いろいろなギミックやガジェットでもって実現していくわけですが、みんなのアイデアに触れていると、ふと実現可能性てどれだけあるんだろ? なんて考えちゃったりするんです。


 クトゥルフ神話のイスの偉大なる種族は、時間を解き明かしたゆえに「偉大」という称号を得られたとのことですが、もし解明出来たらどのような感じなんでしょうね。

 すべてはまだ起こっていないのに、もう起こってしまったことと把握している。一種のアカシックレコードにアクセスできちゃう感じなのでしょうか? 

 変わる余地なしならすべてを知ってしまっていて、余地ありなら安寧のために絶えず観測を強いられる……う~ん想像は可能でも、自分はなりたくない系の立場ですね、これ。

 今の私たちは未来を知ることは無理でして、時間に対して支配したなんて、逆立ちしても名乗ることはできないでしょう。

 それでも、過去に対して何かを行っていくこと、という手段は廃れずに残り続けている。これもひょっとしたら時間の真実の一端に触れた人のアドバイスがあったからかもしれませんね。

 最近、祖母から聞いた少し不思議な風習の話があるんですけれど、耳に入れてみません?


 祖母の地元には、「過去縛り」というおまじないが伝わっているみたいなんです。

 小さなことから大きなことまで、自分にとって良からぬことが起きたのであれば、それを行うことが推奨されました。

 理屈としては、過去というのは放置したり、忘れたりしていてもいずれ追いすがってくるもの。それを定期的に縛ることで動きを止め、追い付かれないようにするべし……といった感じですね。

 因果応報という言葉がありますが、因を作ってしまった以上、いつかは果がやってくる。どこかで距離を離しておくべき……という概念だとか。

 捉え方によっては、なんとも悪用されそうな考えですが、そこは性善説に期待ってやつでしょうかね?


 やり方として肝要なのは、リボンの用意です。

 女子なら髪に結ぶとか、抵抗なく行いやすいですが、男だったら懐にしまっておくとかですかねえ。じかに肌に触れる位置だとなおグッドです。

 ポイントは、自らの汗をしみ込ませること。この汗のしみ込んだリボンを常日頃、用意しておくのが過去縛りの重要な点なんです。

 リボンですから、これを縛る相手が求められるわけなのですが……祖母の地元で特に対象とされるのが「カエル」だったといいます。

 今でこそ「かえる」という言葉がいろいろと意味を掛け合わせられますし、いわくをつけるにうってつけな生き物のひとつかもですが、昔は「かわず」呼びでしたからねえ。そこまで引っかけられそうにない気がしますが……もしや、名がこう変わることも見越していたんでしょうか、最初の人は。

 一番は生きたカエルがグッドらしいんですが、確保できない場合はカエルをかたどった彫像に巻きつけます。各家でひとつずつは所有しているらしいのですよ。

 ただし、効果は生きたものに比べると劣ってしまうようで。もし間に合わないことがあれば、生きたカエルの速やかな確保が求められるわけです。


 祖母が実際に体験した、過去縛りの例はこのようなものでした。

 まだ10歳かそこらのときで、家に帰ってきたときに、ふと右腕に大きな青あざができているのに気付いたんです。

 どこかぶつけたかな? 特に覚えはないんだけどな? と思っている間に、左腕にも同じような青あざが、いきなり浮かびます。祖母の見ている前で、たちまち染まっていくような勢いで。

 これはおかしい、と思ったときには痛みがにわかに増してきまして。いそいで、ひいおばあさんを呼んだそうなんですね。


「はやく、過去縛りをしな!」


 一見して、ひいおばあさんは祖母に言い、自分はカエルを取ってくると外へ出て行ってしまいます。当時の祖母の家は田園に囲まれた一軒家でして、時期的にもカエルをつかまえやすかったと。

 祖母は自分の髪に巻いていたリボンを、すぐさま玄関の靴箱の上に出しているカエルの木像へ結びつけました。


 急激に強まりつつあった腕の痛みは、いったんはおさまります。

 しかし、アザの色は引っ込むことはなく、痛みもまたじわじわとぶり返してきたそうです。リボンをよりきつく巻けば、楽になるかもと思いましたが無駄な試みに終わりました。

 ひいおばあさんが、ひとつかみほどもあるウシガエルを持って帰ってきたときには、すでに祖母のアザのあたりの皮膚が破れ、真っ赤な血が流れだしている有様だったとか。

 うながされて、祖母はなんとかリボンをウシガエルに巻きなおしたそうです。すると、巻かれたウシガエルの身体には、たちまちタイヤの跡とおぼしき「わだち」が浮かび上がりましてね。身体をすっかり押しつぶしてしまうまで、どんどんと深くめり込んでいったのだそうです。

 代わりに祖母の腕は血が止まるとともに、アザも痛みもみるみる引いていって。ウシガエルがこときれるときには、すっかり元通りになっていたそうなんですよ。


 実は祖母は記憶もないような小さいころに、重機にひかれたことがあったそうで。そのときに両腕をもろにタイヤへ挟まれて、あわや切断といったところまで行ってしまったとか。

 いまこうして両腕が普通に動かせるままでいるのは、ほぼ奇跡的な確率だったということで命拾いしたのですが。その捨てられてしまった過去の因が、こうして本来あるべきだった果を取り戻そうとしてくる。

 ゆえに過去縛りをすべき、ということらしいのですよ。

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― 新着の感想 ―
フラッシュバックみたいなものでしょうかね。ウシガエルくんのおかげですね… (´;ω;`)ウッ… 風習には心理的な効果もあるそうなので、だから長く受け継がれてゆくものもあるのかもしれませんね。
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