プロローグ
ハロウィンの夜なにかが起こる──…
「ハロウィンって知っているかい。」
初老の全身黒ずくめの女教師が、円形状の教壇を降りまだ幼い子どもたちを前に話始めた。
教室と思われる部屋は壁一面に分厚い本や怪しげな色の液体が入った小瓶、何の動物かわからないがその標本などが並んでいる。
「今から五十年前、人間と魔族は戦争をしていた。私がまだ赤ん坊の頃かねぇ。理由はまぁ色々あるが、神を信じる者と悪魔様を信じる者で領地をめぐり対立したのさ。勝敗はかって?残念ながら決着は着かなかったんだよ。ただ人口の減少を鑑みて戦争は終わったんだよ。そして皆んなが知っているあの門ができた。人間と魔族が今後干渉し合わないためにできたんだね。人間との交流がなくなって輸出入に難はあるが、門で隔てたおかげで得はしている。魔族の魔力の一部は人間の恐怖心が源だからねぇ。悪魔様も良く考えたよ。得体の知れない者、見えない者って怖いだろう?門で我々を隠したお陰で人間たちは恐怖し門に近寄ろうとしなくなった。我々も人間が近寄ってこないし恐怖心を得られるしラッキーだ。でもこの話は人間には内緒だよ。そんなことを知ったら門を侵略してくるに違いないさ。
さて、その門は誰が管理しているかって?それは我が校の優秀な魔女が門番になりラビントス国の軍と一緒に守ってるってわけさ。これで人間がいつ襲撃してきてもこの国へ入ってくることはない。絶対とは言い切れないけどね。あぁ、すっかり話が逸れてしまった。今日はハロウィンだ。魔族には馴染みがないが人間は終戦の記念に毎年祝い合うのだ。そして今年は終戦五十年の節目の年だ。今頃人間界は物凄い騒ぎだろう。きっとあちら側の門番も祭りの警備で人手不足に違いない。そうすると何が起きるか。門を突破しようと愚かな考えをする者が我々《魔族》から出てくるんだ。せっかく門番が争いを抑制してくれているおかげで平和が保たれているのにこんなことが一度でも起これば即戦争さ。賢い君たちなら、人間と平和を保ち続けられるよう勉強に励んでくれ。さぁ今日の授業は終わりだ。明日は変身術の復習をするからね。使い魔を忘れずに。あぁ、空があんなにも赤黒くなっている。きっと何か起こるだろうから早めに帰るんだよ。それでは。」
初老の女教師は話を終えると黒いスカートを翻し、教室後方にある扉へ向かい教室を出て行った。




