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第六夜(3)

ユリウスは執務室で机に向かい仕事をしていた。しかし禍々しい気配を感じ取り顔をあげる。すると部屋の隅に黒髪の悪魔が腕組みをして立ちこちらを眺めていた。


「黒いのの次は白いのか。」


 悪魔はやれやれといった風にぼやく。


「失礼ですが、何かご用で?」

「あぁすまない。リュカの契約している悪魔ガデルだ。お前…ユリウスといったな。行き場のなくなったうちのを引き取ってくれた礼をしに来たんだ。」

「あぁリュカくんの!お礼だなんてそんな。今メイドを呼んでお茶の準備をさせますから客室に参りましょう。」

「茶は良い。もう一人の吸血鬼にも用があってそこでたらふく飲んだ。…あの子はうまくやっているか。」

「それはもう。お店も繁盛しているようで大変助かっています。」

「そうか。それなら良い。…それにしてもお前」


 ガデルは何か気がついたように部屋の中を見渡す。


「どうかされましたか?」


 ガデルの様子に気がついたユリウスは一緒になって部屋を見渡すが当然この部屋はガデルとユリウスしかおらず、特に変わった様子はない。


「お前。悪魔と契約しているだろう。同胞の匂いがこの部屋はプンプンする」


 ガデルはニヤリと笑みを浮かべユリウスに近づき問いただす。


「一体なんのことでしょう。吸血鬼は悪魔と契約しないはずです。」

「しかしなぁ。匂うんだ。特にあの辺りにっ。」


 ガデルが部屋の一点に指を指した途端、ピンク色の煙と共に露出の高いワンピースを身に纏った少女が現れた。


「ちょっと!無理やりやめてよ!ユーリちゃんも隠すの下手過ぎ!」

「お前が隠れるのが下手なだけだぞゾヤ。」

「なんで私のこと知ってるのよ!」

「吸血鬼ほど魔力の強い魔族を作った悪魔ゾヤ。有名だ。」


 ゾヤは悔しいといった風にくるりとユリウスの後ろへ飛んでいき、自分の髪の毛先をいじる。


「さて、もう一度問うがお前たちは契約関係だな。」

「私とユーリちゃんは契約関係じゃなくてただのお友達よ。私が契約しているのは真祖様だけ。」


 ユリウスは二人の悪魔のやり取りをじっと静観している。


「契約関係じゃなかったらどうしてお前たちは一緒にいる?吸血鬼を生み出して尚も共にいる理由はなんだ。さらなる力を与えて何か企んでいるんじゃないのか。」

「別に深い意味なんてないわよ。ただユーリちゃんのお仕事にアドバイスしてあげているだけ。力も与えていないし契約もしていない。真祖様の子孫だから可愛がってるだけよ。」


 ガデルの探りが面倒くさいのかゾヤは語彙を強めて反抗する。そしてそれでも気がすまないのかガデルを煽る発言をし始めた。


「あぁ、あなた誰かと思えば、古参の悪魔ガデルさんね。魔女狩りがあってからすっかり力を与えるのに怯えちゃってる可哀想な悪魔。」

「うるさい!アタシはお前みたいに実験の真似事で人間に強い魔力を与えて魔族を作って回るほど愚かではないだけだ。」


 ゾヤの煽りが効いたようでガデルは怒りを露わにする。


「ユリウス。これ以上強い力を求めても身を滅ぼす以外他ない。早くそいつと縁を切れ。」 

「だから力なんて与えてないし!思い込みが激しすぎるわ!」


 ガデルはユリウスに対して真剣に忠告するがゾヤがユリウスの代わりに言い返す。ガデルはゾヤのその態度に埓が開かないといった様子でソファに座り溜め息を吐く。


「黒い吸血鬼やリュカはこのことを知っているのか。」

「いえ、ゾヤは私の前だけに現れます。」

「その方が良い。吸血鬼と悪魔が関わっていて良いことなんかない。ただでさえ吸血鬼は欲深い生き物だからな。お前は理性を保っているようだが…。目的が見えない以上お前たちもマーク対象だな。」

「魔女専門の悪魔が私たちを監視しようなんてやめてくれません?」


 ゾヤはすっかり気分を害したようで神経を逆撫でる発言ばかりだ。ガデルはそれに対しまた声を荒げそうになったがなんとか耐えた。


「最後に問うが、お前がリュカをここに連れてきたのはなんのためだ。悪魔に唆されて私欲のために呼んだのではなかろうな。」

「いえ、国のためです。私欲ではありません。」


 真っ直ぐな目をしてユリウスは答えるが、ゾヤはそれを見て笑いそうになるのを堪えられない様子でプルプル震えている。ガデルもその様子に気が付いているがもう無視を貫いている。


「まぁ良い。あの子は私の大切な子だ。お前のために犠牲になるようなことがあればお前を殺す。」

「えぇ。決してそのようなことがないと誓います。」


 ガデルは疲れたようにソファから立ち上がると、灰色の煙に包まれパッとその場から消えた。


「悪いことをしたやつを処罰するのは警察の仕事だっつーの。」


 ゾヤはガデルが消えた方角に舌を出す。


「はぁ。悪魔というのはどこまで見透かしているかわからなくて緊張する。」


 ユリウスは先程までガデルが座っていたソファに座り込む。


「大丈夫よ。あいつは何もわかっていない。それにあなたは私を正しく使っているから身を滅ぼすことなんてないわ。私があなたを守ってあげるから。」


 ゾヤはユリウスに覆い被さるように背後から優しく抱きしめた。しかし緑色の瞳は怪しく光っていた。 

 


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