93 女神や天使に匹敵するかのような美しさ
翌日、午前十一時少し前、式場となる教会にはすでに多くの人々が何列もの木製の長椅子に並んで腰かけていた。普段は礼拝のために使われる場所であり、今日は結婚式ということで特別に貸し切られている。
予定では午前十一時に式が始まり、それが終わったあと、場所を移して花嫁花婿ともども来場者達で昼食会を催すということになっていた。その昼食会場にてケーキ入刀や来場者代表によるスピーチなどがおこなわれる予定であった。
「リズさんのご家族の方はギリギリ間に合ったようです」
「……そうですか……」
花嫁の控え室にてリズに声をかけたのはヴォクス夫人だった。
「リズさん……そろそろ時間です。行きましょう」
「……はい」
ウェディングドレスを着て、化粧や綺麗に着飾ったリズが鏡の前から立ち上がる。
スクエアもまた花婿の控え室にすでにいるらしく、そちらには父親のヴォクス氏が訪れていた。しかし夫人がリズのことが心配かつ化粧などの世話をするために訪れたのに対して、ヴォクス氏がスクエアを見に行ったのは逃げないように見張るためだった。
ヴォクス氏も夫人も自分達の長男が素直に結婚を受け入れるとは信じていなかったのだ。しかし結局は、スクエアは特に騒いだり逃げたりもせずに式に参加しようとしていたが……むしろヴォクス氏達にはそれが意外でもあった。
リズの控え室に同じくいたヴォクス家のメイド長とメイド副長が、リズのドレスの長い裾を持ち上げる。夫人が先導するように前を歩き、そのあとをリズ、そして裾を持つメイド長達が続いていく。
「「…………」」
夫人もリズも、なにも言葉を発しなかった。二人だけではなく、メイド長達も。メイド長達は厳粛な場で自分達が無駄なおしゃべりをするべきではないと自制していたからであり、リズはなにも言う気持ちになれなかったからである。夫人に関しては、この場でリズになにを言っても、皮肉にしか聞こえないだろうと思ってのことだった。
『とても綺麗ですよ』
も、
『息子をよろしくお願いします』
も……すべてがリズの気持ちを傷つけると分かっていたから。夫人はなにも言わなかった。
そして午前十一時ちょうど。式場で拡声魔法による司会の声と音楽隊の演奏が響き渡り……その式場の入口にリズ達の姿が現れる。
「綺麗……」
「なんと美しい……」
長椅子に座っていた学園のクラスメイト達や貴族達が感嘆の声を漏らしていく。彼らの言う通り、ウェディングドレスを着て歩くリズはまるで女神や天使に匹敵するかのような美しさだった。
またその美しさは、彼女の表情や雰囲気にも起因していたかもしれない。リズの表情や雰囲気には憂いの陰が差し、だがそれが儚さやいまにも壊れてしまいそうな幻惑的な美貌を表出していたのだ。




