97 しっかり掴まっていてください
ヴォクス夫人もまた厳しい目つきで立ち上がる。
「……これ以上婚約者を増やすなと、不特定多数の女性に言い寄るなとあれほど言ったのにもかかわらず、こんなにも……。貴方は本当にどうしようもない人ですね、スクエア」
「か、母さんまで⁉ ちょっと待ってください! これには訳があるんです!」
「ほう、言い訳ですか?」
「そ、そうです! 俺は悪くない! 俺の暴走や密会を止められなかった使用人達が悪いんだ! そいつらは父さんと母さんから俺を止めるように言われていたのにちゃんとずっと二十四時間見張っていなかったんだ! それに女達だってあんな簡単に俺になびくのがいけないんだ! どうせ俺の家柄や金や権力に目がくらんだだけだ! だから俺は悪くないんです! 悪いのは全部そいつらなんです!」
「「…………」」
ヴォクス氏と夫人は無言でスクエアのことを見つめていた。使用人達は座席に座ったまま信じられないといった顔をしていた。招待客達は唖然として口を開けていた。スクエアに口説かれた女性達は夢や幻想から覚めたような顔になっていた。
リズは、まあこの人ならこういうこと言うわよねと思っていた。
やがて、ヴォクス氏が静かに長椅子の間を通り抜けてスクエアへと近づいていき――。
「と、父さ」
その顔を思い切り殴り飛ばした。凄まじい音を響かせながらスクエアが吹き飛び、床を転がっていく。頬が真っ赤に腫れ上がり、白目を剥いたその様子は完全に気絶しているようだった。
真面目な顔でその成り行きを受け止めていたフォースは、真面目なままのその顔で言った。
「……ヴォクス様、エリザベス様。スクエア=ヴォクスの今後の処遇はあなた達にお任せします。……行きましょう、リーゼロッテ様」
「へ……どこへ……?」
「無論、私の住まい、王宮です。私の家族に紹介したいですから」
「しょ、紹介?」
「私がリーゼロッテ様を愛していることを伝えるのです」
「……っ⁉⁉⁉⁉」
いきなりの告白に混乱の極みに達するリズの身体を両腕に抱き上げて、フォースは教会から外に出ていく。
混乱したままの頭で、目をぐるぐるとさせながらリズがやっとのことで言えたのは。
「あ、あのっ、王宮まで歩いていくんですか⁉ わ、わたし重くないですか⁉」
「なるほど、歩きでは時間がかかりますね。では走りましょう」
「そ、そーいうことじゃなくて!」
「しっかり掴まっていてください」
疾風の魔力をまとってフォースが走り出す。リズはぎゅっと彼に掴まり、そして彼は口元に微笑みを浮かべていた。
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