98 【異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?】 【完】
天界。一面が白一色の静かで穏やかな空間。白のテーブルと椅子に腰かけて、一人の女神が白いカップに紅茶を淹れて静かに口にしていた。
そこに一人の少女の見た目の天使が現れる。天使はうーんと腕を伸ばしてから、首と肩をぽきぽきと鳴らした。
「あー疲れたー。女神さまー、わたしにもお菓子くださいよー」
「お疲れさまです。どうぞ」
白いテーブルの上のお菓子が載る皿を、女神は天使のほうへと差し出す。天使は空いていた椅子の一つに座ると、さっそくお菓子を一つ取って頬張り始めた。
女神が天使に尋ねる。
「どうでした、下界の様子は?」
「もー大変でしたよー、転生者も王子も恋愛感情に疎かったからー。転生者はまだ自分で気づきましたけどー、王子なんかわたしが言ってようやくだったしー。あんなセリフをマジで言うとは思いませんでしたー」
「ヴォクス家の専属ヒーラーの引き継ぎはちゃんと済ませましたか?」
「後任の人間にちゃんと引き継がせてきましたー。もおー、人間に変装して様子を見るなんて面倒なことさせないでくださいよー」
「まあまあ、紅茶でもどうぞ」
「はあー、承諾しないってことはまたいつか面倒ごとをやらせる気ですねー」
女神は答えずにスルーして、空いていたカップに紅茶を注いで天使へと差し出す。ごくごくと飲む天使に女神が続けて聞いた。
「スクエア=ヴォクスはどうなりましたか?」
「ぷはー。あー、あの人間なら王都から遠く離れた僻地に飛ばされたみたいですよ。勘当じゃなくて追放なのは、せめてもの親心でしょうねー。口説かれた人間達もみんな愛想が尽きたみたいで離れていきましたよー」
「それだけですか?」
「まさか。ヴォクス家の第一継承権は剥奪されて、留学していた弟が跡を継ぐことになりましたし。あの人間が結婚式でわめいていた言葉通り、二十四時間三百六十五日、見張りがつくようになりました。まあ使用人じゃなくて、複数の目玉の使い魔ですけどね。生活もほとんど外出は許可されていないし、お世話も目玉に触手の生えた使い魔がやってるみたいですよ。食料や生活必需品も転移魔法で送って済ましてるようです」
「使い魔ということは、使用人にやらせるのはさすがに酷ということですね。何かあっても大変ですし」
「ですねー。もしも反省して改心したら、見張りは撤去されるかもですけど」
「するでしょうかね?」
「さあー? まあしなかったり、しても浮気性が直ってなかったら『除去』することもやむなしって感じでしたけどー」
「あらあら」
「ま、だから無理矢理にでも反省して改心して浮気性も直さざるを得ないでしょー」
「いますぐに『除去』しないのも、やっぱり親心でしょうかね?」
「じゃないっすかー? 知りませんけどー?」
女神がカップにまた口をつける。天使は次の質問が来ることを予期して待っていたが、女神は聞かずに飲み終えたカップに紅茶を注いでいた。
「あれ? 転生者と王子のその後は聞かないんですか?」
「それは見たほうが早いでしょう」
二人の前の空間上に一つの大きなスクリーンウィンドウが現れた。そこに映像が投影されていく。女神が微笑む。
「少しばかり未来の光景ですけどね」
子宝に恵まれて、忙しいながらも幸せな日々を送るリズとフォースの姿がそこにはあった。
【異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?】
【完】




